25、子供の仕事
ハイマン殿下は、夢を叶えるための準備に余念がなく、この頃は、帝国語まで習いはじめた。
私は、それはあいさつ程度にとどめて(というか諦めた)その国の文化について学ぶことに。
文化の代表は、なんと言っても食文化よね。本場のソーセージとプレッツェルは最高!
いえ。ちゃんとそれが誕生したきっかけとか、その頃の歴史を調べたり、なぜ、いまも食べ続けられているか考察したりもしてるから。
あの時も行き当たりばったり、応急措置の連続で、諜報機関の指揮権を、とっさに「ハイマン殿下へお譲りください」とお願いするなんて、我ながらよくやったと思う。
午前の学習内容が、午後にはすでに、頭からこぼれ落ちているのを感じると、一人くらい、私も借りておけばよかったと思うこともあるけど。どう考えても、宝の持ち腐れなのよね。
あれから数年。
知らないうちに神童とか呼ばれていた(後から聞いた)私も、いまではすっかり平凡な令嬢です。
ただ、交際範囲は広いと自負している。
なにせ、今日は詩の集い、明日はレース観戦と飛び回っているから。
未成年のご令嬢としての、外出制限はどうしたって?
そこは侍女という名の護衛を付けることで解決。え? 文章の流れがおかしい?
いえいえ、間違っていませんよ。辺境から、テミス姉様に付き従ってきたメイドたちが、強いのなんのって。
幼少期から魔獣を狩り(はじめはホーンラビットあたりから)、辺境伯爵家の屋敷に上がってからは、侵入者の排除も行ってきたらしい。
あとは「これは将来、第三王子殿下を妃として支えていくために必要なことなのです」と、お父様とお母様を説得。
おかげさまで、はじめのうちは「なんだ、この幼女は?」って目で見られていた私も、いまでは、性別・年齢関係なく(上は六十八歳から下は五歳まで)たくさんのお友達ができました。
下手の横付きで、へぼなチェスを指す紳士や、刺繍が苦手なご婦人は、貴族の中にもけっこういる!
さすがに毎回、鍋の中身を爆発四散させる自称・創作料理研究家は、他の出席者の顰蹙を買っているけど。
なかでも私のいちばんのお気に入りは、ポニーに乗って行うポロ。
なにせ、グランドゴルフやテニスみたいに、自分の足で歩いたり、走ったりしなくて済むからね。
まあ、これもはじめた当初は、ひどい筋肉痛になっていたけど。
コネづくりの一環としてはじめて、確かにこれは、非力な令嬢の貴重な財産になり得るものだけど、途中からそんなことは意識すらしなくなった。
同じ趣味を持つ仲間は、身分を軽く越えてくる! この一体感がたまらないのよね。
大事なのは、まず自分が楽しむこと。前世では「子供は遊ぶのが仕事」って言われてたくらいだし。
そうやって色々な遊びを極めて(気分、技術的には下手なまま)それにハイマン殿下を巻き込…んんっ! お誘いするのが、私の目下の役目であると自負しているのであります。
ほら。殿下って、放っておくと根を詰めすぎてしまうから。
勉強もよいけれど、たまには息抜きも必要だと思うし、それだけの人生なんてつまらないでしょう?(主に私が)
そんなこんなで日々を過ごすうちに、可愛い甥や姪が生まれ、バーランド伯爵家は、ますます安泰。
この年齢で叔母というのも不思議な感じがするけれど、「エリス姉さま~」と呼ばれて慕われるのは、なかなか(いえ、そんな言い方では足りないわね)とてつもなく幸せなことよ?
いまのところ、ディーバイ王国も平和で、大きな出来事といったら、王都付近の森にダンジョンができたくらい。
さらっと言ってるけど、私はめちゃくちゃ驚きましたよ?
そういうものがあるということは、話には聞いていたけど、特に驚くでもなく怖がるでもなく、むしろ喜ぶ周りの反応に、も一度びっくり。
いくら貴重な資源の宝庫だとは言っても、住まいの近くに魔物の発生源があるというのはね?
せっせと魔石(魔物除けの魔法が付与されたもの)を買い漁っては、屋敷の塀に埋め込ませる私に、両親は少々呆れていたけど。
テミス姉様は、そんな私を笑わなかった。
ハイマン殿下もね(言うまでもないことかしら?)
バーランド伯爵邸の顔とも言うべき、優美な蔦が絡まるデザインの柵状の門扉を、頑丈で無骨な鋼鉄製に替える手配をこっそり手助けしてくださったのも彼。
気付けば、ハイマン殿下と私は、十二歳になっていた。




