7、魔力合わせ②
しかし、一週間ぶりにお会いしたハイマン殿下は、非常にショックを受けたようだった。
「今日も可愛いよ」
がんばって微笑んでくださっているのだとわかってしまう。言いようのない悲しさのようなものを隠しきれていない。
私は、ひどく申し訳ない気分になった。
それによって安らぎを得ていたものが急に変わってしまったら、大人だって大変なストレスに違いない。
私も、バーランド伯爵家の飼い猫、ジュディが痩せてしまったら、ひどく不安になるだろう。
でも、でも、殿下。私も乙女なのですよ?
しかし、その気まずさは、すぐに消えた。
兄からコツを習ったハイマン殿下と(不敬と思ったからか、兄は殿下と額を合わせることまではしなかった)手を取り合い、額を合わせて「魔力合わせ」をすると、一時間後には私は元通り。ふっくらしてしまったのだ。
おおぅ。早まって、洋服のウエストとか袖口とか、詰めなくてよかった。
胸の下あたりにギャザーの入った、上から下へストーンなデザインだから、痩せようが太ろうが、見た目にもあまり問題はないのだ。
見守っていた兄の言によれば、どうやら、互いが持つ魔力の性質上、殿下から私へ魔力が流れる一方になってしまうらしい。
その証拠に、ハイマン殿下は魔力不足で倒れてしまった。
彼の従者のみならず、さすがの両親も大騒ぎしたけど、兄だけはケロッとした顔で「これも魔力量を増やすには効果的な方法なのですよ」と、殿下に適度に魔力を譲渡していた。我が兄ながら、大物ですね。
少し休憩されて、元気を取り戻したハイマン殿下は、「魔力合わせ」の最中に見せた笑顔に負けず劣らずうれしそうな顔をして、お帰りになった。
むぅぅぅ。
殿下のことは嫌いじゃないよ?
むしろ、好ましく思ってる。なんか、ほっとけない可愛さがあるし、いつもおいしいお菓子をくださるし。
でも、なんか釈然としなくて、さっそく兄にくっ付いて「魔力合わせ」をば。
痩せた私は文句なく可愛いし、体が軽くなるのもいい。
どの道、兄が研究所に戻ってしまえば、私の体型も元に戻るのは目に見えている。本格的に仕事をはじめてしまえば、兄は家族のことも忘れがちになるだろうし。
いや、魔法を覚えて、毎日使えば問題ないのかな?
でも、先のことはわからないし、諦めがついたと口にするほど諦めていない私は、せめて、この姿を残しておこうと考える。
トリミングされた肖像画なんてありふれていて、私が一時でも痩せていた証拠にはならない。
「お兄様、写真機ってございませんの?」
中途半端に知っている仕組みを口頭で伝えただけで、兄はそれを作ってしまった。
大人が抱えるほどの大きさで、でも、フィルムと印画紙が一体化しているところはチェキっぽい。
ストロボや、本来必要なはずの薬剤部分は、魔法でなんとかしたあたり、技術屋というより、やはり魔法使い(肝心なところを私がまったく知らなかったせいもある)
仕上がりは、単色な上にオレンジ色だけど、これはこれで素敵。
私は満足したし、兄も面白がっていたし、両親は大いに驚いていた。
記念に家族写真を撮る。
「この写真機とやら、王家に献上してよいだろうか?」
確認する父に、兄も私も即うなずく。
なんとも欲のない家族だが、こっそり母の小皺部分を兄が魔法で修正していた(その後、固定の魔法をかければ、それ以上の変更はできないらしい)のを見れば、これ以上、我が家に置いていても、害がありこそすれ益はない。
王家は、この新しい発明品を大いに喜び、その使用目的を軍事に限定したから、肖像画家の領域を荒らすこともなかった。
法衣貴族である我がバーランド伯爵家は、この功績を持って年金を増額されて、めでたしめでたしである。