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21、勉強会


 数日前。私は、どうやってサンガと遊…勉強会をしようかと考えていた。

 クリアな視界を確保した彼女のマナーは完璧だった。

 これまでは、ぼんやり見えるドレスの色だけを頼りに人を見分けていたので、結果、名前を呼び間違えて、相手を怒らせてしまうことも少なくなかったらしい。

 コルセットやハイヒールは問題がないのに、視力矯正器具(眼鏡)が、女性の美の妨げになる、という思想はこの王国にも根強く残っていて、共和国ではそれがさらにひどかったようだ。

「こんなにチャーミングなのにねぇ?」

「ウフフッ、うれし!」

 残る問題の筆頭は、言葉だ。

 あの日、互いに互いの国の言葉を教え合うことを約束して別れた。

 サンガにとっては喫緊の課題で、週に一度、私がハイマン殿下に招かれたついでに会うのが無難ではあるのだけど、それでは、まるで時間が足りない。

 王子の婚約者だからといって、勝手に王城に行くことはできないからなぁ。

 サンガをバーランド伯爵邸に招く? 一度や二度ならまだしも、その道中や伯爵邸で彼女に何かあったら、即、国際問題にされて、うちが潰される。

 あとは苦肉の策で、「私、勉強できるので」と言い張って、王城の図書館への入館許可をとるとか? サンガだって留学生で勉強が仕事みたいなものだから、図書館に入り浸るのは問題ないだろう。絶対に入れてもらえない書庫とかあるのだろうけど。

 うんうん頭を悩ませていたら、絶妙のタイミングで王妃様から助け船が。

 まあ、最初に私を泥船に乗せたのも王妃様なのだけど。

 正式に王妃様のプライベートなお茶会に(どこかに矛盾があるかな?)呼ばれていったら、お褒めの言葉と共に、ある提案をされた。

「先日はなかなかの立ち回りでしたね。あなたの才には感心させられるものがあります。もう二、三年先の予定だった、妃教育をいまはじめても問題ないように思うのだけど、どうかしら?」

 王妃様の話の通りならば、週に六日、午前中に王城に通うことになるらしい。

「ありがたき幸せ。時に、王妃様にお尋ねしたいことが」

「あら、な~に?」

 いえー、大したことでなくて、王太子妃教育はどの時間帯でなされているのかをですね。

 おおぅ。笑顔が怖い怖い!

「ああ、安心してちょうだい。アレは午後からしか来ませんから」

 なら、よかった。

 ハイマン殿下とのお茶会の時だけ気をつければ、嫌な思いもしなくてすむだろう。

 これまでだって、かち合わないように侍女たちがうまく誘導してくれてたのだろうし。

 日時の目処がたったから、次は、教材をどうするか。

 私は使わなかった、王国語(日本語)の教科書を伯爵家の書庫で見つけて驚愕!

 なに、これ? 新聞の社説集?

 これを幼児にいきなり読ませるの!?

 これを誂えた教育者、出てこい!!!

 言葉のことはじめといったら、「あ・あり/い・いぬ」からはじまって、文章にしても「はしる はしる くるまが はしる」って相場が決まってるのよ!

 こうなったら、作るしかない! 幸いデフォルメされたわかりやすい絵は得意。

 まずは五十音表と、ちょっとした冊子を用意していったら、サンガ嬢は感激を全身で表して、次の日には英語、いやさ共和国語の教科書を自作してきてくれた。「ディス・イズ・ア・ペン」「ハロー・ナンシー」で始まるあれよ!

 二人で大興奮! 本当に楽しい時間よ? 私は、英語が本当は苦手なんだけどね。

 ハイマン殿下との時間を削ることは、考えもしなかった私。

 自惚れるわけじゃないけど、そんなことをしたら、殿下がどうなってしまうかわからない。

 私と過ごす時間が、王太子殿下ほどではないにしても、色々な分野の勉強だけにとどまらず、魔法や剣の訓練、乗馬、ダンス、マナーと日々詰め込まれている殿下の、貴重な息抜きになっていると自負している。

 私自身も、いくらサンガが好きでも、ハイマン殿下とのお茶の時間までは邪魔されたくないなって。もにょもにょ。

 でも、それ以外の時間を使って、二人が仲良くなってくれたのはうれしい誤算だ。

 うん、あまり接近されるのはって、妙にもやもやすることもあったのだけど、あくまでサンガは私の婚約者として殿下を見ているし、殿下は私の年上の友人としてサンガを扱っている。

 礼節を間に挟んだ、分を弁えたお付き合い。

 それでも、第三王子の目が光っているということで、王城の住み心地がだいぶ良くなったと、サンガがこっそり教えてくれた。

 相手の耳に手を添えて内緒話するのが、いまのサンガのお気に入り。だいぶ、王国語もうまくなった。

 一方で、私はジャパニーズイングリッシュから脱却することができす、いつの間にか勉強会に参加するようになっていたハイマン殿下が、ペラペラのネイティブに!

 さすがは、殿下です。



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