学園へ(1)
翌朝、私はいつもより早く起きた。正確には、アルマに頼んで起こしてもらったのだが、それはまあ、いいだろう。
「よし、準備OK!」
今朝早く起きて準備をしたのは、シンディー先生に会いに行くためだ。
「お嬢様、昨日倒れられたばかりなのですから、無理は禁物ですよ??」
「うん、大丈夫よアルマ。」
「本当に気をつけてくださいね??」
「うん、それじゃあ行ってきます!!」
保健室は学園の一階にある。先生いるかな。そう思いながら歩いていると、意外とすぐに着いた。「保健室、開いてます。」という看板がかかっているので、先生はもう来ているようだ。よかった。
扉をノックして入る。
「失礼します。シンディー先生、おはようございます。」
「あら、スピネットさんじゃない。おはよう。今来てくれてちょうどよかったわ。ギル、出てきて大丈夫よ〜。スピネットさんだったわ。」
先生がそう言うと、ベッドを隠すように閉められていたカーテンが開き、フォーサイス様が現れた。
「!!」
い、いると思ってなかったから心の準備が……うわぁ。生、氷の魔導士様だ。すっごく無表情なんだけど、めっちゃくちゃ綺麗な顔してる。特に、紫の瞳なんか綺麗すぎる。
で、こんな綺麗な人に気絶してるところをモロ見られて、その上お姫様抱っこされたとか、恥ずかしすぎる……
「ふふ、スピネットさん、大丈夫よ。」
はっ!!とりあえずお礼を言わなければ。
「あの、フォーサイス様。昨日は私をここまで運んでくださったそうで、本当にありがとうございます。助かりました。」
「………」
え、無言なの??やっぱり運びたくなんてなかった??でもあれは不可抗力なんですごめんなさい許してください。
「……そうか。」
あ、返事、返ってきた。噂の氷の魔導士フォーサイス様って、喋るんだ。無表情だけども……
というか、フォーサイス様の声めちゃくちゃ好きなんですけど。うぅ、これはずるくない??
「ギルったら、もう少し愛想よくしなさいよ〜。」
そう言いながら、先生はフォーサイス様の背中をバシバシ叩く。それをちょっと、気持ち眉を寄せて睨んでいるフォーサイス様。え、これ、大丈夫なの??
「……おばさ」
「ギル??私のことはお姉さんか先生と呼びなさい、といったでしょう??」
フォ、フォーサイス様、何を言おうとしているのだ……
「……俺からしたらおb」
「ギ、ル、バ、ー、ト??」
「……先生」
フォーサイス様、最初からそう呼びましょうよ……先生、めちゃくちゃ綺麗な人じゃないですか……
「よろしい。さて、スピネットさん。なにか聞きたいことがあって、ここに来たのでしょう??さあ、とりあえずこっちへいらっしゃいな。」
保健室の奥へと案内される。するとそこには、小さな応接室みたいなものがあった。すごいな……
私はとりあえず勧められた椅子に座った。フォーサイス様も、シンディー様の横に腰を下ろした。すると、フォーサイス様がなにかの魔法を展開した。
私がなんの魔法だろう??と首を傾げていると、フォーサイス様が「…防音の結界だ。」と教えてくれた。
ほへぇ。すごいなぁ。というか、フォーサイス様って、無表情だけど、親切だな。私を運んでくれたのもそうだけど、わざわざ教えてくれるなんて。
「ふふ。さあ、まずは、あなたの髪色を見た人が誰か、を聞きたいのでしょう??」
「!!」
な、なんでわかったの!?
「あら、あなた、とってもわかりやすいわよ〜。それくらいわかるわ。」
「……」
ご令嬢として、それはどうなんだろうか……
「さ、ギル、昨日のことの顛末を説明しちゃってちょうだい。当事者が話した方が早いでしょう。」
あ、それはとてもありがたい。
こくん、と頷いたフォーサイス様が話し始めた。
「……俺たちは、あの時アリス嬢を探していた。ちょうどアリスを見つけた、と思ったらあなたがふらついてて、俺がそれを咄嗟に支えた。そうしたら、あなたは気を失ったようで、魔法が解けるのを感じた。そのまま見ていたら、髪の先から色が変化して黒色になっていくものだから、とりあえずあなたを抱えてここに転移した。だからあそこにいた者で、あなたの髪色を見たのは俺だけだ。」
私は、さぞかしポカーンとした顔をしていることだろう。
「ふふふ。そういうわけだからスピネットさん、あなたの髪色、ばれてないわよ??」
「はっ!!フォーサイス様、本当にありがとうございます!!助かりました!!これで女子たちに恨まれずに済みます!!」
私がそう伝えると、フォーサイス様の表情が少し動いた気がした。
「……」
「ふふふっ。あなた、本当に不思議な子ねぇ。ねえ、ギル??」
フォーサイス様はこくんと頷いた。なぜだ、解せぬ。私は断じて不思議ちゃんではないですよ!!と心の中で反論しておく。
「先生、フォーサイス様、重ね重ね、昨日は本当にお世話になりました。あの、あともう1つ聞きたいことが…」
「あら??もうそろそろ授業が始まるんじゃないかしら??」
「えっ!!」
そう言われて時計を見てみれば、あと3分で授業が始まる時間だった。
「ギル、スピネットさんを送っていってあげなさいよ。」
「え、あの、」
私が申し訳ないから良いです、と言う前にフォーサイス様に手を取られ、気がつくと荷物はフォーサイス様の手にあり、いつの間にやら保健室から追い出されていた。
この間もそうだったけど、なんでこんなぽいぽい追い出されるんだ、私……
ギルバート・フォーサイス(17歳)
高魔力保持者。黒髪、紫眼。黒髪は伸ばして後ろで結んでいる。紫眼はとても珍しい。ギルバートから見ると、シンディは叔母にあたる人。