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閑話 僕のエリス③


 エリスは、救いの女神なのではないかと思う。

 どんなに落ち込んだり、嫌な気分になった時でも、微笑み一つ、やわらかな言葉ひとつで僕を浮上させる。

 この沸き立つ気持ちをどうしたら?

 ずっと感じていたい気もするし、でも、周りの人間、ましてエリス自身に悟られたら、恥ずかしくて死ねそうだ。

 小兄様に揶揄われながら計画した初デート。成功したのか、失敗したのか。

 結果的に、エリスに嫌な思いをさせてしまった自分を許したくないし、でも、ああ、特別な呼ばれ方をしたのがうれしくて仕方ない。

 「あ、あなた」だって!

 賢い彼女は、僕の身分を知られないように気遣ってくれたのだろうけど。僕にとっては、ご褒美でしかない。僕、何をそんなに頑張ったっけ?

 質素ながら、家庭的な彼女の格好もよかった。

 彼女自身がデザインした、農村風景にも溶け込めそうな、シンプルなドレス。ふくよかな腰にエプロンの紐を締める様子も素敵だった。

 贅沢さを表に出さないようにした彼女の計画をご破算にしかねない、紫のリボンを贈ったら、笑って受け取って、黒い豊かな髪を束ねていた。

「ハイマン殿下、ありがとうございます。大事にします」

 これほど素敵な女の子を罵る人間がいることに、僕は驚愕せずにはいられない。

 しかも、言うに事欠いて、彼女のこのふくよかな体を。

「殿下?」

「なんだい?」

 いけない、いけない。

 先日まで僕は、視線で人が殺せそうだなんて、小説の中だけの表現だと思っていた。

 あのピンクの頭をした、脳みそまでふやけた人間が貴族の子女だって?

 エリスと比べるなんてとんでもないことだが、結果としてエリスを讃えることになるなら問題はない。

 彼女の賢さ、善良さを見よ!

 公務で、しかも、良家の子女なら内心眉を顰める孤児院に誘っても、嫌な顔一つしない。

 そんな所にデートに誘うなという話だが、そうでもしないと王子である僕は、なかなか外出できないのだ。

 ことがスムーズに運ぶように、率先してあれこれアイデアを出してくれるエリス。

 いつも僕を立ててくれるけれど、神父様に手紙を出すなんて、彼女でなければ思い付かなかっただろうし、手紙の内容だってほとんど彼女が考えたようなものだ。素晴らしい!

 そして、少しの間とはいえ、お下げ髪の少女と仲良く縁側で針仕事をしていた。その時の、慈愛に満ちたあの眼差し。

 一生懸命、案内をしてくれた子供たちよ、すまない。エリスを盗み見るのに忙しくて、半分も話を聞いていなかった。

 あの孤児院を管理している神父様は、善良な方のようだ。

 ただ、教会の方には、腐敗の影が見える。たとえ王家といえども、手は出せない領域だが。

 だから、なおさら、エリスの機転に感心しないではいられない。様々な兼ね合いがあって、教会への寄進はしないわけにはいかないが、半分を物品で、孤児院に直接運び込んだのは正解だった。

 神父様がそれらのことを理解し、感謝してくださったのはありがたくも当然として、子供たちはどう思っていたのだろう。

 少なくとも、エリスといっしょに針仕事をしていた少女は、たいへん賢く、心根も素晴らしかったとエリスが褒めていたから、その通りなのだろう。

 他の子供たちも多くは、喜んでくれていたように思う。

 自分で言うのもなんだが、僕の容姿だけでも、大抵の人には目の保養になるらしいから。

 ただ、あの少女は話にならない。

 後日、人をやって神父様に確認したところ、アレが男爵の庶子だと言い張る、その証拠としている指輪は、ありふれた銀メッキの安物だった。

 すでに母親を亡くしているのは気の毒だとは思うが、あの心の有り様と態度では、どんな幸運も逃げるだろう。

 彼女自身、その男爵の家名すら知らないとは、お粗末すぎる。ただ、死ぬ間際の母親に言い聞かせられたというのは気になるな。神の気配を間近に感じながら、人は嘘を吐こうとはなかなか思わないものだ。

 しかし、まったくもって嫌な話だが、そういう無責任な男など、貴族には星の数ほどいる。

 結局のところ、なるようにしかならないわけで、僕が一つ言えることは、人を貴族たらしめているのは魔法だということ。

 あの、問題多き少女が、なんの弾みか魔法を使えるようになれば、そんな道も開けるかもしれない。

 人の身で、先を見通すことなどできない僕は、ただ、自分自身と何より大切なエリスが幸せであれるように、行く道の露を払うのみだ。 



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