剣技・魔法大会(5)
「な、なにあれ!!大きなお花だわ!!しかもいい匂い!!」
キートン様が出した、でっかいあの花……
え??あれ、やっぱり普通で、な、い??
「まって、サラ。あれ、毒持ってる花、だよ……」
「……う、そ!??毒花のアレとよく似てるあの形、……やっぱり!!!」
隣でケイトが何やら驚愕している。毒のある花だったから??
「どうしたの、ケイト??」
「レイラ、違うわ!!よく見て!!あれ、幻の花、だわ!!」
「え!??」
そう言われてよく見てみれば……
「ほ、ほんとだ!!おしべもめしべも、全部真っピンク!?!」
「あれが噂に聞く、幻の、花??」
「うそ、キートン様、あれを操るの!???」
「はっ!!ケイト、レイラ、しーっ!!」
「「サラ??」」
私たちに静かに、と指示を出したサラはまあたりを見回している。
「どうしたの、サラ??」
サラは声を小さくして言う。
「ねえ、レイラ、ケイト。きっと、あなたたちくらいしか、あの花を判別できる人がいないんだわ。誰も気づいていない、キートン様の操る花が、幻の花だ、と。」
私たちも周囲を見て、初めて気づく。
キートン様、嘲笑の的になってる。あとは、いつものキートン様とは違う、とも。
あんなにすごいのに、誰もわからないなんて……
「私だって、あなたたちが気づかなかったら分からなかったわ。本で一度読んだことがあるっていう程度だったし、詳しい姿形は知らなかった。それに、存在すると思ってなかったから……今騒いだら、キートン様にとって不利になりかねない。あとで、こっそり伝えに行きましょう。」
たしかに、それを周りの人が知ったら、キートン様は利用されるかもしれない。
キートン様が出した幻の花は、昔話の聖女のお話に出てくる。だから知名度は高い。『幻の花をいつか見つけるの!!』と言う子供も少なくない。
しかしながら、聖女と同じく幻の花は、空想の産物として取り扱われている。
昔話の中で、いじり方次第で毒にも薬にもなると言われている、いわゆる万能薬となる花。
辺境には、その幻の花の姿形について言及されているバージョンの絵本があったのだ。だから、私とケイトはかろうじて分かった。そうでなければ、確かに気づけるはずもない。
毒のある花、名前はそのままデカイハナって言うんだけど、との違いは、おしべとめしべの先の色。そこが黄色かピンク色か。それだけ。
はは、ネーミングセンス無さすぎだよね、私、いつも笑いそうになる。デカイハナって、いや、確かにでっかいけどね??でっかくて、とても綺麗なピンク色の花なのだ。
思うに、王家にもあの文献は残っていないのではなかろうか。
そう、思うに、前代の聖女、私たちの祖先にあたる人が遺した本だったのではなかろうか。
王太子様は全く動じていないし……
そんなウルトラな物をキートン様が召喚できる、もしくは生み出せる、なんて知られたら……
考えただけで危険だ。
あぁ、キートン様は、やっぱり、何か特殊な力を持っているのかもしれない。私の、思った通りに。
「それにしてもキートン様、少しおかしいわ。いつもならパルトロウ様と同じような感じで攻めるのに。」
「ん??ケイト、そうなの??」
「はぁ。サラ、頼んだわ。」
「分かったわ……レイラ、よく聞きなさい??」
2人に呆れ顔を向けられる。うぅ、ごめんって……
私はこくこく頷く。
「キートン様はパルトロウ様のライバルであり、友でもあるの。そして、キートン様に魔法を教えたのは、パルトロウ様なのよ。」
「そうなの!?」
「いい??お二人は1年生の時に仲良くなられて、そこから魔法を共に学んだり、一緒に勉強されたりしていたそうよ。」
「そうなんですね……」
サラ、怖い、怖いよ!!そしていろんな情報に精通しすぎてると思うよ!!
返事をしながら私は会場に目を移す。いや、サラが怖いからとか、そう言うわけじゃないから……
見ていれば、でっかい花から蔦が伸び、アリス様をひょいっと捕獲した。
「あの花、アリス様をあっさり捕まえてしまったわ!!」
「さすが幻の花……幻影でも見せたのかしら……」
サラは興奮し、ケイトは魂を飛ばしている。
「これで魔法部門の決勝戦は、パルトロウ様とキートン様で決まりか。」
「そうね。」
「はぁ、友人同士の対決、かぁ。どうなるんだろ。」
「きっとすごいことになるわよ!!」
「2人とも、次はメトカーフ様が出るわよ。」
わんこそばの如く、ホイホイと人が出し入れされている。たしかにこんだけホイホイ出来たら、早いよね。
そしてホイホイされて出てきたメトカーフ様。初めの合図と共に剣を一振り。うん、結果はお兄様と同じ。
なんとも不思議なことに、相手は場外に押し出しされていましたとさ。
「さすがだね……」
「そうね……」
「と言うことは、ミラー様とメトカーフ様が剣技部門の決勝に残ったのね。」
そんなことを話していれば、お兄様のライバル的存在が出てきた。
「出たわね、アラスター・グランディエ。」
そう、このアラスター・グランディエこそ、お兄様のライバルであり、もう1つの辺境、グランディエ辺境伯出身の男であり、去年お兄様を打ち破った男である。
「この人もきっと、さっきのお兄様と同じようなものだよね。」
「そうね……」
そうして見ていれば、初めの合図とともに、お兄様やメトカーフ様と同じように剣を一振り。するとあら不思議、相手は伸びて場外に。
さすが、辺境伯家の子、グランディエ様。
「………やっぱりこの人じゃないと、リアム兄さんと張り合えないわね……」
「そうだね……」
剣技・魔法部門の決勝は、お兄様とグランディエ様か。うん、予想通りだね。
「うーん、あの3人、いや、メトカーフ様はもう決まってるから、2人か。将来あの2人をどう配置するのか、が考え所よね。」
「「…………」」
多分、そんなことを考えてるのはサラと王太子様ぐらいのものだと思う……
「………準決勝、全部終わったよね??残すは決勝か。」
「少し休憩を入れるみたいだから、お手洗いと、キートン様の所に行っておきましょうか。」
「ええ、そうね。決勝に出る前に知っておいた方がいいでしょうし、何より、次に闘うお二人はご友人同士ですものね。」
「そうだね。あ、私はここに残ってるから、2人とも行ってきていいよ。私までそこに行っちゃうと、悪目立ちしちゃうでしょ??」
そう言って、私は苦笑いする。
「まあ、そうだけど……」
「でも、あなたが1人になると……」
「私は大丈夫だよ。だから行ってきてあげて??」
「「……………」」
ほんとにそれぐらい大丈夫だから!!
「「はぁ〜。」」
「分かったわ。気をつけるのよ??」
「うん。」
「ほんと、気をつけてちょうだいね??」
「うん、大丈夫。心配しないで!」
「……あら、大丈夫そうね。」
「ほんとだわ。」
「??」
「それじゃ、行ってくるわね。」
心配する2人を何とか、いや、最後は普通に行ってくれた2人の後ろ姿を見送った。するとそこで、後ろから肩をトントン、と叩かれる。
次は甘く……




