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33、特別授業①


 教室の席は階段状になっていて、どこからでも教壇と黒板がよく見える代わりに、教師からも生徒がよく見えるようになっている。

 特に席順の指定はされていないようなので、どうせ授業を受けるならと、サンガと共に最前列の中央に座った。それでも、教壇との間には、七、八人でラジオ体操ができるくらいのスペースがある。

 集団で授業を受けるのが初めてなのは、私ばかりではない。大抵、貴族の子女は、家庭教師をあてがわれて一般教養と魔法の基礎を習うので、同席する者がいたとしても、兄弟姉妹か乳兄弟、近習候補の家来の子女、一人か二人といったところ。

 それぞれ席について、緊張と不安を押し隠すように、多少の雑談などしつつ待っていると、ローブ姿の男が入ってくる。性別以外、顔も年齢もわからない。助手だと名乗った彼に「いまから次の授業の準備をするから」と、廊下に追い出されてしまった。

「なんだぁ?」「どういうことですの?」

 多少の文句は言っても、本格的に逆らおうとはしない令息令嬢たち。

 しっかりと施錠された扉を無理に開けたり、覗き込むようなこともせず、待つこと一分。

「どうぞ」

 促されて入室すると、すでに教壇には、教師と思しき男性が、座って待っていた。ローブ姿の助手はそそくさと去る。

「授業をはじめる」

 あいさつも自己紹介もなく、教卓に開いておかれた教科書を音読し始める教師。

 生徒たちは慌てて着席し、教科書を出して、真剣にその文字を目で追う。

 でも、え? それだけ?

 はっきり言って拍子抜けだ。

 前世でも、今世でも、教師と名の付く人たちは、私の質問をきっかけに話題を展開してゆき、その面白さ、楽しさは、勉強というよりエンターテイメントのようだった。

 だが、この灰色の髪を七三分けにした、中年の男性教師は、時々、顔を上げ、身振り手振りを交えるものの、ただただ教科書を読み上げるだけである。そのまま三十分が経過。

 私も最初は呆れていたのだが、訳のわからない違和感を感じて、その教師を観察するうちに、彼の動きにパターンがあることに気付いた。

 顔を上げる・伏せる、首を横に振る、右手を軽く上げる、両腕を開いて見せる。それがランダムに組み合わされて、くり返されているとしか思えない。講義内容からすれば無意味な動きを、ちょくちょくするわけだ。

 いかにも教科書を読んでいるように俯くも、よくよく見ればその瞳は動いていないし、なにより、一度も教科書のページを捲っていない!

 そもそも、登場の仕方からしておかしかった。

 私は、目を皿のようにして魔力的なつながりを探す(実際に見ることはできないので、正確には感じる)が、外部から操作されている様子はない。

 私は歓喜に震えた。これ、これ! 自動人形(オートマタ)では!?

 制服のポケットの中で、看破(ディテクト)の指輪をこっそり装着(ハイマン殿下からのプレゼントです)

 しかして、それは木目の美しいウッドゴーレムであった!

 じつは、私、数年前に木製人形(ウッドゴーレム)の魔法は使えるようになっている。木の種、もしくは苗木、それらを用いない場合は素材を出現させつつ、人形を形作り、自身の魔力を流し込んで操作するのが、この魔法。

 ただ、この場合、魔力の供給をしなければ、ただの木の人形であり、魔力が満ちたところで、私が操作しなければ動くことはない。

 私は、なんとか()()を自律させられないかと腐心した。

 無理でした。

 兄からの数々の誕生日プレゼントが役立つに違いないという、勘はするのだけど、解析することなど到底できず、ただ搭載しただけでは、ごちゃごちゃ装飾の多い、不思議な案山子にしかなり得ない。

 そのお手本が、いま、ここに! 動力は魔石? だとしたら何個使用? ちゃんと人に見える理由は、幻影(ミラージュ)の魔法? それをどうやって維持してるの? 

 逸る気持ちを押さえて、教師が俯いた隙に、そっと周りをうかがうと、さしものサンガも欠伸を堪え、すでに居眠りをはじめている者もいれば、準備万端持ち込んだ別の本を熱心に読んでる様子の者もいる。

 この読み上げソフトのごとき授業を中断させても、誰も困らないよね?

 私は、息継ぎを表現するためと思しき間(ほんと芸が細かい)に「はいっ!」と挙手をする。

 朗読をやめ、顔を上げる自動人形(オートマタ)いや、教師。

「先生、質問があります」

「教科書を読みなさい」

 おおっ! 即答。

 いや、私の言葉を理解しているわけではないだろう。微妙にかみ合っていない。けれど、授業中の教師としてはぎりぎり問題のない言葉のチョイス。

 新入生がくじけて、引き下がるだけの威力もある。

 俯き、続きを読み始める教師。めげずに質問をぶつける生徒(私)

「先生! 先生は、先生ですか?」

「図書館で調べなさい」

 ははっ。登場したてのAIのようである。

 私は席を立ち、つかつかと教壇に歩み寄る。教卓の向こう側に回ると、生徒たちがよく見えた。

 私が故意に、授業を妨害しようとしているとでも思ったのか、不良っぽい雰囲気の子は、もっとやれ!といわんばかりに目を輝かせ、多くの生徒は、巻き込まれないためにか様子を窺い、あるいは迷惑そうにしている子もいる。

 私をよく知る数人は、私がそんなことをする人間ではないと信用してくれているのだろう。ぽかんとするか、興味深そうにこちらを見守っている。

 これだけ近付いてやっと、微かにではあるが、歯車の噛み合うような音が聞こえる。

「先生は、自動人形(オートマタ)ですか?」

「自分で調べなさい」

 よっし! 予め仕込まれた台詞に違いないけど、言質は取った。

 私は教師の手を握る。

「おお!?」

 声を上げたのは男子生徒の誰かだ。

 私の手を振りほどくことなく朗読を続ける教師。どう考えてもおかしいでしょう?

 試しに魔力を流し込むと、それが何かを阻害するのか、人形は動作のすべてを停止する。しかし、どこかに無理が掛かるらしく、ギチギチと危険な音がしはじめたので、慌てて魔力の供給をストップ。

 するとまた、たんたんと始まる講義。

 しかし、魔力を流した数秒でわかったこともある。

 私がおもむろに、人形の衣服をはだけさせると、女生徒たちから悲鳴が上がった。

 そりゃね! 彼女たちには、暦とした成人男性に見えてるわけで。



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