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63、アンプル


 その日は休日だったのだが、アンプルのサンプルができたと連絡があったので、自家用車に乗って、研究所にいる兄を訪ねた。

 そこには第二王子殿下もいらして、「偶然、遊びに来ていたのだ」とおっしゃったけれど、待ち構えていた感が拭えない。でも、こちらはそれを指摘できるような立場にないし。

 この世界では新しい、この容器は、密閉性という点においては断トツなので、第二王子殿下も熱心に質問し、兄と私の説明を聞いてくださった。この人に興味を持ってもらえたら、一般への普及が保証されたも同然だ。

「じつに有意義だった。ところで、エリス嬢。他でもない、私の主導する生徒会へ参加してもらえないかと思ってね」

「お声がけいただきまして光栄です。微力ながら、誠心誠意、務めさせていただきます」

 なるべく活動日数を減らしたいと考えながら、どの口がと自分でも思うけど。

 満足そうに頷かれた第二王子殿下から、さっそく御下問がある。

「我が兄は伝統を重んじた生徒会運営を行い、私も、他の委員もそれに倣って活動をしてきた。この度、君以外ではもう一人人員を入れ替えるが、彼は運営費の経費削減に努めることになるだろう。他は例年通りで、新たな案は出そうにない。そこでバーランド嬢、腹案があるならば聞いておきたい」

「あ、はい」

 突然のご命令に、内心あわあわしたけど、いろんな委員会を作ったらどうかというのは、すでに考えていたことだから、まず、それから話しはじめる。

 兄は同席してくれてはいるけれど、ポケットから紙の束とペンを取り出して、完全に自分の仕事をはじめている。

「これまでの、一つの事案に対して一々人員を集め、実行させる方法では時間も掛かりますし、事が成れば解散してしまうので、せっかく経験によって得られた知識の蓄積が難しく、また次に似た事案に取り組む者への情報伝達も不十分であると思われます」

「我々が直に監督し、後に報告書も提出させているがな」

「はい、確かに…」

 そうやって、すべてのことに生徒会役員が関わっているから、全然、仕事が減らないわけ。

「例えば大臣のように、専任させよということか?」

 話が早くて助かる。たぶん、彼自身すでに考えていたことなのだと思う。サンガの負担も軽くしてあげたいだろうし。

「はい。あくまで一つの案ですが、風紀委員会や美化委員会、公報委員会というように一年間専任させて、月に一度の報告義務を課した上で、予算を配分し、その範囲内で人事や活動を自由にできる権限を与えれば、責任感も生まれ、新たな意見も生まれやすくなるのではないでしょうか」

「ふむ。上から押し付けるだけでは、判を押したような言動になるのも致し方ないか」

 はっきり非難などなさらないし、できないが、毎年、毎年、例年通りの生徒会運営をすることに、第二王子殿下は倦んでいたと思われる。

 慣例に則った人選をしているあたり、伝統を軽んじるわけではないが、より良いものがあるならばと聞く耳を持ってくれるのはありがたい。

「他に何かあるか?」

 話してる間に、エンジンが温まるように脳が活性化したのか、浮かんでくるものがる。助かった。

「他の教育機関と交流を図られてはいかがかと」

「ふむ。国外か?」

「それもよろしいですが、国内にも軍学校からはじまって、有名無名を問わなければ幾多の私塾が存在します」

 私塾と聞いて、私は真っ先に寺子屋を思い浮かべたけれど、貴族が独自に自領に作った教育機関もこれに当たる。

「身分の差は如何ともしがたいですが、認知されていないだけで、貴族家の血を引く者ばかりが通う学び舎もあるとか」

 知って知らでか、第二王子殿下は一つ二つ頷く。

 本家の跡取りが必ずしも使えるとは限らないし、優秀な人材はどこだってほしい。

「どのように交流する? 試合でもするか?」

「はい。それも一つのよい方法かと。定期的に集まるなり、他校を交互に訪れるなりして、競うもよし、ともに研究するもよし。少人数の交換留学などもよろしいかと」

「交換留学?」

「元の教育機関に席を置いたまま、他の教育機関に通い、その後、元の学年に戻ることができるようにするのです。また、留学に拘らなくとも、よその教育機関で得た単位を持ち越せるならば、より気軽に進路の変更が可能になり、優秀な人材をより早く社会に送り出すことが可能となるでしょう」

「確かに! 性質が合わなかった、思っていたことが学べそうにないと退学する者は一定数いる。また一から入学し学び直すのでは、先の一年なり二年が無駄になる。大抵、その期間は基礎学習であるしな」

 パシッと膝を打ったことからも、第二王子殿下が大いにお気に召したことがわかる。

「言いたいことは、すべて言ったか?」

 こういうご機嫌な表情を見ると、冷徹なとどいう表現は似合わないと思うのだけど。

「校則を定められてはいかがかと」

「校則? 学園内のみ通用する法律だな。ふむ。むしろ学園側が用意し、それに楯突くのが生徒会という構図だと思うが」

「おっしゃる通りです。しかし、先の委員会制度を導入するならば、基準となるものがあった方が、彼らも活動しやすいかと」

 例えばマナー。本来なら互いに譲り合っていれば衝突などしないのだが、人数が増えれば考えの違う者も出てくる。そういう輩に、思いやりがどうの道徳がどうのと説いたところで通じないし、説得するにしても時間が掛かりすぎる。

 法にこのようにあるのでいかん!という方が、多人数を相手にする時はやりやすいのだ。

「ついでに、持たせた権力に規制をかけるわけだな」

「ある程度はそのようなことも必要かと存じます」

 問題は少ない方がいい。その上で、自分たちで考えて行動する環境を提供すれば、生徒会役員の仕事は三分の一くらいまで減らせると思う。別に、やりたくないわけではないのだけど、毎日というのは、考えただけでもちょっとうんざりする。

「すべてがよい。ただ、一人で考えを詰めるのも大変だろう。他校との交流はハイマン、委員会の設置はサンガから提案させてはどうか」

 この場合は、提案という名の命令だけど、私にっても都合がいい。

「はい。お気遣いいただきまして、恐悦至極に存じます。学園規則に関しましては時を掛けた方がよろしいかと存じますので、私の方からご提案させていただきます」

「うむ。頼んだぞ」

 第二の縦ロール、チョコレート色の髪と目をした侯爵令嬢が、私の発案というだけで、真っ向から反対する様が目に見えるようだ。

 第三王子殿下には、さすがに歯向かわないだろう。

 サンガには当然のように対抗してくるだろうが、それ以上にサンガは多くの功績を積み上げる必要がある。

 幸いここに民主主義は存在しない。

 最後は王…もとい、生徒会長の鶴の一声で、実行することになるのだろうなぁ。



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