12、魔法の種
「魔法の種」は一言でいえば、魔法を使えるようにするトリガー。
巷では世界樹の実だとか言われているらしいけど、こっそりと、でも、あっさりと兄が教えてくれたことには、そのように魔法で回路を刻み込んだ、食べられる魔道具らしい。
七歳になった年の秋口、貴族の子女に一人、一粒ずつ王家より下賜された。
大きさは、さくらんぼの種くらい。子供が飲むにはちょっと大きい。
それでも、水を多めに口に含んで、ただ、ごくんと飲み込めばいいのだし、魔法への期待は大きいのだけど、それほど効果のあるものを口にするのは、なかなか勇気がいる。
お金に換算したら、これいくら? 副作用とかないのかな?
その上、正露丸みたいな色だし。もう少し、おいしそうにできなかったのかなぁ。
まさか、私みたいな食いしん坊が、ガリガリ噛んだりしないように、こんな怪しげな色にしたとか? そんなことを考えていたら、ツーンというか、スーッていうか、あの独特な臭いまでしてきたような気が。
あ、明日にしようかな。
それを知ってか知らずか、ハイマン殿下が「まだであれば、摂取する時はいっしょに」と誘ってくださった。
メイドに水の入ったグラスを用意してもらって、向かい合って、一二の三で飲み込むだけなのに、なんで、いけないことをしているような気分になるんだろう。
一年前より、ハイマン殿下が眩しく見えて仕方がない。
まだ、喉仏も見当たらない喉が、こくんと「種」を嚥下する様を見て、私も慌てて飲み込んだ。
ケースは記念に取っておこう。貝殻で花が象嵌されていてきれいだから。
もちろん、それでいきなり魔法が使えるようになるほど甘くはない。
それからは教本片手に、ひたすら練習。
具体的に言うと、事細かに書いてある魔力の流れから、魔法の発動に至るまでの過程を、自覚することが第一歩。
最初は呆れるくらいゆっくり、ゆっくり。曖昧なところが一カ所でもあってはいけない。
全体を認識できたら、さらにくり返し、くり返し。慣れたら少し早く。
それを何時間でも、何日でも続けて、例えば「成長」と魔法名を口にしたら、何も考えていなくても魔法が発動するように、ひたすら体に覚え込ませる。
私、パブロフの犬の気持ちが、すごくよくわかる。
兄のように、魔力をいくつもの種類に変質させられるなんて、本当に稀なことで、大抵は一種類、いちばん得意なものを伸ばす。
隠し玉として、二番手三番手まで鍛える人もいるらしいけど。戦闘を意識する職業の人は特に。
でも、そこまで物騒な環境にいなくても、水とか火とか、ちょろっとでも出せたら便利でしょうね。
ハイマン殿下は、いま「岩石創造」を練習なさっているそうだけれど、土魔法の究極は「流星嵐」なんだよね。浪漫は感じる、でも怖い!
かく言う私は、ひたすらどんぐりを芽吹かせている最中。魔力の動きを把握するのと同じくらい、過程と結果をイメージするのが重要らしい。
それには、兄からもらった誕生日プレゼントの数々が、とても役に立っている。
極めると、種や苗木がなくても、いきなり木を生やすこともできるんだとか。
そして、自由自在に蔓や枝を動かすこともできれば、副次的に木工も得意になるらしいね。
魔力を消費することで、道具も使わず、家具や家までつくれるなんて、楽しみだなぁ。




