第3世界第1話〜本に囲まれて〜
今回は、サラ視点です。本に囲まれた世界に、彼女とその想い人、ルウは入りました。そこで一体どんな物語が展開されるのでしょう?
もしかしたら短くなるかもしれないこの世界、ごゆるりとお楽しみください。
追伸。感想、ご意見ぜひお寄せください。あなたの一文が僕の勉強になります。よろしくお願いします!
私は、大量の本が並ぶ部屋を歩いていた。ルウとは別れて行動している。どうにも探したい本があるらしい。
かなりの広さがあり、いくつもの棚に本がしきつめられ、壁一面も本。
そう、ここは図書館なのだ。
いや、世界の全てが図書館で構成される、図書世界……なのだろうか。
人は住んでいるのだろうか?
「あの……あなた、ここの住人ですか?」
試しに、そばにいた30代ぐらいの男の人に訊いてみた。
「違うよ。私は異世界を旅する旅人さ。……お譲ちゃん、知らないのか?ここは世界そのものが図書館になっている旅人のための世界なんだ」
「……住人とかは……?」
「死んだらしいよ、全員ね。……でも、代わりにここに住む旅人達も出てきたから滅ばないんだけどね」
世界は、観測者……つまり、人が世界から誰ひとり存在しなくなったら滅ぶ。
扉が砂になって消えるらしい。私はその瞬間を見たことがないけど、以外にあっけないらしい。
「なぜ、ここに住もうとするんですか?」
「ん〜。きっと、ここには危険がないからだよ。危険がないから、弱い旅人がここに逃げ込んできた……って感じだね。まあ、その中でも上下関係ができているから、他の世界と変わりないんだけどね」
弱いもの同士の中でもさらに優劣ができて、そんな関係ができているのだろう。楽園など存在しない、といういい例だ。
「あの、その方たちって……どんな人なんですか?」
もし、それがヤクザみたいな人達だったら、おちおち本を読んでもいられない。
「……いろいろいるけど、気弱なやつが多いよ。いくら威張っていても、力がなさ過ぎて旅を続けられなくなった連中ばっかだから。……ま、用心に越したことはないけどね。まあ、お譲ちゃんぐらいの魔力があったら連中全員が襲いかかってきたとしても呪文一発で片付くと思うよ」
……私の魔力、って簡単に言うけど……
「あなた、私の魔力が分かるんですか?」
初対面の人間に魔力を気取られたことはない。なかったのだが……
「気付いてないのかい? お譲ちゃん、すごい魔力を垂れ流してるよ?」
「え、うそ……」
そんなはずない。私は魔力があるほうではないのだ。
「……もしかして、最近なにか魔力、またはそれに似ているものを増幅させた? 原因はきっとそれだよ」
……あ
「『不死鳥』……」
あいつのせいだ。前の世界で、怒りにまかせて思い出してしまった、私の力、『不死鳥』。
あいつのせいで、私の魔力が、増幅された……?
……今日、問い詰めてやる。
あいつとは、夢の中でしか会話できない。戦闘中となれば違うのだろうが、少なくとも今は話しかけても返事しない。
あいつなら、何でも答えてくれるだろう。私のこと『主』って言ってたし。
「心当たりがあるなら、それだね。……まあ、お譲ちゃんならこの世界の人間に負けることはないと思うから、安心して見て回るといい」
詳しいなあ……この人。きっと、本が好きなんだな。だからこんなにも見聞が広いんだ。
「ありがとうございました」
私は礼を言って、立ち去ろうとする。
「あ、お譲ちゃん」
それを、男の人は止めた。
「何ですか?」
「なにか訊きたいことがあったらいつでも訊きにおいで。私はいつでもこの世界にいるから。この世界の扉は他と違うから、すぐ見分けがつくだろう?」
確かに、この世界の扉は他に扉と違った。
大きさがふたまわりほど大きいのだ。
この違いに惹かれて、ルウはこの世界を選んだ。確かに、この世界なら、何度でも来れるだろう。
「はい。……では」
「うむ」
私は、男の人に礼を言って、また散策を続ける。あの人は、きっと本が好きだからこの世界に居座っているんだろうな。強そうだったし。
「……あら?」
ふと、視線を本棚に向けると、意外なものが目に入った。
……これは……
知らず知らず、私はその本を手にとっていた。
……読んでみよう。いや、読まないと。
あたりを見回し、本を読むスペースがないか探す。
ここは図書館なのだ、すぐに見つかった。
木製の椅子とテーブルの、簡単なスペース。
私は椅子に座り、恐る恐る、ハードカバーのその本を広げる。
知らないうちに、手が震える。
妙に緊張する。
なぜなら………
その本のタイトルには、
『東空 沙羅』
と、あったからだ。
初めての人、はじめまして。
最初から見てくれている人、いつもありがとうございます。
今回から、サラの昔話になります。
彼女の能力のルーツがわかるとかわからないとか。
……では、また次回でお会いしましょう。