現状把握します(2)
「あの子が目覚めた気配がする!!」
えーっと、扉の外から声が聞こえる。父の声でも、母の声でも、兄の声でもない。
「落ち着け。だが、我も中に入りたい……」
なぜだろう、知らないのに知っている声。知らないのに懐かしい声。
自然と言葉が頭に浮かぶ。これはきっと、あの子たちの名前だ。
「コマと、フウ??」
私がそう呟くと、白髪に金の瞳の小さな女の子と、黒髪に金の瞳をした小さな女の子が扉を開けた。なんとびっくり、お耳がもふもふ、超絶美女。それなのに顔は涙でぐちゃぐちゃになっている。
そんな2人が、私の元にトテトテと走ってくる。寝起きからとってもファンシーな世界だ。シンプルにかわいい。
「ごめんね、守ってあげられなくてごめんね、」
「ごしゅじん!!」
女の子たちはじゅるじゅるに泣きながら、私に抱きついてきた。
ああ、懐かしい。
なぜだろう。なぜ私は、知らないはずのこの子たちのことを、知っている、と思うのだろう。いや、思っているだけではない。事実、私はこの子らの名前を知っていた。この光景を、見たことがあった。だって、懐かしさを感じている。私に妹なんていないはずなのに。
ねえ。一体、私は何を知っているの??私の中に、一体何が……
「……2人。」
ギルバート様の声と体温に現実へ引き戻される。
「レイラが混乱してる。離れろ。」
「「はっ!!」」
「ご、ごめん……」
「す、すまない……」
小さな女の子たちは、ギルバート様に言われてそろそろと離れていった。うわぁ、2人とも見るからにしょんぼりしてるな。でも、正直ギルバート様が現実に引き戻してくれて助かった。私が何者なのか、また、わからなくなるところだったから。
「…お義母様とお義父様、それからリアムにレイラが目覚めたと伝えてきてくれ。」
「わかった!!」
「承知した!!」
2人は再びトテトテと扉に向かって走っていった。うん、文句なしにかわいい。最高。
「……ごめんレイラ。身体は大丈夫??」
「は、はい。今はもうすっかり。」
身体はすっかり元気です!!ただし、ギルバート様に肩をぎゅってされて心臓が騒がしいです!!それにしても顔が綺麗だな!そしていい匂い!!
はっ、それよりも、私が倒れてた時の話を聞かなくちゃ。あの混沌は、一体何だったんだろう。
そういえばだけどさ、ギルバート様、いつからこの椅子に座ってたんだろう。きちんと布団に入って寝たのかな??大丈夫かな??
それから、あの少女たちのことも気になるし…
「……レイラ、本当にもう大丈夫?」
「はい。よく寝たみたいで、体はとても元気です。あの、ギルバート様は元気ですか?」
「俺の心配、してくれるの?」
「そりゃあ、ずっと椅子に座っていたら疲れちゃいますし。もしかしなくても、私の目が覚めるまで、つきっきりでここにいてくれたんじゃないですか??」
「……………………………………」
やっぱりなぁ。この無言は肯定の証。だって、母も父も兄もいないんだもの。きっと、母がギルバート様と二人っきりにしたに違いない。ギルバート様を私の旦那認定してたからな、お母様……ギルバート様に迷惑かけてしまって申し訳ないな。
「…ちがう。」
「え??」
「レイラ、俺が好きでここにいる。レイラが目覚めた時、すぐそばにいたかったから。」
「…………」
そんなこと言われたら照れちゃうんですけども。そもそも好きしかないのですけども。もうどーすればいいのさ。
「……レイラが無事で、良かった。」
抱きしめられながら、小さい声、耳元でそう呟かれた。
「……ギルバート様、……心配かけて、ごめんね。私は大丈夫。ここにいるから。」
優しくギルバート様の頭を撫でる。ほんとにサラサラの髪だなぁ。
「ん……」
あぁ、やっぱり私はこの人が好きだし、大切だ。私を優しく抱きしめてくれるあなたの中は、ひどく安心する。
「…すき。」
「………」
あ、れ………
やった。これはやった。間違いなくやった。とうとう言ってしまった!!
好きだって!!
いや、好きだなぁって思ったらさ、好きって言ってしまってたんだって。ね。そんなこともあるよね!!!ね!!!というか告白されてたしね!!
あー、自分の顔が熱い……
「…俺も、好き。」
「………………幸せ。」
思わず言ってしまった!!
いやいや、言わないと伝わらないことってあるじゃない??それに、明日が来ることは当たり前じゃないからさ、言うぞ!と思った時に言わないと!!って思ったんだよ??うぅ、それでも恥ずかしいものは恥ずかしい!!
でもでも、ほんとに、ほんとのほんとに、幸せなの。こうしてあなたに包まれている時が。あなたの心臓の音がトクトク聞こえて、あなたのいい匂いがして、サラサラの髪の毛をなでなでして。喋ったら最高の声が聞こえて、私に対して好きだって言ってくれるのが。
でも、だからこそ。だからこそ、私は知らなければならない。
あのカオスが、一体何なのか。私が、一体何者なのか。
「…ギルバート様、教えてください。私が倒れているときに、何があった…」
ドドドドドド
ん??なんかものすごい足音がするなぁ〜。
「レイラー!!!!」
「旦那様、廊下を走ってはなりません!!!」
「レイラー!!!!!」
「リアム様もですよ!!!」
そう走り叫びながらやってきたのは、我が父と兄である。その2人に注意しているのは、アルマの母であるハドリーだ。
ハドリーの注意からもわかるように、父と兄は猛ダッシュで私の部屋まで来たようで。もちろん、扉をノックする頭なんて残っていないようで。
まあ、私とギルバート様が抱き合っているところを目の当たりにしたわけで。
2人はドアを開けて一歩入った場所から動けなくなっていた。
ハドリー・ホールデン
アルマの母であり、スピネット家の侍女長を務めている人。




