19、縦ロールとの再会②
よいしょ。座り直す、私。
「プリーズ、ギブミー、ア、チョッコレート」
「ど、どぞ、召し、お召し?」
「センキュー。いただきますわ」
彼女が回してくれた皿から、一片取って口にする。んん、おいしい! 王城ではほんと皆、いいもの食べてるなぁ。
縦ロールはじめ周りの「さっさと帰れ」の無言の威圧に、逆らう気はさらさらない。
私、自分で言うのもなんだけど、前世でも今世でも、周りから愛されてて、大事に大事に育てられたから、こういう雰囲気って本当に苦手なのよね。
でも、お目付け役がなんのジャッジも下さないところを見ると(後で総評くらいするだろうけど)、これを捌いてこその令嬢であり、王族の婚約者ってことなんだろう。
貴族ってたぁいへん!
王城は広いんだから、なるべく会わないようにするってわけにはいかんものですかなぁ。
ともかく、いまは、助けを求める小動物のような少女を救い出さなくては。
「そうそう、私、道に迷っていたのでしたわ。一時の安らぎをありがとうございます。心優しいレディ。そこでお聞きしたいのですけど、レストルームはどこですか?」
「はぁ⤴」
ちょっと縦ロールさん、噂に聞いたヤンキーっぽくなってますよ?
ああ、よかった。前世ではすでに日本語と化していたけど、こちらでは通じないのね。
私にチョコを恵んでくれた令嬢だけがわかっている。
「は、はい? よ、よろし? ミー、私、行く、いっしょ」
「センキュー。プリーズ。お願いしますわ」
折角の茶会をぶち壊した闖入者を、射殺さんばかりに睨んでくる、金髪・縦ロール嬢(金髪が名字、縦ロールが名前的な感じ?)
いや、最初から壊れてたでしょ。誰一人として、楽しんでる様子ではなかった。
つまり、マナーとは何かってお話よ。互いに心地よく過ごすためのものだって、私は習ったけどな。
「それでは、皆さまごきげんよう」
「ご、き、よう?」
私に置いていかれまいと、慌てて立ち上がろうとする彼女が、顔を顰めて腰を落とす。
近付いて、私は初めて彼女のドレスのスカート部分が、盛大にこぼれたお茶で湿っているのに気付いた。
ひどい!!見た目がどうこう言う以前に、これじゃ、脚を火傷してるに違いない。
それをぐちぐちと、マナーだ言葉だと責めていたあの女は、同じ人間じゃない!
ああ、でも、そんな女や何もしない周囲を責めるより、早く手当をしなければ。
私は、ゆっくり息を吐き切って、静かに彼女の傍らに立つ。
「シャル、ウィー、ダンス」
本当はお手をどうぞと言いたかったのだけど、高校受験のために一生懸命詰め込んだだけの英語は、この七年の間にぼろぼろ零れ落ちてしまっている。
それでも、言いたいことは伝わったらしい。
泣き笑いの表情で、でも、彼女はしっかりと手を伸ばし、だけど、それがすかっと空を切る。
おわっ? 私は慌てて、彼女の手を捕まえた。ぎゅっと握り返してくる彼女の手を引っ張って、立ち上がらせる。
つらいだろうけど、この鬼畜たちの目から逃れるまでは頑張って!
思いが伝わったのかどうか、彼女はそろそろと加減しながら歩き出す。
物陰まで、なんとか歩ききった彼女を褒めてあげたい。
「ユア、グッ、ガール」
思わず頭をなでなで。彼女は彼女で、気持ち良さそうに頭を擦り付けてくるから癖になりそう。
侍女に頼んで彼女を抱き上げてもらい、医務室へと急ぐ。本日、二回目。
若き治療師は、呆れたような感心したような表情で迎え入れてくれて、すぐに診察。
同性同士とはいえ、相手はどこぞのご令嬢。私は待合室に下がろうとしたのだけど、彼女が掴んだ手を離さないので、付き添うことに。
案内してくれた侍女に、着替えを頼むとすぐに動いてくれた。
治療師は、いかにも優秀そうな人だが、言葉の壁は厚いらしく、彼女との意思疎通に苦慮している。
私が簡単に経緯を説明。
「多重治療」
念入りに治療してくれたのがありがたい。
やはり、危惧した通り、彼女は、あのまま放っておけば跡が残ってしまうほどの火傷を負っていた。
先程の侍女が気をきかせて、彼女の専属メイドを連れてきたので、私が別室に移動しても、安心して着替えをしてくれた。
その間に、彼女の事情を侍女に聞く。
王妃様の息がかかっているのか、それともあの連中のやり口が腹に据えかねたのか、侍女の口は滑らかだ。
侍女と一口に言っても、王城勤めができるのは、特に優秀な貴族の令嬢たちだからね。ひよっ子令嬢の私たち以上に、世界情勢にも貴族社会にも明るいのだ。
サンガ・シビユレ・モートレール。我が王国に、属国とされた共和国の姫だそうだ。
着替えのドレスが、彼女にぴったりな理由も納得。彼女、この王城に住んでいるのだって。
いわゆる人質かぁ。それが、本物を自称する令嬢たちの、あの態度の根拠になってるのだね。薄っぺらいのぅ。
通訳できる人も当然いるのだけど、留学を名目にやってきた(いまは学園に入る前の準備期間という扱いらしい)のを論われて、人前では共和国語(英語)を話せない雰囲気をつくられてしまったらしい。
まったく貴族って、姑息!
でも、その共和国って、魔石がたんまり獲れるところじゃなかった?
だからこそ、我が王国が戦争を仕掛けたわけで、まあ、それまでに、一方的にこちらが悪いとは言い切れないことが、色々あったらしいけど。
中国史を題材にしたお話とかだと、こういう虐げられた王族が返り咲くのよね。
王妃様は、現状を把握しつつも、王国も王家一強ってわけではないから、貴族たち(特に王太子の婚約者の実家の公爵家)を憚らなくてはならないのだろう。
って、え? うちのバーランド伯爵家が睨まれるのはかまわないってこと?
やってしまってからでなんだけど、一応、後でお父様に確認しておこう。




