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14、辺境


 本日は、とある辺境伯のお屋敷にお邪魔しております。

 突然なにかと思われただろうが、ここは、私の兄の婚約者のご実家。

 いずれは親戚になるのだし、前もって友好を深めようということで、ご招待いただいたのだけれど、肝心の兄はいない。なぜなら魔法バカで、ワーカホリックだから。

 招待に応じたのは、両親、私、そして、ハイマン殿下。

 何故、殿下が!? と、いちばん驚いたのは私ではないかな?

 「そのような訳で、しばらく辺境に行って参りますので、その間お会いすることができません」と報告した数日後、殿下も招待を受けたということで一緒に行くことになっていた。

 警護の騎士たち、従者たちは、さあ大変!

 もっとも、この辺境伯爵家のご当主は、ハイマン殿下と浅からぬ縁がある。

 なんたって、現王の末の弟であらせられる。王家筋の入り婿ということは、辺境伯家連の中でも筆頭になるのだろうか?

 ともかく、ハイマン殿下にとっては実の叔父様で、実際に会うのは初めてらしいけど、臣下の礼をとりつつ、同じ紫の瞳で甥っ子を愛でているのが、私にもわかる。

 一方、身分的なものもあるけれど、我が両親は辺境伯に頭が上がらない。

「せっかくご招待いただきましたのに、仕事の都合がつかぬなどとは、いやはや」

「お気になさらないでくださいまし、バーランド伯爵。いえ、未来の義父上」

 はきはきとした口調で、話に割って入る娘に、辺境伯も苦笑する。

「当人たちが、すでにわかり合っているのですから。どうぞお気になさらず」

「そうですよ、義父上」

 いまは令嬢然とした服装に着替えているけれど、フルプレートを装着して馬に乗り、領境で出迎えてくれたのが、この女性。兄の婚約者、テミス・ベラ・カルダンス様だ。

「女騎士。か、カッコイイ」

 思わずつぶやいた私に、なぜかハイマン殿下が挙動不審になっていた。

 この美しくも勇ましい女性の母親は、彼女を生んだとはにわかには信じられないほど小柄で、少々無愛想ではあったが、じつは人を気遣いすぎるほど、気を遣う方だった。

「さあ、長旅でお疲れになったでしょう」

 あれよあれよという間に、将来の義理の姉とお風呂に入らされていた。

 脱衣にはまったく恥じらいを見せないのに、「テミス姉と呼んでくれまいか」とおっしゃられる時の照れくさそうな表情が、また魅力的。

 私は即座に快諾して、妹(私)のことは呼び捨てにしてくれるようにお願いした。お兄ちゃんもよいけど、お姉ちゃんにも強い憧れを抱いていたから。

「テミス姉様は、お綺麗ですね」

 女性らしさを有しつつ、アスリートのような肉体美。ため息も出ようというものだ。

「ありがとう」

 あっけらかんと礼をいう彼女は、私の微妙な表情を見逃さなかったようだ。

「エリスは可愛いよ」

「でも、私、太ってますし」

「いや、なに。大事なのは筋肉だよ」

 令嬢の口から出るのに、こんなに似つかわしくない言葉はないだろう。え?と思う間もなく、ムニムニと腕やおなかを触られる。

「うんうん、ちゃんと育ってるじゃないか」

「くふふふふっ」

 くすぐったくて、笑ってしまう。無意識に、彼女の手を避けようとするが、けして嫌なわけじゃない。

「その上、それだけ動ければ、子供用の木剣なら振ることができるだろう。教えてあげようか」

「はい。ぜひ」

 私はすっかりテミス姉様に憧れていたし、いざという時(たとえば魔法が使えない時とか?)動けた方がいいに決まっているので、指切りをして、風呂から上がる。

 これでも昔(前世)は木登りしたり、山道を登ったり、小川を飛び越えたりしていたのだ。いつの間にか、体についた重りに耐えかねて、運動嫌いになってしまっていたけど。いま、それを変える時!

「エリス。うちの母上はけっして悪い人ではないのだが、かなりお節介で、その上、自分の意見を曲げない人だ。幼い君に頼むのもおかしな話だが、何を言われても、君が大人になって許してやってほしい」

「はい」

 よくわからないまま、でも、姉様の言うことだからと良い返事をする。

 その後も何かと彼女がフォローしてくれたおかげで、夕食時、豆腐サラダばかりを勧められても、デザートのケーキが極小でも、笑って許せた。

 高速で魔力を循環させて、痩せて見せれば、一先ず表面上は問題が解決するけど、それは何か違う気がするし。

 ただ、そんな時のハイマン殿下の笑顔が、なぜか怖かったことをここにご報告致します。



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