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53、炊き出し合戦①


 某侯爵令嬢もいまだ第二王子殿下の婚約者であることに変わりわなく、しかし、自分の立場が危うい(側室に格下げされるようだ)ということは、すでに察しているらしく、派閥のボスである金髪縦ロール共々、何か実績をと焦り、いかにも貴族の令嬢が考えそうな、下層街での炊き出しをすることにしたらしい。

 いや、したいなら勝手にすればいいのに、どうせやるなば敵に優劣を見せつけたいと欲を出したようだ。

 私は適当に逃げようと思ったのだけど、毛筋ほどの瑕瑾も許されないと気を張っているサンガが、挑発に乗ってしまったので、私も渋々承知する。

 はぁ、どうするかなぁ。

 というか、縦ロール、こんなことをしていて大丈夫なのかしら? 王太子殿下は公務をこなしながら、卒業論文の作成に相当の時間を割いていらっしゃるはず。

 それは、出せば単位はもらえるらしいけど、王太子やその婚約者ともなれば、いまだけでなく将来、あの方は学生時代こんなことをしていましたと、何かと引き合いに出されるだろうから。

 私も、現国王陛下と王妃殿下の卒論は、しっかり、がっつり読ませていただいた。宰相閣下はじめ、有名どころの貴族のものも。

 皆様、それぞれ言葉は選んでらっしゃるけれど、おかげでお二人や首脳陣がどういう治世を目指しているのか、大体は把握できたと思う。

 もちろん、理想に燃えている時と、現実に直面してからでは、変わるものも多いだろうけど、根っこのところは変わりようがないから参考にはなる。

 お父様にもそれとなく確認したところ、中層街及び下層街の環境改善のための予算は確かに組まれていて、しかし、末端に届くまでに、ずいぶんと目減りしているようだ。

 それでも、いまのところ、餓死者や凍死者は出ていないから、放置するしかないらしい。

 お父様は、「正しい者が仕事ができれば、いちばんよいのだがなぁ」」と苦笑いしてらっしゃった。

 八割方調べは付いていて、次期国王の事績作りに活用したいところだが、ちょっと突けば機能不全に陥り、一掃したら誰も残らないといったところかしら?

 勝ち誇ったような令嬢二人の後ろ姿を見送っていると、隣でサンガがしょげていた。

「ごめんなさい、エリス様。エリス様は断ろうとなさっていたのに」

「いいのですよ、サンガ様。あなたの分も、私が引き受けさせていただきますわ。もちろん、あなたの担当区域ではあなたの名前を前面に出しますから、安心してください」

「そんな、いえ、そうですね。お願いしますわ、エリス様」

 聡い彼女は、すぐに私の言わんとすることを理解した。

 これはライバルたちの売名行為であると同時に、サンガへの妨害工作と見るべきだ。サンガには、とにかく余計なことをしている時間がない。

 その上、籠の鳥である彼女は、下々のことなど知識としてしか知らない。私もあまり人のことは言えないけれど、彼女よりはマシだろう。

「いつも、エリス様は私を助けてくださる。それに甘えてしまって、そう。気付くと期待している私がいるのです。本当に、ありがたくて…でも、自分が情けないですわ」

「サンガ様は、考え過ぎなのでないかしら。私は、いつも隅っこで適当にこちゃこちゃ何かしているだけ。あなたのように、大きな問題に体当たりする勇気も、実力もないわ。あなたは同じ女の私から見ても美しく、格好いいですわ!」

「エリス様…」

 差し出された手をぎゅっと握る。

「優先順位を間違えずに、適材適所で行きましょう。サンガ様はとにかく早く進級して、卒業すること。それから、教会を何とかすること」

「ええ、そうさせていただきますわ!」

「でも、頑張りすぎないでくださいね。せっかく美人なのに、その目の下の隈はいただけないわ」

「ふふっ。気を付けます」

 近頃、眉根を寄せていることが多かった顔に、やっと自然な笑みが浮かぶのを見て、私もほっとする。

「心配なさらなくても、あの二人がこれで評判を上げることはないと思います。それで一食でも二食でも食べられる人がいるのですから、むしろ害悪になるなんて考えたくはありませんけど」

「エリス様がおっしゃるなら、そうなんでしょうね」

 私程度の人間に、全幅の信頼を寄せるサンガに危うさを感じる。いや、友達としてはうれいし、がんばっちゃうけどね!

「私は適当にさせていただきますけど、サンガ様の名前を出しておいて、もし、失敗したらごめんなさいね」

「それこそ気にしなくていいことよ、エリス様。あなたの思うようになさって! それが私の中では常に正解ですから」

 サンガの言うことなら、私も無条件に信じたいところだ。



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