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55、炊き出し合戦③


「そこで、ものは相談なんだけど。タコさんたち、お墓が欲しくない?」

「へ?」

 いかにも胆の据わった男が、目を丸くする。

「サンガ様が、誰でも埋葬できる墓地を造ろうとしてるの。王都に住んでる人のってなると、場所は近くの森ってことになるかな? いまは皆、ただ、そのとば口に置いてくるだけらしいけど、ちゃんと埋葬して、墓標を立てるの。そうしたくない?」

「そりゃあ、それができりゃあどんなに…」

 外の活動で知り合った探索者の話では、森に入ると不自然な位置(大抵は木の根元)に子供の頭くらいの石が置かれていたり、中途半端に太い木の枝が突き刺してあったりするのだそうだ。

 彼らとしては、近くにできたダンジョンに潜った方がよほど稼げるのだけど、森に魔獣がうろついている限り、間引きを兼ねたパトロールは絶対に必要で、それをギルドから義務付けられているらしい。

 閑話休題。

 いくら風習(教会と王国の強制)とはいえ、親しい者の遺体を野晒しにするのは忍びないというのが、人の情というものだ。

 タコは後ろめたそうな素振りを見せるが、実質的にもう行われていることを形にするだけで済むのだから、私には責める理由なんてない。

「それでね。墓地を造ったら、それを管理する墓守が必要じゃない? それをタコさんたちにお願いしたいの。ああ、でも浅い所とはいえ、魔獣の住む森だから危険よね? 普段、入る時はどうしてるの?」

「…日の差すとこなら、出てもホーンラビット、はぐれのスプラッシュウルフがせいぜいで、大人たちが警戒してりゃ、なんとか」

「子供は無理かな?」

「いや、奴らの方が逃げ足に関しちゃ、オレ達よかよっぽど素早ぇし、危険には敏感なんで」

 いつもより滑らかに口が回っているから乗り気なのだとは思ったけど、まさか積極的に質問までしてくるとは。

「で、お嬢。いく人くらいを考えていなさるんで?」

 お嬢? あ、私のことか。

「うーん。百人ってとこかな?」

 そんなに!?って感じで驚いたにもかかわらず、数秒後には不満げに唸らずにいられないが、このタコという男だ。

「贅沢な話だってのは百も承知でお聞きしやすが、それに漏れた連中はどうすりゃあいいんで?」

「神様であっても、その舟の大きさには限りがあるんじゃなかったっけ」

 こちらの聖書にも箱舟に類似した説話があって、また、理不尽な目に遭うことにかけては筋金入りだろうから、彼は無理に納得しようとしている。

「ごもっともで」

 それを確認してからというのは、いかにも意地が悪いけど、何でもかんでも寄り掛かられても、こちらもできることに限りがあるからなぁ。

「…でも、今回のことがうまくいけば、サンガ様は、第二、第三の船を用意してくれるから」

 喜ぶより、訝しむのも当然。

「サンガ様ってお人は、なぜ、オレ達なんぞに、そこまでしてくださるので」

「聖女だからよ!」

 高らかに宣言して、胸を張る私。

 サンガは、いまだ「魔法の種」を下賜されるには至っていないから、ちまちまとでも外堀から埋めようという作戦。

 すごい疑いの目で見られたけど、その目にわずかに希望の光が灯っているのは、私の単なる願望ではないはずだ。

「そこへもってきて、ちょうど良いことに、うちのお嬢様が、新しい家を作る実験をしてるのね。生きてる木をそのまま使うんだ。使い勝手はちょっと悪いかもしれないけど、安らげる空間になること請け合い。そのモニター…うーん、なんて言ったらいいかな。試しに住んでみて、実際その住み心地がどうか、どういうところをどういうふうに直したらいいかとか、教えてくれる人たちを探してるの。だから、墓守する人に、試しにその家に住んでもらったらどうかなって」

「…いや、オレの頭じゃ、その家がどんなか想像もつかねぇ。ですが、新しい住みかってのはありがてぇ。多少危険があっても、いまのところに限界を感じてる奴は、世話になりたがるでしょう。ですが、お嬢、その実験とやらが済んだら、追い出されるんでは? そん時には、そいつらには帰る場所もなくなってるってもんで」

「えっと、王国法では、誰も住めないような土地を開拓して住めるようにして半年住んだら、誰も勝手にその人を追い出せなくなるんでしょ?」

 本当はもっと細かく色々な規定があるし、権力者の前にはさして効力のない法だが、スラムの連中の中にも知者がいて、これを盾にいまの場所に居座るようになったという歴史がある。ちゃんと、わずかだけど代表者が税も納めてるって話。

「へぇ、おっしゃる通りで」

「別に、すぐに決めなくていいから。お嬢様も、はじめは同じ学園の方々に頼もうとしてたみたいだし。ただ、その人たちはさすがに泊まり込むわけにはいかないから、実際に長く住んでくれる人たちの方が都合がいいってわけ。とりあえず、いままで皆があれこれ埋めてた周辺にいくつか作っておくから、それ見てから決めたらいいよ。うーん、一週間後くらい?」

「わっかりやした!」

 うんうん、力が入って顔を赤くしたタコは、ほんとに蛸みたい。

 すでに頭の中では人選をはじめているのだろう。うまくいくといいなぁ。



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