表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/84

68、結婚許可証③


 王家のお声掛かりであるから、優秀な人材を使い放題なのがありがたい。

 私はさっそく、研究所から帰ってこない兄を訪ねた。

 私が今回注文したのは、手回し活動写真機、映写機、ドラム型の蓄音機だ。

 相変わらず、詳しい構造などわからない。

 「こんな感じ」とあやふやな記憶をもとに絵を描いて、望む機能を口頭で伝えるだけだ。

 それでもこの研究所には、才能あふれる変わり者たちがたくさんいて、王家や聖女、教会などという単語にはまったく興味を示さず、ただ、自分たちのやりたいように手を出し、口を出してくる。

 おかげで三週間ほどで形になったのだけど。彼らが面白くないと思う仕事に遅れが出たとか、出なかったとか。

 私もフィルムを作りましたよ…素になるところだけ。同じ幅、均一な厚さに仕上げた透明な樹脂に、オレンジ色の顔料を塗布するのは兄の役目。

 写真機を作った経験が生きているそうで、しかし、それは軍事機密に指定されてしまったので、どんな魔法かは教えられないが、光による退色を非常に速くするのだと言っていた。お兄様、ぎりぎりどころかアウトです。

 さて、できたはいいけど、いきなり撮らせてくださいとお願いしても、相手は教皇。まず、お付きの方々が許すはずがない。

 デモンストレーションが必要だけれど、はじめて映画に撮られたという事実は、大変価値が高く、今回の大事な取引材料だ。研究員たちに「待て」を教え込むのに、とても苦労したもの。

「教皇様がご自分より先に、フィルムに映ってもご機嫌を損ねない相手といえば、やはり…」

「まあ、そうだろうね」

 兄も同意したので、バーランド伯爵邸にとんぼ返りし、我が家の愛猫ジュディを撮影・録音してもらう。

 活動写真機も蓄音機も、初期段階から手回しではなくなっていたのが、さすがというか何というか。二つを連結させることもできるし、別々に使うこともできる。

 どちらも、以前作ってもらった写真機より大きいけど。

 私は、猫じゃらしでじゃらす係。カメラに写り込まないよう、うっかり声を出さないよう要注意。

 ジュディと遊んでいると、ついジュディの分までしゃべってしまうのはなぜかしら。

 正味、十五分ほどの映像と音声。ジュディは餌をねだる時しか鳴いてくれないので、途中で撮影と録音を止めて、お食事風景に唐突に切り替わるムービーが出来上がった。

 大丈夫よ、きっと! 相変わらずオレンジの単色だけど、とても可愛く撮れているし。動き回ると、なお愛くるしい。カメラワークなんて、まだ気にする人はいないわ。

 作るものは作ったし、扱いに長けているお兄様が同行するから(完成したフィルムが繊細過ぎて固定(フェクスト)するまで気が抜けない)私はお役御免。

 実際、目上の方にお願いに上がるのだから、当人たちが行くのが道理だし、身分的にも何の問題もない第二王子殿下。

 本当はサンガも連れてきたいところだろうけど、偽聖女呼ばわりしている教会の総本山だから、却って心証を悪くしそうだ。

 なんでも、一度目はディーバイ王国の王子だから、二度目は贈り物が合格ラインに達したから、三度めは教皇の娘(庶子)を伴ったから、会っていただけたとのこと。

 三度も機会があって、何故、あの第二王子殿下が要求を通せないのかと言えば、挨拶はしてくださるし、ぬいぐるみの手触りがよいとお褒めの言葉があったし、娘のことも歓迎していたけれど、こちらがお願いを口にしはじめると、年寄の必殺技『聞こえないふり』をなさるらしい。

 ああ、ねぇ。

 ちなみに、すべての国のことに精通していなければ、教皇になどなれないそうで、公式には神聖語を使用されるものの、通訳は必要ない。

 教皇に会いたがる人、贈り物をする人は半端な数ではないから、まず近習が受け取って別室に並べ、その間を通られる教皇の目に留まれば、その贈り主は応接間へと進めるらしい。

 暇を持て余しているとはいえ、その時間をどう使うかは教皇の自由と言われてしまえば、ぐうの音もでない。

 唯一、贈り物にカードを添えることは許されていて、つまり、それはキャッチコピー! めちゃくちゃ重要ではないですか!?

 活動写真機も、映写機も、蓄音機も、珍しいことは保証する。ただ、見たことがないものだけに、見ただけではなんであるのかわからない。

 わからないだけに興味を引く可能性もあるけど、わからないだけに見向きもされない可能性もある。

「え…本当に、私が書いてよろしいのですか?(というか、書かなくてはいけないのですか!?)」

「第二王子殿下も、ぜひ験を担ぎたいとおっしゃって。私も、エリス様のなさったことで、それで駄目なら諦めもつきますわ」

 サンガにここまで言わせて、書からいでか。

『この世界の人として、初めて映画に撮られる栄誉をあなたに』

 少々上から目線っぽくなってしまったが、気を引くならばこれくらいは…ああ、でも、書いて渡してしまってから、だんだん不安になってきた。

 もう取り戻せないのだから、待つしかないのだけれど。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ