56、聖女の御幸
サンガと「魔力合わせ」をしていると、いつもとても穏やかな気分になる。心洗われるとはこういうことかと、よく思ったものだ。
彼女の魔法で魔獣が大人しくなったら、それを見た人たちは感心するだろう。それくらいに考えていたのだけど。
まさか、ただの獣に戻してしまうとは! さすがは魔法の本家本元、恐れ入る。
結局、王都周辺にできた墓守の村は、全部で三つ。
彼らの生活領域に、サンガが純白浄化を掛けて回ったところ、その場所には、その後も魔獣が発生せず、よそで魔獣と化した生き物も近寄らないことがわかった。
その効果がいつまで続くかは要確認。
これまで、虜囚同然の異国の王女に鼻も引っかけなかった教会は、サンガを魔女として糾弾するか、聖女として認定するかで、首脳陣が揉めに揉めていると聞く。
サンガは先手とばかりに、王国内を浄化する旅に出た。
領地持ちの貴族たちにすれば、確かに魔獣の素材(魔石を含む)は大事な収入源だが、やはり、安全地帯も欲しいらしく、聖魔法の使い手への出動要請が後を絶たなかったのだ。
彼女が、領主たちにお願いしたのは、領民たちの墓をつくるための土地と許可。
サンガは、小さな村の嘆願にも丁寧に対応したので、いち早く民たちの間で聖女の呼称が定着。彼女の評判は、ますます高まった。
友達としては、私も彼女について行き、手伝いたいのは山々だったのだけど。
サンガが第二王子妃になるというだけで、すでに王家に囲い込まれたという印象を与えてしまっているのに、さらに第三王子妃予定の私が出しゃばるのはよろしくない。
また、バーランド伯爵家が妬まれることのないように、墓地の森兼、墓守の住宅建設は、他の貴族に任せることにした。
せっかく飛び級した学園を休みがちになっても、レポートだけで教師陣を唸らせるサンガと違って、私は真面目に授業に出ないと、単位が危ういしなぁ。
はじめはポーションでおなかをいっぱいにし、足元がふらふらしていたサンガだけど。実践で鍛えられたその魔法はどんどん強力になり、貴族も民衆もはっきり口には出さないが、「教会いらなくないか?」という空気が流れはじめる。
慌てた教会は、なんとアイリーンを引っ張り出して聖女に認定。
彼女も満更でもないらしく、虹色に輝く髪と目をした、教皇の孫と良い仲になったとかならないとか。
チャンスと思いきや、二コル、報われないなぁ。
王太子殿下は無事に学園をご卒業され、当然、金髪縦ロールも学園から姿を消して、なんとなくほっとしていたら、一大派閥のトップ(学園に限る)の座を引き継いだ侯爵令嬢が、髪を巻いて現れたから驚いた。第二の縦ロールの誕生である。便宜上、チョコ縦ロールとでも呼びましょうか。
彼女が第二王子妃(予定)正室から側室へと、いわば降格されたのは、彼女のせいではないから、気の毒といえば気の毒なのだけど。
いや、王家の役に立たないというだけで罪なのか? うわっ、鳥肌立った。
その上、貴族家当主が後ろ暗いことをしていれば、一族郎党、領地持ちなら領民まで割りを食うのは、どうしようもないことだ。
いまだ尾っぽを掴ませないのか、単に泳がされているだけなのかなんて、一介の伯爵令嬢にわかるはずもない。
そもそも、いま私にとっての重大事は、第三王子ハイマン殿下と目を合わせられないこと。
…駄目! …照れる! …恥ずかしい!
以前だったら、相当凹んだはずのハイマン殿下は、精神的にもずいぶん逞しくなり、あたふたする私を眺めて、うれしそうに微笑んでいらっしゃる。
ちらっと見れば、いまもそう。
気付けば距離が近いし! 手を繋がれてるし! 場合によっては抱きしめられてるし!?
殿下のお顔が、お口が、ああっ、また…。




