整理します(2)
コンコン。
「お嬢様、入りますよ〜。」
やば、アルマが帰ってきた!!私は急いでベットに潜り込む。
「は、はーい。」
「…………」
ア、アルマ、その無言は怖い。怖いってば!!
「おじょうさま??」
だ、だめだ、圧が、笑顔の圧が強いよ……
「ア、アルマ、私、そそ、そんな、寝てなかったことなんて、ないんだから、ね??」
「はぁ。お嬢様、バレる嘘はつくだけ無駄ですよ??」
「うぅ〜……」
「唸ってもダメですよ。」
「違うんだよアルマ〜。」
「何が違うのです??今日は倒れられたのですから、しっかり休んでもらわなければ。」
よし、ここは用意していた本当であり本当でない言い訳をしよう!!
「あのね、私が今日倒れた…」
コンコン。
ノックの音に、私とアルマ、2人顔を見合わせる。時計を見ると、夜の8時になるところだった。ほとんどの人が就寝準備をする時間だと思うんだけど、私の部屋を訪ねてくるなんて、誰だろう??
「どなた??」
「レイラ!!俺だよ、俺!!お兄様だよ!!」
「お兄様でしたか…」
うん、きっと来ると思ってたよ。私が倒れたから。ただ、明日の朝かなって思ってたんだけど。お兄様なら、納得だわ…
「レイラ、大丈夫か??入るぞ??」
ちょっと入れたくないけど、心配をかけたのは私だから仕方がない。
「…お兄様なら、どうぞ。」
お兄様は入ってきた瞬間に抱きついてきた。
「レイラ、今日は学園で倒れたんだって??もう、心配したんだからな!!どこも怪我してないか??大丈夫か??やっぱり家から通うか??」
「ちょっとお兄様、私は大丈夫ですから、離してください。いつまで引っ付いてるつもりですか。」
「そんなこと言って、本当に大丈夫なのか??」
「リアム様、それ以上やりますと、レイラお嬢様に嫌われますよ。」
ナイスアシスト、アルマ!!アルマの言葉を受けて、お兄様は固まった。アルマはそんなこと気にせず、もうお茶の用意を始めている。さすができる姉、できる侍女である。
「ほら、お兄様、アルマがお茶の用意をしてくれましたし、さっさと離れてくださいな。ちょうど相談したいこともございますし。」
「はっ!あ、ああ。そうだな。アルマ、お茶を頼む。」
ふぃ〜。良かった、割とすぐに解放されて。さて、お兄様にご相談、といきますか。
「お兄様、私が相談したいことなのですけど、まず1つ目は、倒れそうになった時に私を支えてくれて、その上運んでくれたフォーサイス様へのお礼についてです。」
「なに!?レイラ、お、おとこに触られたのか!?!」
「お兄様、何を言っているのです??確かに美しい人ですけど、どう考えてもフォーサイス様は男の方でしょう??」
「レイラが、俺の天使が……」
「リアム様、しっかりされてください。レイラお嬢様だって、いつかお嫁に行かれますよ。」
「アルマ??なんで突然お嫁さんのお話??」
「アルマ、俺の目が青い内はレイラを嫁になんてやらないさ!!」
「お兄様、私、お嫁さんに行きますので。」
「レイラ!!そんなこと言わないでくれよ!!」
「言わないも何も、学園を卒業したらどこかに嫁ぎますでしょう。」
そう、何を隠そう、私は伯爵家の娘なのだ。あと何年かしたらどこか良きご縁のある方に嫁がなければならないだろう。
その良きご縁をこの学園で見つける者も多い。婚約者の方がいる人もいるから、全員が全員そう、というわけではないけれど。私はそれを狙っているタイプだ。
同じ伯爵位の人で、いい方いないかなぁ。
「レイラ、お兄様とお父様に任せろ!!お前はスピネット家で一生養ってやるさ!!」
「結構です。そんなことより、私はフォーサイス様へのお礼について話したいのですけど。」
はあ。我が兄ながら、重度のシスコンだな。私がさっさと結婚しないと、兄が結婚できない気がするわ……
「あ、ああ、そうだったな。フォーサイス様、か。レイラはどうするつもりなのだ??」
「とりあえず、このお礼の手紙を渡して欲しいのです。私が渡しても良いのですけど、その、フォーサイス様は人気が高いでしょう??」
主に女性から。だから、私がフォーサイス様に手紙を手渡しなんてしたら、絶対に敵認定される。フォーサイス様不文律を破った者として。
それに、黒髪の女性を運んでいた、という噂が出ていた場合もまずい。それで私が黒髪だ、とバレる可能性がある。
だから、さっき色々と試す前にきちんと書いておいたのだ。
「ああ、そうだな。うん、俺が渡した方が良いだろうな。」
お兄様は、皆まで言わなくても理解したようだ。こういうところは頭の回転が早くて、本当にすごいと思うんだけどなぁ。
「あと、もう一つご相談が。」
「ん?なんだ??」
私はアルマに視線で退室を促す。すると、彼女はすぐに退室してくれた。本当に素晴らしい侍女だ。
「あの、私、保健室を利用したじゃないですか。」
「あ、シンディー先生のことか。」
そう、流石にアルマにシンディー先生のことを言うわけにはいかない。だから退室してもらったのだ。
兄なら知ってるだろう、と踏んでいたけど、本当にシンディー先生が現国王の妹である、と知っていたようだ。
「ええ。その、シンディー先生に、あなたの黒髪は隠しなさい、と。何かあったら必ず私に伝えてね、あの子も使ってなんとかしてあげるから、と。」
「黒髪を隠すように、か。なんでなのか、理由とかはおっしゃっていたか??」
「理由…、に当たるかは分かりませんが、高魔力保持者でないのに黒髪はとても珍しい、魔導士に見つかったら解剖されちゃうかもね、とは言われましたね……」
「解剖だと!?安心しろ、レイラ。お兄様がきちんとレイラのことは守ってやるからな!!」
「お兄様、それはとてもありがたいですが、ふざけてないできちんと考えてください。そんなことだけが理由だと思いますか??」
そう、後から考えてみたのだが、どう考えてもおかしい。私に対して、高魔力保持者で王太子様の側近でめちゃくちゃ強いフォーサイス様を使って守る、と言われるなんて、おかしすぎる。
「ふむ、そうだな。あの子、とは、フォーサイスのことを指しているのだろう??」
「ええ、そうだと思います。」
「他に、何かおっしゃっていなかったか??」
「ええと、特には……」
「ふむ……」
お兄様は顎に手を当てて考え込んでいる。こうしているとイケメンなのにな……
「ちょっとお兄様にもわからないな。なんでそこまでして黒髪を隠した方がいいのか。だが、あの方がそこまでおっしゃるのなら、とりあえず黒髪は隠しておいた方がいいのだろうな。」
「はい…」
リアム・スピネット(17歳)
レイラの兄。スピネット伯爵家嫡男、次期当主。サラサラ金髪に青の瞳。まさしく王子!な見た目の王道イケメン。どんな人に対しても優しくイケメンなので、モテる。ただし、レイラを溺愛しているシスコン。実は有能。王太子の側近候補として名前が上がっている。レイラと同じ学園に通う4年生。