彼と私
目覚めるとそこはやはり私の部屋で、ベッドの傍にはギルバート様が座っていた。彼は椅子に座ったまま目を閉じている。のそのそと近づけば、規則正しい呼吸音が聞こえた。外はまだ薄暗く、夜中であることが窺える。
思わず彼の頬に触れそうになって、急いで元いた場所に移動した。そのままギルバート様を見つめる。相変わらず美しい。目を奪われる。彼ほど美しく、私の目を奪う者に出会ったことがない。
その上、ここにいる美しい人は、もう1人の私に見せられた映像、そこに映っていた妖精王にそっくり、瓜二つの顔立ちをしている。
彼女は言っていた。『彼は妾たちの子孫であり、王の力を受け継ぎし者である』と。
つまり、彼は、妖精王の生まれ変わりなのではないだろうか?
だからきっと、私と深く結ばれている。それはもう、ただ目を合わせただけで恋に落ちてしまうほどに。私は彼を、彼は私を、愛さずにはいられない。この気持ちは、仕組まれたものなのだろうか?それとも、私の気持ちなのだろうか?
わからない。これが私の真実なのか、そうでないのか。
この気持ちは今の彼の真実なのか、彼の中にいるであろう、王にとっての真実なのか。
「はぁ...」
さすがにため息が出る。得た情報量が多すぎる。知恵熱でも出してしまいそうだ。
頭でいろいろと考えていれば、ギルバート様がぱちりと目を開いた。その美しい紫の瞳と目が合う。
「レイラ、、良かった...」
そう言った彼は、私の手をぎゅっと握りしめ、自分の頬に当てた。
そんなことをされると、私は何も考えられなくて。心臓がきゅっとして、ぎゅんっとして、涙が溢れそうになる。
あぁ、戻ってこれた。もう、それでいいのだ。
「ギルバート様、ただいま。」
「レイラ、おかえり。」
このやり取りすら幸福で、どうにかなってしまいそう。いや、もうすでになっているのかも?
このまま永遠にこの人と2人一緒にいたいが、そうも言ってられない。とりあえず、彼女に聞いた情報を覚えているうちに整理しなければ。うむ。
「ギルバート様、帰ってきて早々で申し訳ないのですが、一旦離してください。」
「…」
「っ、そんな目で見てもダメですから!」
「……………わかった…」
勝った!よし!!私が書いてるところはちょーっと見られたくないから、ここで寝ててもらおう。どうせベットで寝てないんだろうから。
「少し整理したいことがあるので、ギルバート様はここで休んでいてください。どうせまた、ここに張り付いていたのでしょう?」
「…………」
「ほら、ここに寝ててください!」
そう言って私は、自分の隣をばしばしと叩いた。
この気持ちを持っているのが私であろうと彼女であろうと、彼であろうと王であろうと、もうどうでもいいや、と思ってしまう。すごく大切な気がするのに、幸せであることが最優先で、目の前に彼がいて、私を愛してくれていることが最優先になってしまう。
「……レイラ、、俺以外に、そういうこと、言ったりしないで。」
「???わかりました。」
え、なにそのジト目。私はただ、ベットで休んでほしくて、
ん??まった、このベットは私ので??
私が今寝ていた場所で??
ギルバート様と2人きりの部屋で??
自分の顔が一気に熱くなるのがわかる。や、やってしまったのでは!!
「………ふ」
彼の薄い笑い声でサッと心が開き直させられた。ハハッ、もうしーらない。
「ギルバート様以外に言わないから笑わないでよ、もぅ。」
「んっ、…………レイラ、やりたいことがあるんでしょ?いいよ、やっておいで。まだ朝まで時間がある。」
「はい!おやすみなさい、ギルバート様。よい夢を。」
そう言った私は彼にとられていた手を引き、彼の手にキスをした。
「っ、レイラ、」
「ふふっ、いつものお返しです。」
「…キスしたい…」
「…?何かおっしゃいました??」
「なんでもない。」
どうやら照れてしまったらしい。布団に潜ってしまわれた。
さてと。やりますか。
私は引き出しの中からまっさらなノートを取り出して椅子に座った。




