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16、レッドとの遭遇②


 赤毛クンは勉学の面でコンプレックスがあるのか、「オレをバカだと思ってるのか!? 難しい言葉なんか使いやがって」とぶつくさ言いながらついてきた。

 医務室はすぐ近くにあって、若手ながら穏やかな空気をまとった青年治療師が、てきぱきと診療をはじめる。

 私は、やんわり追い出されそうになったけど、気付かないふりをした。

 こんな大事に、少年の半裸くらいで、動揺したりしません!

 質問をされても、自分のいまの状態を格好悪いことだとでも思っているのか。

「剣の訓練をしていて」

 そこで言葉を濁すハイマン殿下。

 赤毛クンはまだ興奮していて「オレは悪くない」と言うばかりだし、近習は身分や立場の問題で遠慮して、私を見る。もちろん、私が言葉に詰まれば、即フォローしてくれるつもりだろうけど。

 私は、白髪の近習から聞いたことも織り交ぜて、自分の所見を伝える。

「殿下はまだ、筋力も体力も、十分にできあがっていないところ、無理に木剣を打ち合ったので、腕や背中の筋か筋肉を傷めたのではないかと心配です。骨にひびが入っていれば激痛が走るでしょうし、どうですか? ハイマン殿下」

「い、いや、それほどではないと思う。少し、腕を上げると痛い、ここのところが。あとは捻ると背中の、そう、ここが引っかかるというか」

「後で腫れますよ? いまは大丈夫と思っていても、夕方になるとズキズキしますよ?」

 私の脅しに気付いたのか、治療師の青年が笑いを堪えるようにしている。それだけ見ても、それほど重症ではないのだとわかって、一先ずほっとした。

「ご令嬢のおっしゃる通りですよ、第三王子殿下」

 該当箇所に手を翳し、「透視(トレース)」で確認。

治療(ヒール)

 殿下の体が薄緑色に光って、それがすーっと消えていく。

「これで大丈夫だとは思いますが、念の為、しばらく横になっていてください」

 頷く殿下の表情は、ずいぶん楽そうだ。

「お気を付けください。適度な運動ならばまだしも、成長には段階というものがございますれば」

「相わかった。世話をかけた」

 素直なハイマン殿下。

 しゅんとした彼に対しては、これ以上言うことはないと思ったのだろう。

 うん。自分の行動を顧みて、見るからに落ち込んでらっしゃるものね。

 治療師は、いままでの柔和な表情をがらりと変えて、所在なさそうに立つ少年を睨みつける。

「な、なんだ?」

「いえ。王城勤めの一治療師として、一言申し上げたくて。まだ、見習いにもなれないとはいえ、王族を守る責を負う近衛騎士団の長、所縁のものが、王子殿下を傷つけるとは、一体どのような了見なのでしょうね?」

 そうだ、そうだ! もっと言ってやって!

「一度きりのものでしたから、私の講義を覚えておいでではありませんか。しかし、それ以降も、あなたがここを訪れるたびに、口を酸っぱくして申し上げてきたことです。体の仕組みを学ぶのは、何も、合理的に敵を倒すためばかりではないのだと、何度申し上げればお分かりになるのでしょうね」

「いや、しかし、鍛えねば強くはなれないのだから」

「十分に成長し、体が出来上がってからならば、確かにそうでしょう。しかし、ああ、どういえばあなたにも理解できるのか。未熟な若木を虐めて、それがまっすぐな木に成長すると思いますか?」

「う、う~ん?」

 わからないらしい。

 自分を棚に上げて、なんてバカな子だろうと思ったけど、ある人を思い出して、私は少し様子を見ることにした。

 古寺の住職は、私を除けば村でいちばん若い、お兄さんとオジサンの間くらいの年齢だった。

 しょっちゅう遊びに行っていた私が言うのもなんだけど、入れかわり立ちかわり人が来て、色々なことを話していく。

 だいたいは、あちらが痛いこちらが痛いということからはじまって、なかなか里帰りしない息子夫婦のこと、年賀状にお年玉を送ってくれと書いてくる孫のこと。

 幼い私には、人の悪口や愚痴は、妙に汚く感じられて、でも、彼はいつも穏やかな顔で聞いている。

 ある日、私はたまらなくなって聞いてみた。

「和尚さんは、どうして嫌なことでも聞いていられるの?」

 答えは、こう。

「僕は知りたがりだからね。どんなおバカさんからでも、何かしら学べるものがあるんだよ」

 他にも「なんでもかんでも口にすればいいってものではない」とか、「生き残ったもの勝ち」とか。

 仏教に関係あるような、ないような独自の格言を、たくさん私に刷り込んでくれた人だ。



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