混沌の中
ギィィ、という重苦しい音と共に、ベネットとアリスが入ってきた。二人は、すぐにこの場の異常に気づく。
「レイラ!!お願いだから、行かないで……」
彼女が目を開くと、彼女を支えている彼は瞠目した。なぜなら、彼女の瞳が金と紫のオッドアイとなっていたからだ。
「レイ、ラ…??」
「あぁ、其方は王によく似とる。」
そう言った彼女は、優しい顔で彼の頬をするりと撫で、腕から抜け出した。
彼女はベネットとアリスを見てさらに言う。
「其方らもよく似ておるの。」
そんな少女は泣きそうになりながら言う。
「わらわはすでに死した者。こちらに来てはならぬ者。そんなわらわを呼び戻したのは、其方らじゃな。ロク、コマ、ハク、フウ。」
名前を呼ばれた彼らが眩く光る。
すると、そこにいたはずの妖精たちは、それはそれは美しい人の姿となっていた。その者たちは一様に少女に対して膝をついている。また、オーディエンスたちも皆一様に彼女に対して跪いている。まるで、操り人形にでもなってしまったようだ。
少女は涙を流しながら問う。
「なぜ、なぜ、わらわをこちらに呼び戻した。あぁ、わらわの王の慟哭が聞こえる。あぁ、あぁ!!」
美しい人の姿となった妖精の一人が答える。
「我らがあるじよ、このようなことになって申し訳ない。しかし、時は満ちたのです。」
美しい人の姿となった妖精たちは悲しそうな瞳をしながら答える。
「……ふふ、あはは、あははははっ!!わらわが愚かであったせいで、わらわの王は、わらわの愛する人は、……」
最後の方の言葉は萎んでいた。そんな少女は顔を歪めながら涙を流している。しかし、何かを決心したような表情となり、突然顔をあげる。
「こうしていても、仕方のないことよ。」
「あるじよ、」
「いいのじゃ、ロク」
そう言った少女は先程までの少女とは違う。
「これもまた、わらわの運命なのじゃろう。迷惑をかけるな。ロク、コマ、ハク、フウ。今しばし力を用い、わらわを助けよ。」
「「「「はっ」」」」
美しい人々は揃って返事をした。
「さて、王の力を引き継ぎし者よ。其方にも力を借りることとなるだろう。そのときは頼んだぞ。」
「……あなたは、一体、」
「時期にわかる。さあ、来るぞ!!」
そんな声と共に舞踏会場の窓ガラスが割れる。そこには、魔物が数匹。多分、何十匹とこちらへ向かってきているのだろう。しかし、普段ならば騒がしくなるはずの人々は一言もしゃべらない。ただただその場で跪いているだけだ。
「ロク、コマ、ハク、フウ、頼んだぞ!!」
「「「「はっ!!」」」」
美しい人々は次々に魔物を薙ぎ払ってゆく。薙ぎ払われた魔物は魔石となってゆく。
三分ほどの出来事だっただろうか。美しい人々は美しいまま戻ってきた。
「ご苦労だった、ロク、コマ、ハク、フウ。」
「ご主人……」
「あぁ、そろそろ時間のようだ。其方らにこの子らのことは託すからの。また、時が来た時に会おう。なに、お前たちのことも、わらわは変わらずに愛している。」
彼女はそう言いながら彼らを抱きしめる。
「王の力を引き継ぎし者よ。そなたはこの子を愛しておるのじゃろう?」
ギルバートは無言で頷く。
「なれば、そばにいてやっておくれ。ではの、次代の王よ。」
そう言った彼女の体が傾く。そこをギルバートは慌てて支えた。
彼女の意識が途切れたのと同時に、オーディエンスと化していた参加者たちの体は自由となったようで、ばらばらと立ち上がり始めた。そして、ざわざわとざわめき始める。
そこに一声。
「皆のもの、鎮まれ。」
ざわめきは波のように収まってゆく。
「本日の夜会は中止とする。すまないが、各自、家、もしくは寮へ帰るように。また、今この場で起こったことは誰にも話さぬように。よいな?」
王太子の声に、人々は礼を取ることで応えた。
「では、解散!!」
その声と共に、人々は静かに会場から去ってゆく。ひとまず、今の波は引いて行ったようだ。
そんな時。
「ぅんん、」
「レイラ?」
「あ、ぎるばーと、さま、」
「レイラ、」
レイラはギルバートの頬に手を添えて言う。
「ふふ、わたしね、長い長い夢を見ていたの。」
ぽたぽたと涙がレイラの頬に落ちてくる。
「ねえ、泣かないで、私のあいするひと」
「っ、レイラ、」
そうしてギルバートはレイラを抱きしめたのだった。




