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69、結婚許可証④


 結果。

 教皇様は、映写機で銀幕に映し出されたジュディ(猫)を、食い入るようにご覧になった。

 十五分が経過すると、すっくと立ち上がって、スクリーン裏に探しに行かれるというお約束もしてくださり、そこに猫はいないと説得する過程で、きちんと話を聞く態勢が整ったらしい。

 怪しがる近習たちを尻目に、教皇様は、その日の他の面会はすべて断って風呂に入り、現役時代の豪奢な衣装を引っ張り出して、完全武装。

 日当たり良好の庭園で、撮影に臨まれた。

 まるで、群衆を前にしたかのような熱い説法に、近習たちは涙を流し、フィルムの長さにぴったり合わせて語り終えた教皇様は、衣装も解かずに、すぐ映写するよう要求。

 あまりに急かされるので、固定(ディテクト)するのを忘れそうになったと、兄は思い出し笑いをしていた。

 何があるかわからないと、予備のフィルムを持って行って大正解。その後、教皇様はまったく同じ内容を二度、撮影させている。

 ダビングという概念がなく、技術的にも無理なので、そうするしかないのだけれど。

 話を聞く限り、教皇の正装は、歌舞伎の女形の衣装に負けず劣らず重いようだ。

 普段の彼は、失礼を承知で言えば、すでによぼよぼされていたから、完全復活されたお姿に、周りの者が号泣。それまでしっかり拾ってしまった音源に、自らダメ出しをされ、翌日、別撮りをすることを決められたのだとか。

 例えば「ハレルヤ」と言ったのを録音し、再生すると「バエウビャ」と聞こえるくらい音質が悪いのだけど、ご本人は甚く感動され(初めは、これが本当に自分の声かと何度も尋ねられたらしい)こちらも、映像と同じく計三本、録音された。

 保存用、観賞(自分)用、人に見せる(聞かせる)用だそうだ。

 なかなかに精神が柔軟な方のようで、聞くと決めればきちんと話を聞き、あっさり結婚許可証を書いてくださったそうだ。

 聞けば、教会の有様も聖女騒ぎもすべてご存じで、しかし、清廉潔白であればこんな地位にはいないと笑われ、はっきり言ってしまえば、彼にとってはすべてが些事だった。

 そりゃ、人の三倍も生きていればねぇ。

 それでも彼のサインがあるということは、第二王子殿下とサンガの結婚は、もう誰にも覆せないわけで、同時にサンガを聖女と認めたも同然。俗世の者たちにとっては大きなことだ。

 それを証拠に、兄はこの功績をもって子爵位を賜り、我がバーランド家は侯爵に陞爵と相成った。

「あのカードを書いたのは誰だね。少女の手のように見えるが」

 第二王子殿下が説明し、兄もまた「その兄です」と挨拶するはめになったらしい。

 土産話を聞いているだけで冷や汗が出るのに、兄曰く「そのうち会いに行くとおっしゃられていたよ」ですって。

 どーしてー!?

 いやいや、これは社交辞令というものだ。はぁ、焦った。

 なにせ御年百十八歳。国を二つも跨いでの旅など無理でしょう。いくら一時的にお元気になられたからといって、いや、まさか、ねぇ?

 それを承知してのことか、なぜか、第三王子殿下と私の結婚許可証まで書いてくださったとかで、ハイマン殿下が大興奮していた!

 結婚しよう、早く結婚しようと、毎日おっしゃるのよ!?

 え、え、ええ。結婚は、もちろんしますけど、まだ学園も卒業しておりませんし、成人していませんし、どう考えても、第二王子殿下とサンガのお式が先であるべきですし。

 不敬を承知で言えば、たとえ教皇様が亡くなられても、その許可証に効力はあるわけで(むしろ遺言として絶対に破れなくなるらしい)なぜ、ハイマン殿下がそこまで焦るのか、よくわからない。

 しかしその後、教皇様は、本当にディーバイ王国に来駕して、私たちの子の名付け親になってくださった。

 享年は百二十九歳。はっきり申し上げて、ばけものです。



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