59、黒の焔②
このベルという女魔法使いによれば、普段は彼らも魔獣と魔物を生息域で適当に分けているが、ダンジョンから魔物があふれ出すこともあれば、魔獣がダンジョンに住み着くこともある。
「厳密に分けようにも、間違いなく見分ける方法は一つだけ」
死体が粒子になって消えるかどうかだと言う。
「魔物は、ダンジョンから魔力を供給されているから捕食をしないという学者先生もいるようだけど、とんでもない! 共食いだってするんですよ?」
男二人がうんうん頷いている。索敵をしつつ進んでいるわけだが、私たちのおしゃべりを煩がることもない。
つまり、オンオフの切り替えが早いのだ。
「来たぞ。前方、距離百、速度中、数七」
警告が発せられれば、ベルもぴたりと口を閉じ、いや、遠距離攻撃の呪文を口にする。
「影縫い」
床に固定された自身の影から離れられないまでも、爪先なり、尾っぽの先をぎりぎり影に残す形で、限界まで暴れまわる魔物の頭を剣の腹で殴る青年ケビン。
「武器でも魔法でも胴体を狙うのが確実だが、余裕があるなら頸椎をやるといい。魔石を傷つけなくて済むし、魔獣の場合は他の素材も以下同文だ。ただし、アンデット系には通用しない」
両手で、がっと魔物の口を開けさせて、剣で刺すよう示す。
ソフィア二号ならば、だいぶ力を加減させても、簡単に魔物の命を絶つが、返り血がひどいのでケビンに叱られた。
すぐに粒子になって消えるとはいっても、あのどろっと濡れる感覚や、臭いはなかなか忘れられるものではないし、魔獣相手であれば討伐を終えるまで、ずっと汚れたままだ。
「見かけによらず君のゴーレムは強力だから、力負けはしないだろうが、安物の武器ほど、小まめに手入れをしなくては駄目だ」
「はい。すみません」
私が素直に反省すると、早めに休憩を取って、その間に手入れの仕方を教えてくれる。
「こう、砥石をすべらせるように。ああ、全部に刃をつけてはいけない。後は油を塗って襤褸布で拭く」
「はい!」
その間も周囲を警戒しているのだろう。盾を放さない中年男は、ダーと呼ばれている。無表情にサムズアップして、彼なりに私を励ましているらしい。
食べ物で魔力が回復できるのでは?と、ベルと大いに盛り上がり、しかし、彼女の実感では、一般的な食物に含まれる魔力は微量で、また非常に吸収率も悪く、よほど魔力に敏感な者でないと自覚できないだろうということだった。
だから、ポーションがあるのだと言われれば納得するしかない。
ほかにも、予備の武器は絶対に必要だとか、狭い通路では断然ショートソードだ、いやナイフだとか、ポーションは多めに各自が持っていた方がいいとか、言われてみれば当たり前のことだけれど、素人が忘れたり軽視しがちなことを、彼らは面倒くさがらずに教えてくれた。
当初、スライムを磔にした変色すらしない金具(彼らはペグと呼んでいるけど、形状はどうみても苦無)が、オリハルコン製だと聞いて、なんて贅沢な接待探索なのだろうと、あらためて思った。




