13、私の装備
魔法が使えるようになって、さらに頻繁に、痩せたり太ったりをくり返すようになった私。
今年は、数ヵ月早く、兄から誕生日プレゼントが送られてきた。
私が太ろうが痩せようがぴったり体にフィットする、伸縮自在のドレス。しかも、上に成長しても、対応可能らしい。
その上、かぎ裂きは自動修復されるし、汚れも臭いも寄せ付けない。
すごい! 助かる!! さすがはお兄様! どうもありがとう!!!
早速、お礼の手紙を送った。「しばらくはあの十着で、十分着回せます」と、注意書きすることも忘れない。
ええ。とてもとてもうれしかったのだけど、ものには限度というものがあります。
謹慎中の兄が、「エリスはどんなドレスが着たいんだい?」と聞いてくるので、相手をしてもらえるのがうれしかった私は、百枚くらいドレスのデザインを描き散らした覚えが。
「新しいドレスだね! よく似合ってる。素敵だよ、エリス」
お会いしてすぐに気付いて褒めてくださったハイマン殿下だけど、いっしょに魔法の練習をしていれば、痩せる私にドレスがついてくるのを、目の当たりにすることになる。
あまりにも驚かれていたので、私は思わず笑ってしまったのだけど、彼の説明を聞いたら、その笑いも引っ込んだ。
これほどの魔法的機能は、ふつう、王や王太子の鎧くらいにしか付与されないのだとか。
「兄が、兄が」と経緯を説明したら、殿下は遠い目をされていた。
しかし、後日、何かに対抗するように「身代わりのネックレス」など贈られた日には……うん。深く考えるのはやめよう。
今日もお菓子が美味しいし、お天気もよい! ありがたや、ありがたや。
魔法の訓練も順調で、簡単な「木工」くらいはスムーズにできるようになったので、目下、ワインの栓を集めて、加工中。
ひと月分のおやつと引き換えに、使用人たちに伝手を駆使して、他の貴族家の使用人や、レストランの下働きからもらってきてもらった。
夏休みの自由研究みたいで、わくわく。一応、ダイエットも兼ねているはずだったのに(私もちょっとは努力をしている)それ以上に、ハイマン殿下がお菓子を用意してくださるから、ねぇ。
集まったコルク栓はそれぞれ、各ワインメーカーの焼き印が押されていて、数個ならば、そのまま集めてしまっておきたい魅力がある。
それをただ粉砕するだけならまだしも、こんな面倒な加工は、手作業だったら絶対にやろうと思わなかっただろう。
私が作っているのは、無数の小さな小さな球体。何に使うのかって?
我は求む! お昼寝に最適なビーズクッションを!!
綿や端切れを詰めたクッションは存在する。馬車のタイヤや、台所用の手袋に使われているからゴムはある。ガラス瓶もある。
しかし、プラスチックや発泡スチロールはない。
あの、人を駄目にする、流動的で軽やかな詰め物を求めて、たどり着いたのがコルク。
シーツを一枚犠牲にして、私の不味い裁縫でも、そこそこのものができあがったのだもの。
迷惑かなぁと思いつつ、大量のコルク製ビーズと、適当な布をロッテに送り付けたら、素敵なクッションと、テディベアになって帰ってきた。
彼女は、すでに孤児院を出て、王都の片隅にひっそりとある小さなテーラーでお針子をしている。
やはり、彼女の努力を見ている人は見ていたんだね。ほろり。
平民向けに、一張羅を仕立てるのが主な仕事だけど、古着のお直しをしたり、腕カバーなども嫌な顔ひとつせずに作ってくれると評判の老夫婦の元で、落ち着いた暮らしができていると、手紙には書いてある。
テーラーという職業柄、端切れはそれなりに手に入るので、ビーズを仕入れさせてもらえないかと提案があった。
もちろん、いいよ!
私は無知にして知らなかったのだが、もとはコルク樫という木の樹皮だという。それを買ってもいいのだけど、ちょっと考えてみよう。王都で消費されるワインの量は並みではない。
私は未成年の令嬢として、ろくに表には出る機会はないけれど、王城に行く時、教会に行く時、孤児院に行った時、馬車の窓から見た風景を思い出す。
貴族の屋敷が立ち並ぶ上層街の石畳の上には、ゴミ一つ落ちていない。
慰問に行った孤児院が併設された教会は、中層街にあったが、周辺には土がむき出しのところも多く、道端には色々なものが放り投げてあった。
その外側の下層街とでもなれば?
ロッテに相談したところ、中層街のことは任せてくれと返事が来た。孤児院の子供たちに頼んで、幾ばくかの小遣いを渡すつもりなのだろう。
ただ、さすがに彼女も、できるなら下層街には足を踏み入れたくないらしい。「それはこちらで考えるから無理はしないで」と書き送る。
基本的に、上層街に下層街の住人が出入りすることはない(というか、できない)のだが、唯一例外があるとすれば、ゴミの収集だ。
私は執事に頼んで、屋敷の下働きを通じて話をつけてもらう。
「使用済みコルク栓を一つ五エンドで買うよ」と言わせたら、集まること集まること。
自分のポケットから持ち出し覚悟だったのに、アイデア料とか、加工賃という名目で入ってくるお金で十分賄えるのよね。
「木工!」
きちんと、汚れやその他の不純物は除去してるから、においで酔っ払うこともない。
それでも、こちらはきちんと一から真新しい材料を揃えて、ロッテに特に丁寧に製作してもらい、王家に献上。王も妃も王子たちも、ドはまりして、結果、ロッテは王家に認められるお針子となった。
王家にその功績が認められるということは、特許を取ったも同然。粗悪な類似品は後を絶たないが、彼女の手によるものは、驚くほどの高額で取引されるようになっていく。
特に「僕と遊んで?」「君のうちにつれて帰ってよ!」とでも言いそうな、クマのぬいぐるみたちは、子供や女性のみならず、一部の男性たちまで虜にしている。
王家でも、生まれたばかりの王女殿下にと献上したテディベアに、王妃様が一目惚れ。触って抱いて、さらに夢中になり、自腹を切って全色・全サイズをコンプリートしているらしい(第三王子殿下の証言による)
「ますます腕を上げたのね、ロッテさん」
「いいえ、エリス様のビーズがあってこそです」
月に一度、直に支払いをしに来てくれるようになったロッテは、そう言い張って譲らない。
私、そんなに難しいことはしてないんだけどなぁ。




