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34、特別授業②


「エリス様、大丈夫ですの!?」

 楚々と歩み寄ってきたサンガは、真っ先に私の身を案じてくれる(けして頭の中身ではない、たぶん)

 すでに、これが教師(人)でないことは理解しているのだろう。

「危険なことはしませんわ。大丈夫ですよ」

 次いで、駆けつけてくれたクラスメイトは三人。

「そこに何があるんだ?」

 この男子生徒とは、私の外の活動の一つ、通称「遺跡を鑑賞し研究する会」で知り合った。彼にこそりと囁く。

「グーリフ、いいところへ。幻影(ミラージュ)がかかっているようだけど、ここに鍵穴があるようよ?」

「なに!?」

 彼は私同様、制服のポケットからモノクルを出して装着。これは看破(ディテクト)の下位互換、見当(レジスター)の魔道具で、貴族の子息ながら探索者を志す、彼の大事な装備の一つだ。

「頼めるかしら」

「おうよ。開鍵(オープンセサミ)!」「霧散(スキャラー)

 将来、盗賊(シーフ)(探索者の役割の一つ)になることを夢見ている彼にとっては、大事な無属性魔法だが、一般的に外聞がよくないので、その呪文(キーワード)を他者に聞かれないように風魔法で散らしたのが、彼の双子の妹。

「ミリー。ありがとう」

「これくらい、任せてちょうだい」

 つんとした調子で頷いて見せる彼女は、髪の長さと制服のスカートを見なければ、兄と瓜二つだ(華奢な美形)

 彼女とは、通称「凧揚げの会」で出会った。彼女は私に比べて所属年数は短いながら、主催者の子爵を風魔法の使い手としてリスペクトしており、本来であれば、私のように遊び惚けている会員たちには思うところがあるようだが、私はあの巨大凧を揚げたという一事によって彼女に認められている。

「お? これは動作のオンオフを切り替える、スイッチにもなっていたようだぞ?」

 グーリフの言う通り、人形はすべての動きを止めている。

「中はどうなっているのかな? 解体(ディスセンブリー)!」

 私以上に興奮しているグーリフの、魔法の行使を止める間もなかった。

 ばらり、とパーツに分かれて落ちた教師に、教室中から悲鳴が上がる。

 しかし、同時に幻影(ミラージュ)も解けたようで、次第に事情をのみ込んだのか、落ち着いていく。

「抗議。パーツは一つずつ取り外し、その様子を記録するべきでした」

 淡々と指摘したのは、マノーン嬢。感情の起伏に乏しく、無表情で、話し方も平坦。

 彼女こそ自動人形(オートマタ)のようだが、紛うことなき子爵家のご令嬢だ。

 記憶(メモリ)の使い手で、見たこと聞いたこと、味も臭いも感触も、二十四時間分すべて事細かに覚えておくことができる。

 彼女は、この無属性魔法(ほかの属性に分類できないものをすべて押し込んでいるだけに思える)とよほど相性が良いらしく、本来であれば、二十四時間を経過した記憶は、魔法不使用時に相当する(一般人並みの)思い出を残して、忘れたという状態になるのだが、彼女の場合は、それが消えずに(いま現在は思い出すことができない)自身の中に蓄積されている感覚があると言う。

 記憶(メモリ)の上位互換に完全記憶(オートメモリ)があり、それに加えて圧縮(プレス)索引(インデックス)の魔法を習得できれば、彼女は、ネットに接続済みのパソコンのごとき存在になれるだろう。

 本人は「私は、その知識を応用することができませんので、エリス様がよいようにお使いください」と言う。将来の私の部下候補、第一号だ。ありがたいこと!

 いまは、分解された自動人形(オートマタ)を前に、彼女もまた動作を停止している。

 このままでは、時計を分解して元に戻せない少年の如くなるかと思われたが、よくよく見れば、各接続部が一目でわかるように揃いの番号が振られている。

「セーフ!」

「ただいまの時点に標置(セーブ)します」

「セーブじゃないよ、セーフだよ!」

 律儀につっこむグーリフに、マノーンは小首を傾げるだけだ。

 二十四時間分の情報をすべて頭から確認するのは骨なので、一日のうちに数ヵ所、目印をつけて、そこから思い出せるのは確かに便利だろう。もうそろそろ、それをさらに細分化した上に、表題代わりの映像がチラ見できる、章立(チャプター)が使えるようになるらしいのだが。



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