9、持っていくもの
デートの費用は男性持ちということで、孤児院を運営する教会への寄付金すらも、私の分までハイマン殿下が用意してくださることになった。遠慮する方が失礼に当たるので、ただただお礼を言う。
「ハイマン殿下、ものはご相談なのですが。私の分の寄付金だけでも、物品に変えて孤児院に直接お渡ししたく思うのですが。あの、ご迷惑でしょうか」
厚かましいかなとは思いながらも、嫌な想像が頭を離れない。あんな田舎の限界集落でさえ、区費の横領が発覚して、子供心に驚愕した覚えがあるからね。
ハイマン殿下は馬鹿じゃない。彼なりに悟るものがあったらしく、でも、立場上やたらのことは言えないのだ。
「迷惑なことなどあるものか。女性らしい細やかな心配りだと感心したよ。さて、どんなものがいいだろうか?」
二人で知恵をしぼったけれど、所詮はいいところのお坊ちゃまとお嬢ちゃま。
お菓子なら絶対よろこばれるだろうけど、一回だけ、少量食べて終わってしまう高価なものより、安くて味はいまいちでも、おなかが膨れるものの方がよい気もする。
でも、実際のところ、孤児院の子供たちが何を求め、また、その面倒を見る大人たちが何を迷惑に感じるかなんて、想像もつかない。
「これは、当事者に聞くのがいちばんかな?」
そう言いつつも、殿下は日頃から、自分が動き回ることで、周りが振り回されることがないように用心していらっしゃる。
「神父様にお手紙を差し上げて、お聞きしたら失礼でしょうか?」
ハイマン殿下はちょっと小首を傾げて、それから頷いた。
「エリス嬢であれば、問題ないだろう」
そうだよね。いきなり王子様から問い合わせの手紙がきたら、びっくりしちゃうよね!?
二人であーだこーだと文面を考えて、私が清書。
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拝啓
突然、お便りする失礼をお許しください。
私は、バーランド伯爵家の長女、エリス・ティナ・バーランドと申します。
風薫る季節、神父様におかれましては、いかがお過ごしでしょうか。
この度、私は婚約者と、貴孤児院へ慰問を検討しているのですが、お恥ずかしながら、どんな形で気持ちを示せばよいかわからず、教えを乞いたくお便りした次第です。
例えば、衣服や食料品など。何が必要で、どんなものが御迷惑なのか、お返事いただけましたら幸いです。
皆々様のご健康を、お祈り申し上げております。
敬具
心優しい神父様へ
エリス・ティナ・バーランドより
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失礼かと思いつつ、切手と返信用のレターセットも同封する。
すでにあるのよね、郵便局。届けるのは、うちの使用人に頼んだけど。
三日も経たないうちに返事がきた。
ざっくばらんな神父様のようで、こちらも大助かり。
彼の手紙によれば、いちばん欲しいのは主食になる小麦。それから日持ちがする上に、子供たちの成長に必要な栄養源となる干し肉。ちょっとした野菜は敷地内の畑で、自分たちで作っているので不要だそうだ。生り物なども、数本あるらしい。
あとは大人用の古着。自分たちで縫い直して子供用にするとのこと。端切れは端切れで使い道があるんだろう。
贅沢をいえば、風邪を引きかけた時の用心に蜂蜜がほしいと、小さな字で書き加えてあった。




