26、ディーバイ王立学園
ディーバイ王立学園は、王都の郊外にある。
上層街にある自宅からは、馬車で三十分ほど。中層街を抜け、下層街を抜け、城門を出て街道を進むと、長閑な農村風景の中に、城としか表現しようのない建物群が見えてくる。
王城よりもだいぶ無骨なのは、もしもの時は砦として活用することを考えて建造されたためらしい。
敷地奥の別棟には、これまた王立の各種研究機関があり、基本的に部外者は立ち入り禁止。そのため、内部の構造は不明だが、そのどこかに我が兄もいるはずである。
学園の教師として引っ張り出されることもある研究員たちは、ほぼ全員がそこに住んでいると聞く。
しかし、本来、寮は存在しないので、学生たちのうち貴族の子女は自家用の馬車で、平民は乗合馬車で通学する。
登下校時に街道で起こる大渋滞は、周辺の畑で働く農民や、王都に出入りする商人に大変な迷惑をかけるわけだが、身の安全を考えれば致し方ない面もある。見栄? もちろんあるでしょうね。
一応、学園側は、知り合い同士、馬車に相乗りして通学することを推奨している。でも、喜々としてそれに従っているのは、私たちくらいではないかしら?
「ハイマン殿下。お疲れなのでは?」
「面目ない。つい、夜更かしをしてしまった」
自分が悪いように殿下はおっしゃるけれど、本当は部下たちの仕事が滞ることのないように、捌けるだけの書類を前倒しで捌いていたのだろう。
その上、渋滞につかまらないように、一時間半は余裕を見て、我が家に迎えにきてくださった。
事前にそのように誘われていたので、私は準備万端待ち構えていたわけだけど、殿下と違って睡眠は十分(もちろん食事も)
「殿下。学園に着くまでにまだ少し間があります。少し、お休みになられては?」
「いや、せっかく君といられるのに」
無駄な抵抗をなさるので、ふんわりクッションの座席の上でずりずりお尻を横にずらして、軽く膝を叩くと、コンマ一秒ほど葛藤された後、素直に席を移ってきて、横になられた。
いや、照れくさいですよ? 私だって。
いまだ可愛さを残しているものの、格好いい成分の割合が上回ってきているハイマン殿下。
相変わらず、お髪もサラサラ。気持ちいいなぁ。
「到着致しました」
いかにも申し訳なさそうな護衛騎士の声を聞いて、ハッと目が覚める。いけない、いけない。私まで寝ていた。涎、垂らしてないわよね? よし、大丈夫、よかったぁ。
「ありがとう、エリス。だいぶ楽になったよ」
手櫛で髪を直されて、上着の裾をぴっと引っ張ると、それだけでいかにもな王子様の完成である。
「スカートは…大丈夫だね」
殿下が微苦笑されたのは、頭を乗せた部分に皺が寄ったのではと気遣い、たぶん、スカートという単語に照れたのと、私の衣服が皺も汚れも寄せ付けない特別製であることを思い出したから。
「いま一度言うが、エリス。よく似合っているよ」
「ありがとうございます。殿下も、とても格好よろしいですよ」
そう。王立学園では制服を着用しなければならない。
数年前に、何の集まりの帰りだったか、街中でブレザー姿の少年少女を見かけた時は眩暈がしたけど、いまは、そういうものなんだって納得してる(するしかない)
前世では、初めてブレザーを着ることを素直に喜べた。今回も、わくわくしながら袖を通し、でも、ちょっと嫌なことも思い出して、それでも、殿下が喜んでくださっているから、もう、気にしないことにした。
ある商会が二年ほど前に、やっと平民向けの既製服を売り出したくらいで、衣服はいまだ、受注生産されるのが一般的だ。当然、貴族は、制服と言えどもオートクチュール。規定から逸脱しない限り、多少の改造は見逃してくれるらしい。
まあ、私の場合はかなり、やりすぎだとは思うけど。




