雑貨屋「夜露堂」
湿度が高くて嫌ですねぇ……。どうせ曇るなら雨でも降ってくれればいいのに。じめじめするのは好みません。でも、梅雨は好きです。どんよりと空を覆う雲が、止まらない涙を流すような、あの時期。
風情があって素敵だと思いません? 思わない? ……そうですか。それは残念ですねぇ。まぁ、多様ですものね。
でも、私は好きですねぇ、梅雨。何故、ですか。そうですねぇ。雨が降れば人が引っ込むじゃないですか。とっても静か。素晴らしい。
……おや。なんともまあなにか言いたげな目をしてらっしゃる。もちろん、それだけではないですよ。雨の匂い、それに音も好きです。
しとしとと、静かに、でも確かにこの世界を包むあの優しい音。心が落ち着くじゃないですか。何、静かじゃないこともある、と。
だから梅雨が良いのではないですか。柔らかい色合いの紫陽花に、ぽつりぽつりと優しく落ちる水滴なんか、もう言いようも無いほど素敵じゃないですか。……わからない? それは困りました。勿体無いですよ。
しかし、見たところ、あなたはあまり私の話に関心を持たれていないようで。考えが合わないというのは、面白いですが、こういう時には枷にしかなりませんね、まったく。
とはいえ。……おや。ああ、ほら。ちょうど雨が降ってきましたよ。梅雨にはまだ少し早いですが、やはりいいものですねぇ。
困った顔をして、一体どうなさいました? 傘を持っていない? はぁ、それは大変ですねぇ。借してもらえないか、ですか。残念ながらできませんねぇ。あぁ、そう落ち込まないでください。別に貸したくないから貸さないというわけではないんですよ。本当です。
というのも、うちに使える傘がひとつもないものでして。穴の開いた唐傘ならありますが……使いたくないでしょう? ほら、こんなに大きな穴が開いてしまっていては……。え、無いよりまし? あ、ちょっと、あんまり乱暴に扱わないであげてください。壊れてしまいますから。……もう壊れてる? はぁ、まぁ、傘としては、確かに使い物にならないほど壊れてはいますが……。って、ちょっと? その傘でこの雨の中を歩くのは良くないですよ。帰る場所はどこですか? ……おやまぁ、そんな所からわざわざ来てくださったのですか。これは嬉しいですねぇ。何、別に来たくて来たわけでは無い、ですか。いえいえ、これが偶然としてもご縁です。嬉しいことに変わりはありませんよ。
どうです? 雨が止むまで、ここでゆっくりしていきませんか? 雨音の中、本を読むのも、仕事をするのも、趣味に興じるのも、良いものですよ。
そうだ。温かい飲み物と、お茶菓子も用意しましょう。なにか要望はありますか? ここには、大体のものは揃っていますよ。……えぇ、勿論御座いますとも。すぐにお出ししましょう。それまで、ゆっくりしていてくださいね。
……雨の良さが少しでも伝わったら、嬉しいです。
まず、この話を読んでくださってありがとう御座います。いかがだったでしょうか。
雨の日にふっと思いついて形になったものです。初投稿作品なので、テストがてら短めに終わってます。
なんとなくピンとこなかったこともあり、設定したジャンルはちょっと適当です。ご容赦。
完全に自己満足なところもある話ですが、楽しんでいただけていれば幸いです。
最後に、ここまで読んでいただいた方に、心からお礼申し上げます。
もしいつかの雨の日に、再びあなたが会ったなら。その時はまた、不思議な店主とのお喋りに付き合ってあげてくださいね。