最終話 僕のエリス⑪
自分が自分でないようだ。
けして器用ではない僕は、ただ真面目にコツコツと努力し、天邪鬼な相手にも誠実に対応するしかないと思っていた。
これほど強引に、自分の都合を、さも皆の利益になるかのように装って、推し進めるとは。
もちろん、後悔などしていない。
いちばん迷惑を被ったはずのエリスも「こう言ったら失礼ですが、殿下にもそういう面があると知って安心しました」と言ってくれた。目を逸らし、頬を染めて「それはそれで魅力的です」と小さな声で付け加えてくれたのが、実にうれしい。
エリスの示唆を受け、僕自身尽力して、国の内外を問わず、身分を問わず、同世代の有望な若者たちと交流を持てるようになった。
その多くが、王族でも聖女でもなく、彼女に注目していることを、エリス本人は気付いていない。
焦るなという方がおかしい。
エリスは僕のものだ。誰にも渡さない。
子供のように抱きしめて離さず、喚きたいところだが、それではすべてを手に入れることはできないだろう。ぐっと堪えて、思い付く限りの手段を用いる。
僕は戦争屋ではないけれど、この際、自身の魔法の威力を見せつけることも厭わない。
これから外交の舞台に立った時に役立つという言い訳も、まったくの出任せにはしないつもりだ。
ゴールを目前にした騎手のように、僕は周囲と自分に鞭を入れた。
名実ともに、エリスが僕のものになる。
うれしくて、うれしくて、興奮のままに、エリスに無理をさせた。
反省するべきなのに、まったくそんな気にならない自分に呆れる。
そう。これでも、まだ、我慢をしてるのだ。
浮かれてばかりもいられないと、口にしながら浮かれている。
フカラス帝国へ、第十一皇子殿下を訪ねるのに、エリスを妻として伴う。
結婚したからといって気は抜けないけれど、この充足感が大きな自信につながっている。
正式な訪問は、実際に行うまでに時間が掛かる。
訪問の意向を伝え、相手が承知すれば、日程の調整。随行員の指名をするのと並行して、相手を蔑ろにせず、尚且つこちらの威厳も示せる物品の選定をする。
「この頃、食べても食べても…おかしいですわねぇ」
ほっそりと嫋やかなエリスが、小首を傾げて、気づかわしげに僕を見る。
気分の悪さや、だるさなどもなく、食欲は旺盛だからと、自分の体より僕の心配をする。
ただ、君を自分のものにしておきたい、抱きしめて安心感を得たい…ただの狭量な男を気遣ってくれる。
「あの…ハイマン殿下」
懐妊したと伝えられた時のことは、一生忘れないだろう。そう、天にも昇る心地だ。
僕は素直に喜びを伝え、礼を言い、彼女の体を気遣った。
完璧な健康体だと、治療師に太鼓判を押されて一安心。
前例がないわけではないが、少々若すぎるという懸念もないではないから、万全の態勢で臨むよう周囲に命じる。
「務めを果たせず申し訳ございません」
「何を言っているの。王家に嫁いだ者として、これ以上の務めはありませんよ。とにかく今は、自分の体とお腹の子を大事になさい」
母上はやさしく、エリスを労り励ましながら、咎めるように僕を見る。
完全に見抜かれている。
そう。前々から考えてはいたのだ。エリスや僕に魔力の扱いを教えてくれたメテウス殿であれば、心を通わせていない相手とでも、難なく「魔力合わせ」ができるだろうと。
「義兄上、バーランド子爵であれば、立派に務めを果たしてくれるだろう」
「そう、ですね」
安心したように頷くエリス。
帝国の第十一皇子、カイラス殿下との再会を楽しみにしていたのに、可哀そうではあるが、まさか妊婦に旅をさせるわけにもいくまい。
気の毒に、カイラス殿下こそがっかりされるだろうが、魔力なしの汚名を返上できるのだから、それで勘弁してもらうとしよう。
「また、会う機会もあるだろう。それを楽しみに待とう」
「はい!」
彼だけではない。多くの者たちが、エリスに会いたがっている。
「いつになることやら…」
母上が、ぼやかれた通り。
向こうから来る分には仕方がないが、当分の間、僕はエリスを外に出すつもりはないのだ。
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