2、そして転生
つきたてのお餅に、自家製あんこを絡ませて、頬張ってる夢を見た。
おいしい、おいしいよ!
「そうかそうか」と満足げに頷くおじいちゃん。「もっとお上がり」とお代わりを出してくれるおばあちゃん。
ひやりとした顎を拭って、ぱっちりと目を開けたら、見えたのは知らない天井だった。
幼児体型の素っ裸の天使が、パステルな色調で描かれてるとか、どこ、ここ?
「エリスちゃん! エリスちゃん! 気が付いたのね、よかったわ。よ、よかったわぁ」
ほっそりとした超絶美人が抱きついてくる。ぎゅうぎゅう、ぎゅうぎゅう、真っ白な細腕のどこにそんな力が?
苦しいことは苦しいけど、大事な内臓にダメージが及ばないのは、私がぽっちゃりだからかしらね。
さっき涎を拭った手は、天井に描かれた天使以上にぽよぽよしてる。
それは別にいいんだけど、その小ささにびっくりする私。
え、あれ?
「奥様、奥様。本当によろしゅうございました。しかし、いまは、お嬢様を休ませてさし上げませんことには」
おお、助け舟よ。
弛んだ拘束に、大きく息を吸いながら傍らを見ると、メ、メイドですとぉ!?
私の横たわるメルヘンチックな装飾のベッドの脇で、「エリスちゃん、エリスちゃん」ってくり返してる金髪碧眼の美女と、白黒コーデのメイド服を着た女性は同年代。こちらは平凡な栗色の髪に、やはり茶系の瞳だけど。
二人共、彫が深い! のっぺり顔に囲まれて育った私としては、落ち着かない!
なのに、自分の口から洩れた言葉は。
「お、お母さまぁ」
え、はれ? うんうん。そうだよね。このほっそり金髪美人は、私の母親だ。付き添ってるのは、彼女の侍女。
で、私は。
「エリス?」
お披露目間近の六歳にもなって、いまだ自分を名前で呼んでるとか。痛いなぁ。
なんか疑問形になっちゃったのを「私どうしたの?」って質問だと捉えたみたい。お母様が涙を拭いつつ、彼女なりに説明してくださる。
「そうよ、エリスちゃんはやさしい子だから、明日のパーティーのお料理がちゃんとできているか、確認してくれたのよね」
はい、親バカさんです。
真相? ちゃんと覚えてるよ。
私、エリス・ティナ・バーランドは、伯爵家のお嬢様。
色白ぽっちゃりの、それはそれは可愛いらしい子(両親および使用人談)らしいけど、異様に食い意地が張っていて、自分のお披露目パーティーの準備に忙しい使用人たちの目を盗んで、つまみ食いしたマカロンを喉に詰まらせ、あわや死国の川を渡るところだった!
ぶっ倒れた私に気付いてくれたのは庭師じゃないかと思う。庭園の片隅の生垣に隠れて、戦利品にかぶり付いた覚えがあるから。
意識が朦朧とする中、体がふわっと縦に持ち上げられたと思ったら、胃のあたりをぐっと圧迫されて、詰まらせてたお菓子の欠片を吐き出したような。
ちゃんと息を吹き返したのに気絶しちゃうとか、そんなところだけ令嬢っぽいとか、どうなんだろう?