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第2話〜本の内容〜

 私の名前は東空とうぞら沙羅さら

 私が住んでいる町は狭く、ひとつの噂が一日と経たずに広く伝聞するような小さな町だ。

 たとえば、誰々と誰々が付き合い始めた、とかそんなどうでもいいことまで、ほぼ一瞬で町中に広まる。

 そんな町で私は、生まれつき持っていた能力のせいで、幼稚園の頃から恐れられてきた。

 あなたに信じられる? いい大人が、まだよちよち歩きを終えたばっかりみたいな園児を、本気で恐れてるのよ?

 私が町を歩けば、町は一気に恐慌に陥った。

 店は軒並みシャッターを下ろし、親は子供をかばうように引き寄せ、全ての人が私の一挙一動に気をつけている……

 今からしたら、なんて笑える光景だろう。大の大人達が、4歳児の顔色を窺っているのだ。可笑しいったらありゃしない。

 でも、それらは、両親にも当てはまることだった。両親は普通の人間で、なんの力も持っていなかった。

 だから、力を持つ私を、町の人と同じように、いや、それ以上に恐れた。

 私の一言に両親は怯えるばかり。

 ある夜、眠る時、ふと人恋しくなって、手を握ろうと母に手を伸ばした時だ。

 

 「イヤッ!」


 私の小さな手は、簡単に振りはらわれた。

 ……あの頃は、悲しかったな……寂しかったな……

 だって、買い物もできないし、友達と遊ぶこともできないから。

 ……遊ぶような友達なんて、いなかったけどね。

 だって、私が近寄るだけで悲鳴上げてにげだすんだもん、友達なんて……できるわけないよ。

 幼稚園の頃は、能力を恨んだ。なぜこんな能力をつけたの、と神様まで恨んだ。

 友達もなく、叱ってくれる大人もなく、そして、愛をくれる両親もなく。

 私は小学校に上がるころには、すっかり歪んでしまっていた。

 学校で喧嘩をする相手も、本音で話し合う親友もなく。

 次第に、私には能力しかないのだと、思うようになった。

 能力こそが私の全て。能力がなければ生きる価値もない化け物。

 そう、認識するようになっていた。

 ……その頃だろうか。

 私が能力制御の練習をし始め、その過程で能力に人格が宿ったのは。

 私は能力の暴走を極端に恐れた。もし暴走させて、それきり能力が使えなくなったら、と思うと底冷えするような恐怖が身体をめぐるのだ。

 だから私は近くの河原で、練習を始めた。火を起こし、消す。それだけの練習だったが、効果はあった。


 『汝ガ、我ノ主ダナ?』


 起こした小さな火が、しゃべったのだ。


 「……あんた、誰?」

 『我……汝ノ能力……ソノ化身、『不死鳥フェニックス』……汝ノ意識ガ生ミ出シタ、能力ヲ制御スル為ノ、案内人……』

 


 

 それが、私とフェニックスとの出会いだった。
















 「……何、これ……」


 私はいったん読む手を休め、呟いた。

 ここには、物語風に、私の過去が書かれている。

 私を主人公とした、昔の話だ。ルウにも言ったことのない箇所も、克明と書かれている。

 ……何だろう。これ……

 これは無造作に本棚へ置いてあった。つまり、この話を、私の過去を、他人が見ているのだ。

 ……嫌だ。虫図が走る。私の過去を私の許可なしに……!

 憤りと共に、私は再び本を開いた。すぐに燃やしてもよかったが、どこまでが他人に知られているのか、知る必要があったからだ。

 燃やしてやる。読み終わったら、炭になるまで燃やしてやる。

 そう思いながら、もう一度私は物語を読み始めた。















 中学時代になると、さらに私は孤立していった。

 クラスで周りを見ると、みんながみんな楽しそうに話している。

 誰と誰がキスした、誰々が好きか……

 そんな、どうでもいいことばかり、みんな話している。


 『会話ノ輪ニ入ラナクテモイイノカ? 寂シソウダゾ?』


 頭に、声が響く。私の能力の化身、フェニックスだ。

 彼(彼女?)の話によると、私がよりよく能力を理解するために、一時的に作り上げた疑似人格で、完全に能力を理解すると消えるものらしい。

 で、私は小学校2年の時から、中2の今までだから、約6年近くの付き合いになるわけだ。

 しかしその間、私は練習をまったくしていない。

 フェニックスがいる間は、能力の制御を代わりにやってくれるので、暴走の心配がないから、というのもある。

 けれど、ただ単純に、話し相手が消えるのが恐かっただけなのだ。

 今まで、人とまともに話したことなんてなかった。

 だから、話し相手ができて、嬉しかったのだ。

 唯一の、友人。……人かどうかはさておいて。

 (私は大丈夫よ……たぶんね)

 私はいつも、一人でいる。だから、こうやってフェニックスとの会話をしていても、不思議がられることもない。


 『シカシ……汝ハ幼少ノ頃ヨリ、我以外ノ人間ト会話シタコトガナイ。人間ラシイ会話ヲシタノハ、我ガ初メテデアロウ?』


 フェニックスは。さすが私の分身、痛いところを突いてくる。

 (わかってるわ。……でも、私は話せないの。話してはいけないの。それが、決まりなの)

 私は心の中で言う。


 『……ソウカ』


 いつも、フェニックスは私を励まそうとしてくれる。

 ……でも、そんな気遣い、私には無用なのだ。

 私は、火を自在に操る、化け物なのだから。

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