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66、結婚許可証①


 各委員会に仕事を振り分けた分、聖女としての活動や、勉学に力を入れることができるようになったと、サンガにお礼を言われた。

「それもこれも、エリス様のおかげですわ。その上、その提案も、私がしたことにしていただいて…」

「お役に立てたのなら、よかったですわ。でも、すべてはサンガ様、あなたの頑張りがあってこそですよ」

 そう。もともと賢く努力家の彼女だが、近頃、さらに超人的だ。

 聖女として浄化をして回りながら、できる限り学園の授業に出席し、生徒会役員を務め、合間を縫って図書館の蔵書を読破し、極めた聖魔法については、むしろ教師に乞われてその性質や効果を教え、共にさらなる魔法の発展を目指して研究中。

 年度末の試験を待たずして、最終学年に進級できたのは、多少の忖度はあるにしても、彼女の実力だと私は思っている。

 これで第二王子殿下と揃って卒業できるわけで、直後、二人は結婚する予定だ。

 でも、問題がある。

 例えば、サンガが他国人であること、後ろ盾がなかったこと、身を守るために学園の入学時期を遅らせたこと、第二王子殿下に他に婚約者がいたこと、魔法が使えなかったこと。これらを小事と錯覚するほど、大きな問題が一つ残っている。

 教会がいまだ、ディーバイ王国第二王子と、モートレール共和国第一王女の結婚を認めていないのだ。

 どこでも、申請してすぐに許可が下りるなど夢物語なので、王家はすでに何度も総本山に使者を送り、結婚許可証の発行を求めている。

 我が国は、どの国より早く死刑の廃止を発表したし、サンガは相変わらず聖女を名乗っていない。

 しかし、第二王子のもう一人の婚約者が、教会の認める聖女アイリーンに(おもね)るまでもなく(教会は表向きは奴隷を認めていないので、一枚岩にはなり得ない)偽聖女が改心するならば、この婚姻を認める()()()()()()と仄めかしている。

 サンガをあからさまに攻撃したせいで、さらに人心が離れたことを一部の教会関係者は認めているようで、さすがに魔女呼びはやめて、それでも往生際悪く、彼女が聖女であることも、その結婚も認めようとしない。

 サンガの感じているストレスは相当なもので、私たちはよくお菓子を食べながら、隠語を使って教会の悪口を言い合った。

 その一方で、粛々と聖女としての実績を積み上げてくサンガ。

 物語などでは、教会で治療を受けるシーンがあるけれど、現実でそれを担っているのは、在野の治療師だ。

 治療(ヒール)に連なる魔法は、じつは水属性。人体の七、八割が水分であることを考えれば、別段おかしな話でもない。

 おかげで、聖魔法を妄信する教会に取り込まれることなく今日に至ったのだから、何が幸いするかわからない。

 魔法が使えることからもわかる通り、彼らは一応貴族なのだけど、この辺は緩いというか、都合のよい法の解釈がなされている。

 彼らの子供が治療師になれれば、統治者としては都合がよい。しかし、魔力の属性が親に似る確率は低く、治療師が激減してしまった時代があったらしい。

 職業柄、多くの者に魔力で触れる彼らは、よほど感度の悪い者でも、相手の持つ魔力の属性が、自分と同じかどうかくらいはわかる。

 これはと思う水属性の魔力の持ち主を見付けると、王家に報告。綿密な調査が行われ、問題がなければ、養子もしくは弟子とすることが許される。

 彼らは、準騎士に叙爵されることを前提に、「魔法の種」を賜るというわけだ。

 領地も年金も与える必要のない、一代限りの名ばかり貴族。王家にとって、これほど都合の良い存在もないから、最近は土属性の準騎士が、ぞくぞくと誕生していると聞く。公共工事が花盛りだからなぁ。

 閑話休題。

 サンガは、相手が貴族であろうと平民であろうと誠実に向き合っているが、聖女としての名声が高まれば高まるほど、付け届けや、いわゆる袖の下が増える。

 それをすんなり受け取り、有効利用しようと考えた彼女に、私は惜しみない拍手を送りたい。

 清廉潔白を気取ったところで、お金がなくては何もできないもの。

「お気遣い痛み入ります。多くの方々のために役立てさせていただきますわ」

 それは、見返りを求めてのことに決まっているのだけど、聖女にこう言われてしまってはね。

 もちろん、サンガは嘘は言っていないし、相手の顔と名前をきちんと覚えるので、それで満足する人は意外に多い。

「でも、エリス様、どうしましょう? 民たちのためにしなければならないことが、たくさんありすぎて」

「そうですわねぇ」

 まず、財団をつくって、人を雇うことを勧める。

 私自身、財団のなんたるかもわかっていないのだけど、お金を持っているだけでは意味がないのはわかる。いくらサンガが優秀でも、一人でできることには限りがあるし。

「志を同じくする人がよいでしょう」

「そうですわね。御迷惑でなければエリス様も」

「ええ、参加させていただきますわ」

 賛同者の中に治療師がいたこともあって、保険制度もどきを提案してみる。

「メダルでも、ネックレスでも、カードでもよいのです。それを数百円で買ってもらいます。聖女の存在を身近に感じ、心安らかに過ごすためのお守りですね。可能であれば、一年に一度、買い替えてもらうとよいでしょう。病気や怪我をした時、それを持って治療師にかかれば、治療費が無料、もしくはとても安く済むという仕組みです。お守りを買った本人だけでなく、家族も使えるようにすれば、より気軽に治療を受けられるようになるのでは?」

「薄く、多くから集め、必要なところに届けるのですね。素晴らしい! ぜひ、やってみましょう!」

 若き治療師はそれは熱心で、握って振られた手がもげるかと思った。

 偽造防止を考えたら、結局、私がカーボン製のメダルを作ることに。

 「パペット同好会」の会員や、研究所の研究員にも作り方は教えているのだけれど、いまのところ細かく、まったく歪みのない市松模様にできる者がいないのだ。

 本来は、国家機密に抵触すること。でも、サンガの為になることは、第二王子殿下の為、延いては王家の為にもなることですから。

 デザインは当然、サンガの横顔! 裏側は、薬草をモチーフにしたデザインでよいかしら?

 そういえば、ソフィア二号はどうしているのだろう。

 唯一接触を許されている兄によれば、同化したリッチは、個人的な情報は一切口にしないものの、魔法談義には応じるそうだ。

 純白浄化(ホワイトクリーン)も効かないと豪語したのは、虚勢ではなく、実際にサンガが全力で魔法を掛けても、何の変化もないそうだから、生前はよほど高名な魔法使いか何かだったのだろう。

 自分でも知り得ない魔法の知識を持つゴーレムに、兄は夢中だ。

 ああ。これはもう、絶対に返ってこないなぁ。

 私はようやく諦めがついた。諦めざるを得なかった。

 あの子の分も、ソフィア三号を大事にしよう。



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