40、パペット同好会
さて。殿下のお仕事が済むまで、私は何をしていよう?
図書館で本を読むのもよいけれど、せっかくならば、学園でしかできないことをしたい。
じつは、前々から考えていた。部活動をしてみたい! これぞ、青春の醍醐味。
もちろん大人になってからでも、できないことはないだろうけど。いましかできないこともある。
折しも私は、ウッドゴーレム、ソフィア二号を改良中。
第一目標は、強度をあげることで、ドートン先生の傑作、自動人形の心臓部に使われている物質に目をつけたものの、軍事機密ということで教えていただけなかった。
そこで、私は、無い知恵をしぼった。振り絞った。
どこから手を付けたらよいのかもわからなかった、めちゃくちゃ頑丈なあれは、私の魔力が通ったから、木が原材料であると考えて間違いない。色はマットな黒だった。
木で、黒で、丈夫といったら、炭。ええ。それしか思いつかなかっただけです。
炭って、炭素でしたっけ? 炭素はカーボン? カーボン繊維?
とりあえず、炭化させて、作ってみよう!
できました! めちゃくちゃ試行錯誤して、時間はかかったけれど。
カッコイイ! 黒いマットなウッドゴーレム!! 薄っすら細かな市松模様もオシャレじゃないかしら?
そして、当初の目的を一つ達成。かなり丈夫になった! 無造作に、剣を叩きつけてもなんともないもの!
しかし、これにも欠点はある。全体的に軽すぎて、剣を持たせて一振りさせただけで、バランスを崩してしまうのだ。彼女が繰り出す、打撃も弱い。
金属の芯でも入ればいいのかしら?
周りをカーボンで覆えば、操作にも支障はないはずだし。
試しにこんな感じがいいかな?って形を、木で作ってみる。ちょっとずるをして、自分の体を魔力を巡らせて把握、骨格をそのまま木で表現。まんま理科準備室にある、あれですよ。
鍛冶屋に頼んでもできないことはないだろうけど、私が木を加工するように、金属を加工できる人っていないのかしら?
ドートン先生に相談すると、先生が顧問をしてらっしゃる同好会に勧誘された。
その名も「パペット同好会」。
「錬金魔法を使える者が一人いる。名前は確か、二コル…そうだ、二コル・ハザウェイだ」
意外に、縁って馬鹿にできないものなのね。
同好会の活動場所は、どう見ても倉庫だった。
同格のものが五棟並んで、出入り口にかけられた札を見るに、それぞれ別の課外活動の場になっているようだ。
「エリス様、こちらです」
私と一緒に行動したいというだけの理由で、マノーン嬢が同行してくれている。
「マノーン様、本当によろしいの?」
「はい」
なぜ、尋ねられるのかわからないといった風情で、彼女は頷く。表情は変わらなくとも、仲良くしていると、なんとなく伝わるものがある。
掃除でも荷物持ちでも何でもやるので使ってほしいと言われたけど、彼女も何か楽しめることがあるといいなぁ。
「では、まいりましょう」
「はい。ノックします」
マノーン嬢は意外に強い力で、後付けされたと思しきノッカーを打ち鳴らす。
「…はいはい」
ガチョッと、大きな金属製の引き戸に設置された、普通サイズの扉が開く。
「おっ、おー! 入会をご希望ですか? いや、見学だけでもどうぞ、どうぞ」
「なに!?」
顔を出した男子生徒はと別に、もう一人駆け寄ってくる足音がして、かつて見た漫才コンビのように、凸凹コンビの先輩が、私たちを大歓迎してくれた。
彼らが言うには、女子会員ほしさに、渋るドートン先生を説得して、研究会の名称を可愛らしいものに変更したらしい。
「な!? 言っただろう?」
「おう!」
盛り上がる先輩二人に、マノーン嬢が珍しく眉根を寄せる。
「私はまだしも、エリス様にはご婚約者が」
「いやっ!いや、いや! 誤解しないでくれ!」
「そうだ、僕たちは別にお付き合いしたいとかじゃなくて。そりゃ、できるならばしたいけれども! 無理にどうこうしようなんて考えてないぞ? ただ、花というかな? 潤いがほしいだけなんだ…」
「そうだ。そりゃ、ゴーレムに自動人形、ロマンのある活動さ。でも、何が悲しくて、野郎三人で毎日毎日、コツコツと。いや、ドートン先生を入れて四人か…」
マノーン嬢の言葉を半ば遮るようにして、勢いよく話していた二人は、物悲しい空気を背負って押し黙る。
「先輩方、これより私たち二人がお世話になります。よろしくお願いいたします」
「…よろしくお願いいたします」
「お、おう!」
「なんでも聞いてくれ!」
私が渡り歩いた趣味の集まりにも共通する、身分を気にしないフランクさを感じてうれしくなる。
私の体型についてもとやかく言わないし、そもそも気にする様子すらない。
復活した彼らに、さっそく尋ねる。
「あちらの壁際に立っているゴーレムは、先輩たちがお作りに?」
「そうだ!」
「よくぞ聞いてくれました」
一体は、私と同じ木魔法を主に使用する、背の高い先輩のもの。もう一体は、土魔法が得意な、小柄な先輩の製作したものだという。
どちらも体長が三メートルは優にあり、分厚くごつごつとしていて、いかにも「大きいは正義!」って感じだ。
「まあ! 立派ですね」
これは作るのも大変だが、操るのにも相当の魔力が必要だろう。感心しつつも、私の視線は、それらの隣で鈍い輝きを放つ、等身大のゴーレムに吸い寄せられていた。




