8、デートのお誘い
「今度、孤児院へ慰問にいくのだけれど。よければ、エリス嬢もいっしょに行かないか?」
ハイマン殿下に誘われた。
両親に許可を求めたら、「それってデートよね?」と母は少女のように頬を染め、父は「まだ早いのではないか?」と渋い顔をする。
しかし、それも社会勉強ということで許可は下りた。
ひと月先の予定について、殿下と会う度に相談。
「楽しみだね」
王侯貴族の義務として、恵まれない子供たちに会いに行く。遊びとするには不謹慎だけれど、なんだか、私もわくわくしてきた。
「どんな格好で行ったらよいのでしょう?」
私が思い出すのは天皇皇后両陛下。
もちろん、オーダーメイドだろうけど、状況に合わせて質素な格好をしてらした。
「エリスはどんな格好がよいと思う?」
質問を質問で返すハイマン殿下も、どこか浮かれている様子で、珍しいなと微笑ましく思う。
「そうですねぇ」
スケッチブックをお借りして、描き描きお絵描き。刺繍は苦手だけど、前世でもよくお姫様とか落書きしてたから、こういうのは得意。
前身頃の左右に縦一列ずつ控えめな襞を付けて、中央に飾りボタンを配しただけのシンプルなドレス。十二色しかない色鉛筆を駆使して、薄く色を重ね、枯葉色を出す。
これなら、ちょっとした汚れは目立たないはずだ。私が着たら、肥えた蓑虫みたいに見えるだろうけど。
「こんな感じでどうでしょう? ああ、汗を吸いやすいように生地は綿で。リネンのシンプルなエプロンも掛けましょうか?」
隣に一反木綿を描き描きこ。
「よいねぇ。きっと似合うよ、可愛いよ!」
ハイマン殿下は夢見るようにふわりとお笑いになる。
「私のものも考えてくれるかな? できたら、エリス嬢とお揃いで」
え? 殿下もドレス着るの? なんて、一瞬、真顔で返しそうになってしまったけど、そんなわけないじゃないか。
「そうですねぇ。では、上着の色をお揃いにしましょうか」
インナーはシンプルな白シャツで、ズボンは黒のスラックス。
うんうん、頷く彼も満足そうだ。
話の流れで、どちらも代金はハイマン殿下が持ってくださることになり、私は恐縮したけど。「デザイン料だよ」って、さらりと言って決まるところがいかにも王子様だ。
手摘み、手紡ぎ、手織りで手縫い。平民が愛用しているリネンより、綿製品が高額だなんて、私、知らなかった!
慰問に行くために、TPOを考えて、衣装を新たに誂えている時点で、本末転倒な気がしないでもないけど。
できあがりに、殿下も私も満足した。さすがは王城勤めのお針子さんだ。
王妃様の花嫁衣裳製作にも携わった方に、こんな素朴なものを縫わせてすみませんでした。




