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65、過酷な労働②


「ところで、誰もやりたがらない労役についても、心当たりがあるようね? 私は鉱山くらいしか思い付かないのだけど」

 さすがは王妃様。こちらの思惑などばればれだ。

 おかげで、あわよくばと持ち込んだ荷物が役に立つ。

「見ていただきたいものがあるのですが、よろしいでしょうか?」

 王妃様が目で合図すると護衛騎士が寄ってきて、私がドレスの隠しポケットから取り出したものを受け取る。

看破(ディテクト)…問題ございません」

 体調五十センチほどのビスクドールと、彼女専用の数着の着替えが、王妃様の手に渡る。

「あら、まあ、可愛らしいこと。テュロス、あなたも興味があるの?」

 護衛としてはあるまじきことだが、定位置に戻ったものの、人形に視線を残していた騎士が、わずかに顔を赤らめる。

「いえ、申し訳ございません。先日、娘に人形を買い与えたのですが、そのような服の替えというのは考えたこともなかったので」

「ふふっ。安心なさい、後で分けてあげますよ。エリス嬢、よろしいかしら?」

「王妃様に献上させていただいたものです。どうぞ、ご随意に」

「ありがとう」

 振りなどではなく、うれしそうに人形を抱く王妃様。いつも油断のならないイメージが先行するけれど、少女のような微笑みを浮かべて人形をあやす、こんな姿にも違和感がない。

 和やかな時間が流れて、はっとしたように王妃様が顔を上げる。

「…続きをどうぞ」

 ほんのり頬を染めているのが、私が言っては失礼だが、可愛らしい。

「お気遣い痛み入ります。そちらの人形は、王家にもすでに認められている作家の手によるものですが、そちらのドレスを作ったのもまた、王妃様もご存じの者です。やわらかなテディベアを作った少女を覚えておいででしょうか?」

「もちろんよ! ロッテのことね」

「はい。二人を引き合わせましたところ、意気投合いたしまして、この度、着せ替え人形として、そちらのドレスと合わせて売り出すことになりました。もちろん、ばら売りもいたします」

「それもあなたのアイデアなのね?」

「…はい」

 ロッテの作るテディベアやクッションは、相変わらず人気がある。この着せ替え人形も、間違いなく当たるだろう。ただし、貴族の令嬢や、景気のよい商家の息女限定で。

 ロッテは、自分と同じように孤児院の子供たちに、満足のいく衣食住と職を与えたいと奮闘しており、また、自分の作るものを(いずれはドレスや作業着も)平民たちが気軽に買える日がくることを夢見ている。

 ただ、それには材料、特に生地が高すぎる。

 それらを安くするには、なるべく人手を掛けず大量生産することだ。

「まず、自動織機を作ってみることにしました」

「自動、なんですって?」

「既存の機織り機に、ゴーレムを掛け合わせただけのものですが」

 これはさすがに現物を持ち込むわけにはいかなかったので、簡単な図面を先程の護衛を通して提出する。

「縦糸を張ったり、切れた糸の補充をすぐに行わなければなりませんので、相変わらず人手は必要ですが、布地の生産量が、現在の三倍から五倍になると予想しております」

「あら、ゴーレムと言っても人型ではないのね」

「あ、はい。そのような形にすることもできますが、必要な機能だけであればより安く済むかと」

「ふふっ。続けてちょうだい」

「はい」

 ゴーレムを動かす魔法陣の作成には、記録(メモリ)の使い手、マノーン嬢が全面協力してくれている。

「動力源はクズ魔石を圧縮して固めたもので、どんな属性の魔力でも充填することが可能です」

 これは「パペット同好会」のロックゴーレムを自分の手足のように動かす、凹先輩に頼んだらできた。

「あなたには、たくさんの協力者がいるのね」

 図面に記載した名前を見逃すような方ではない。

「はい、ありがたいことです。しかし、私自身は間抜けなことに、機織りにだけ効率を求めても、肝心の糸がなければ布を折ることはできないのだと、自動織機が出来上がってから気付きました」

「まあ、オホホッ」

「オホホホッ」

 次に作った糸車は、記憶が定かでないので結構苦労した。こちらは完全に手動だ。でも、こちらの世界のように(前世でも昔はそうだった)独楽みたいな道具を使うよりは、断然早いと思う。

 こちらの図面には、数枚の提案書を合わせて提出する。

「そして、これを作りましたら、紡ぐための綿や麻、繭が大量に必要なことに気付きまして、それらを作るには広い、綿花や麻、桑の畑が必要で、その中でも特に綿花を育てるには大量な水が必要だと聞きますし、また、その他の畑を水害から守るためにも、護岸工事をし、水門を設置し、遊水池やため池を造り、可能であればダムを建設するべきだと思い至った次第です」

 退屈される前に、無駄なく報告をと情報を詰め込んだら、さすがの王妃様も、珍しくぽかんとしたお顔をなされて、惰性のような動きで書類を捲る。

「…この終いに載っているのが『ダム』ですか? 山間部の地形を利用して? こんなことが本当に可能なのでしょうか。しかし、可能ならば、これは、麦や米の生産量にも、その他の産業にも大きく関わってきますね」

「左様でございます」

 説明する方もされる方も、疲れたように溜息を吐き、王妃様の合図によって、侍女に紅茶のお代わりを注いでもらって一息ついた。

「ふっ、ふふふっ」

 真顔を保っていた王妃様が突然、笑い出したので、私もお付きの人たちもびくりとする。

「あの…」

「エリス嬢は、本当に規格外ね。私、いつも楽しみでならないの。よく、私の予想を上回ってくるのですもの」

「お褒めいただき?光栄です」

「ふふっ。心配しなくても、ちゃんと褒めていますよ。これらをつくる、どれもが過酷な労役で、人手がいくらあっても足りないのですから、咎人だからといって処分している場合ではないわね。すべてを有効に使わなくては」

 おおぅ。奴隷はダメでも、強制労働はオーケーなのですね。

 それからしばらく、王妃様と実際に人形の着せ替えをして遊び、「後は、私に任せておきなさい」というお言葉に甘えて、私は肩の荷を下ろしたのだった。

 ほんと、話しているだけで疲れたもの。

 後日、ハイマン殿下経由で話を聞いたことには、やはり、まずはダム工事からはじめるそうだ。

 すべては、安く生地を手に入れるために!

「また、国家事業だね」

 ハイマン殿下が、呆れたような感心したような調子でおっしゃっていた。



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