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44、ただ過ぎる日々①


 私は、自分を責めたり自己弁護したり、ハイマン殿下を責めたり忙しかった。

 それでも、ちゃんとご飯は食べたし、お風呂にも入ったし、いつもどおりの時間に寝た。

 私のお皿から誰が食べたのかわからないうちに、食事は終わっていて、いくらお湯に浸かっても温まった気がしないし、変な夢ばかり見て、寝起きは最悪だったけど。

 今日、ハイマン殿下に会ったら、開口いちばん謝ろうと決めていたのに、殿下はいらっしゃらなかった。

 すでに顔馴染みの護衛騎士が言うには、ハイマン殿下は風邪をお召しになって、寝込むほどではないながら、周囲の者に移したくないとおっしゃられ、従って学園はお休みになられるそう。

 え?

 私だけを送迎するために王家の馬車を回してくださったわけだけど、さすがに殿下が同乗しているわけでもないのに、王族でもない私が通学に使うのは憚られる。

 丁重にお礼を言って、殿下が回復されるまでは、バーランド伯爵家の自家用馬車を使う旨を伝えた。

 …大丈夫なのかしら。

 真っ先に、殿下を心配した自分に腹が立った。

 殿下がそんなことをされるわけがないのに、私に会いたくなくて「逃げたんだ」と思ってしまった。

 その怒りが持続している間はよかったのだけど、午前の授業では魔力を暴走させて、学園長にお小言をもらうし。普段は気にもとめないのに、急に変わってしまった体のサイズを皆にじろじろ見られている気がして、おなかが空いているのに胸がムカムカした。

 ランチを食べるのはやめて、カフェテリアで紅茶だけを頼んでいたら、いつも、私なんかいないように振る舞う金髪縦ロールが、取り巻きを引き連れて、わざわざ側に寄ってきて「あら、よい様だこと。私ほどではないにしても成績は悪くないのですし、マナーも身についているのですから、それくらい節制されていれば、あなたもなかなかに見れますわよ」とか言ってくるし。

 おかげで、余計にむしゃくしゃして、食べたくもないのにケーキやパフェをドカ食いして、体形は元に戻ってしまうし。

 かと思えば、ハイマン殿下がいらっしゃらないにも関わらず、ピンク頭のアイリーンが突撃してきて、「キャハハ! とうとうハイマンに捨てられたの~? ねぇ、いまどんな気持ち~? ねぇ、どんな気持ちなの~!?」とか聞いてくるし。

 もう、あったまきた!

「まるで相手にされていない、あなたにだけは言われたくありませんわ。オホホッ!」

 センスをパラリと開いて、高笑いしてやる。

「な、なによ。ハイマンは照れてるだけよっ! だって、私はこんなに可愛いんだから!」

「いくら可愛くても無駄ですわよ? あなた、可愛くて、華奢で、ざ~んねんでしたわね」

 くすくす笑ってみせると、アイリーンの目が座ってくる。

「…どういうことよ」

「聞きたいですか?」

「誰がっ!」

「あ~ら残念。それではいつまでたっても、殿下のお心は射止められませんわねぇ」

「ムッキー! ちょっと、どういうことよ!? 教えなさいよっ!」

「…内緒にできます?」

 声を潜めると、無防備に寄ってくる。大丈夫かしら、この子。それとも、こういうところが可愛く思われたりするのかしら?

「もう、早く言いなさいよ」

 自分の耳に手を添えて準備万端なアイリーンに、得意げに囁く。

「ハイマン殿下は、私のような女がお好みなのですわ」

「なにそれ! 結局、自慢? 自慢なの!?」

 勢いよく立ち上がって喚くアイリーンに、私は演技でなく顔を顰める。

「話はきちんとお聞きなさいな。私のような!」

 自身のおなかの横で手をひらひらさせて見せる。

「ま、まさか…」

「そのまさかです。毎日、ランチは特盛、お茶の時には、最低ケーキ三種は召し上がることをお勧めしますわ」

 恨めし気に、私の全身を眺めた後、よろよろと去っていくアイリーンの背中には敗北の二文字が。

 憂さ晴らしとしては楽しかったけど、少々どころでなく後悔する私。

 人の趣味・嗜好など、他人が吹聴していいものではない。まして、王族の秘密。

 殿下に申し訳ないし、実際問題、首筋がうすら寒いのは気のせいではないはずだ。



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