事件後の学園
「ちょっとレイラ、大丈夫??」
「ケイト……今日もまた、なんか、いろんな視線を感じるんだ……」
「……まあ、そんなこともあるわよ。……」
「あれだけたくさんの人に見られちゃうとね。口止めのしようもないし、2回目だし……」
「サラ、はぁ……」
この間のギルバート様事件から1週間。私は、学年問わず、毎日たくさんの人にジロジロ見られる、という生活を送っていた。
ああ、仕方のないことだってわかってはいるのだけれど……
事件のあった、あの日。保健室から出て、そのまま寮までギルバート様に転移で送られて、素晴らしい笑顔を最後にお見舞いされて、この前みたいにしゃがみ込んだりはしなかったけど多大なるダメージを受け……
そこから1人、あの日の出来事……
ギルバート様に頭ぽすんされた!!ギルバート様に頭ぐりぐりされた!!ギルバート様にかわいいとか言われた!!ギルバート様に手にキスされたし、デコチューもされた!!髪の毛サラサラだったし、しかもしかも、ぎゅってされたし、ギルバート様の良い感じな胸板に、頭、ぐりぐりしたぁ!!!ぎゃあああ!!!……
……を思い出しては、ひたすらに悶え、アルマに呆れられ、にやにやした顔を向けられながらお世話をされ、布団に潜り込んだ。そしてそこから、再びひたすらに悶えたのち、私はふと、大変なことに気づいたのだ。
食堂にいた人たち全員に見られていたのだ、と。
あ、終わったな、と。絶対に明日から人々の興味の視線にさらされるんだな、と。
私は平穏に、普通に、楽しい学園生活を送りたかったのだが、それは叶わないこととなったな、と。
だって学生が恋愛ごと、しかも氷の魔道士と名高いギルバート様のあの行動。気にならない訳がないのだ。
その結果、翌日から私は様々な視線のもとに晒された。不躾に敵意をぶつけてくる人も現れた。だけど、私にとってそっちは些細な問題で、意外と、その他の興味の視線の方が辛かった。
敵意のある人たちなんて、ほんの数人。それも、1人プラス取り巻き、のような構図。そんな人たち、避ければ何も問題など発生しないのだ。
そう、目を合わせられそうになったら全力で逸らし、話しかけられそうになったら全力で別の人に話しかけ、もし誰もいないところで話しかけられたとしても、『聞こえていませ〜ん』とばかりに顔色を変えずに横を素通りした。
実は私、聞こえませんのフリが得意なのだ。前世、怒られそうになった時によく使っていた。
こんなことは覚えているのに、何を話したのかは思い出せないんだよね。ま、それは置いておいて……
その他大勢はそうもいかない。そこまで話したことないクラスメイトから声をかけられて囲まれるし、廊下を歩けばみーんな私を見ているように感じるし……
今までも、私はサラとケイト、という美女2人と行動していたから、いろんな人に見られることはあった。あったけど、ここまで見られたことはない!!それに、いつも見られているのは2人の方なのだ。
まだ1週間しか経ってないけど、現在進行形で、私の精神はガリガリで……
「……レイラ、あと1週間の辛抱よ。そうすれば、剣技・魔法大会の話題で大分マシになるはずよ。」
「うぅ、サラぁ、ギルバート様とか王太子様とかメトカーフ様とか、みんなすごいんだね……」
「ふふ、着眼点がレイラらしいわね。」
「ふふ、ほんとほんと。あなたのそういうところ、ずっと敵わないなって思ってるわよ?」
「ほんとよね〜。」
「ケイト、サラ??どういうこと??褒められてる気がするけど、何を褒められてるのか分かんない!!」
「ふふ、レイラはそれで良いのよ。」
「そうそう、そのままでいて頂戴?そうすれば、そのうち収まるわ、こんな騒ぎ。」
2人は私に教えてくれるつもりはないようだ。うーん、褒められて嬉しいけど、ちょっとよく分かんないな。
「……まあ、いっか??」
「ねえレイラ、あれから氷の魔道士様とはまったく話してないのよね??」
「うん、そうだよ。」
そう答えれば、サラとケイトは呆れた顔をする。
「向こうが忙しいというのも分かるけれど、レイラ、何か勘を働かせて避けてるわよね??」
「へぇっ?ケ、ケイト、な、なんのこと〜??」
「「はぁ〜。」」
そう、私はあれ以来、ギルバート様とまったく話してない。向こうが忙しい、ということもあるけど、なんとなく、なんとなくここにくる気がした時は私がお手洗いに行ったり、図書館に行ったり、食堂に行ったり……
私の勘、母譲りでよく当たるようで、私がそうして教室からいなくなった際、必ずギルバート様は現れているらしい。
「いい加減会ってあげなさいよ。」
「そ、そんなこと言われても〜。」
「もう3回も避けてるわよ??」
「うぅ〜。」
あんなことがあった後で会うとか、恥ずかしすぎる。恥ずかしすぎて無理だ。それに、一緒にいるところを見られたら……さらに視線に晒されることになっちゃう……
「フォーサイス様、避けられてて凹んでるかもしれないわよ??」
「え??別にそれはないでしょう。」
ない、絶対にそれはない。それに、そもそも避けられてる、と気づかれてはいないはずだ。
「「はぁ〜。」」
「フォーサイス様も苦労するわね。」
「何言ってるの??」
「ええ。でも仕方がないわ。」
「ねえ、ケイト??サラ??」
「そうね。」
「「だって、レイラですもの。はぁ。」」
なぜか、息ぴったりに決められた。なんなのだ。私は私だけど、私がなんだと言うのだ……




