表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/84

58、黒の焔①


「本日はお日柄も良く。バーランド嬢のせ…ご案内をさせていただきます、探索者パーティー『黒の焔』と申します」

 ダンジョンの入口前で、初めての顔合わせ。

 大剣を背負ったマッチョな美青年と、大盾を軽々持つ、さらにごつく渋いおじさんは、こくりと顎を引くだけで終始無言だ。

 代わりに黒いローブ姿の美女が、たくさんたくさんしゃべってくれる。

「そ、そちらがバーランド嬢のゴーレムですか? さすが優美ですわね、可愛いですわね。き、きっとお強いんでしょうね」

 間断なく紡がれる言葉だけを聞けば、いかにも太鼓持ちのようだが、見た目がクールビューティーな彼女は、間違いなく無理をしている。

 私の大事な相棒、ソフィア二号。

 普段はシンプルな出で立ちなのだけど、事前にドートン先生から「どうにもならなくなったら全力を出して構わないが、なるべくその素材を見られないように」と注意を受けた。

 そこで、私の普段着(付与魔法もりもりドレス)を着せ、ボンネットを被せ、白い仮面を付けさせている。仮面は、切れ長の目に鼻筋の通ったシャープな印象のものを選んでみたけど、どうがんばったところで、ご令嬢のおままごとの相手をするお人形にしか見えない。

「ソフィア二号共々、よろしくお願いしますわ」

「え、ええ、ええ。どーんと泥…いえ、大船に乗ったつもりでいらしてください!」

「はい」

 向こうも仕事だろうからと、私も望まれる貴族の令嬢らしく振舞っていたのだけど。

 第一層のファーストエリアは罠もなく、スライムだけがうろついている。

 前衛の男二人は剣を抜くこともなく、軽く踏みつけたスライムを、苦無のようなものでちまちまと床に磔にしだした。

「ささっ、バーランド嬢、よーく狙って核を破壊してください」

 それ以降は三人共、寄ってくるスライムを蹴り転がす以外は、完全に待ちの態勢だ。

 そう。いくら自由を奪われているとはいえ、スライムは体内で核を素早く動し続けるので、初心者は仕留めるまでに結構な時間がかかるのだ。

 貴族御用達の学園の教科書では、まず雷魔法や毒で麻痺させることを推奨している。

 しかし、戦う御夫人、テミス姉様の手にかかれば「そんなのは魔力や装備品の無駄遣い」でしかない。

 私はソフィア二号を操って、スライムを殴る。

「きゃっ!」

 思わず可愛らしい悲鳴を上げてしまった。スライム、爆散したからね。

「え!?」

「す、すこーし力が強すぎたようですわね、オホホホッ」

 こんな時は笑って誤魔化すに限る。

「…少し?」

 美青年の声をはじめて聞いた。美声だった。

 私はそそくさと、次の磔スライムに向かい、今度は自力で殴る。

 で、ちぇすとー。

 スライムには酸性の体液を持っているものもいるらしいから、どうせ駄目になるならと捨ててもいい鈍らを使ったのだけど。

 切れ味が悪い上に、私の腕も良くないので、押しつぶすかたちになってしまった。

 樹脂製のゴーグル付けててよかった!

 ダンジョン産の魔物は仕留めればすぐ、核やドロップ品(毛皮とか牙とか装備)を残して消えるけど、やっぱり気持ちのいいものではない。

 次の磔スライムを蹴り、ショートソードで一突き。

 うん。今度は上手にできた。

 粉に近い核が一個分、まっぷたつになった核が一個分、切っ先型に窪みのできた核が一個。

 スライムの体液をべっちょり浴びたソフィア二号も、すっかりきれいになっている。

「なっ! 服が溶けてない!?」

 いままでのゴマ擦り猫なで声ではなく、素の彼女と思しき声が出たので、私もお嬢様モードを解いてみる。

「あの、丁寧に対応してもらえるのはありがたいですけど。こういった場所ですし、私は普通に…普段、皆さんがダンジョンに潜っている時のように、接してもらった方がいいです」

「はい…お気遣いありがとうございます。ぜひ、そうさせてもらいます」

 がっくりと肩を落とした美女を、仲間たちが言葉少なに慰めている。

「その、良かったな」「痛々しかったもんな」

 いろいろ思い出されたのか、顔を両手で覆い、身もだえる彼女。垣間見える肌は真っ赤だ。

「あ、あんたたちがちっとも話さないからじゃないよぅ。なによ、全部、私に押し付けてぇ」

 くぐもった声に怨念がこもっていたからか、冷や汗で額を光らせながら、盾を担いだ男が私に話しかけてくる。

「スライムに衝撃を与えれば、一瞬硬直するって、よく知ってたな」

「おい、言葉っ!」

 大剣使いの青年が慌てたように肘鉄をくらわす。

「あ、悪い」

「構いません。先ほど言ったように、普段通りにしていてください」

 なるべくはっきり大きく笑うと、三人が三人共ほっとした表情を見せる。

 そうか、言葉遣いを気にして話さなかったのか。

 復活した黒ローブ美女の、端的な話によれば、ベテランの彼らには、ギルドから毎年この仕事が回されるらしい。

「貴族の子女相手ですから、一応、丁寧な言葉遣いをするよう心掛けてはいるんですよ」

 しかし、ダンジョンの危険と効率のよい攻略法を教えるのが先決と、合理的に教導しながら案内(まだ、とても攻略といえるレベルではない)をしていたら、去年、担当した貴族の子息から、学園長を通してクレームが来た。

 いくら実力のある探索者とはいえ、貴族と比べれば、その地位は低い。

 もし、ギルドから追放などということにでもなれば、多くの特典が受けられず、活動に支障が出るし、他のギルドメンバーに迷惑をかけるのも本意ではない。

 愛想を良くしろ。とにかく褒めたたえろ。教科書に書いてあること以外教えるな。

 これまでの自分を全否定され、それでもめげずに努力した結果が、あのおかしな手もみ状態だったわけだ。

「スライムの特徴について、多少知っていたのは、義理の姉のおかげです。辺境から嫁いできた人なので、魔獣については詳しいのです」

「そういうことなら、魔獣と魔物の違いに絞って、ご説明しましょう」

「はい。よろしくお願いします!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ