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平凡令嬢、夢を掴む  作者: 海ほたる
30/51

おかしいギルバート様(4)


 私が水をゆっくり味わって飲み終わったところを見計らって、ギルバート様は話しかけてきた。


「……レイラ、何か欲しいもの、ある?」


「ギルバート様??私、特に欲しいものは無いですよ??」


「…………」


 きっと、何かお礼の品を、とでも考えているのだろう。そんなもの、とてもじゃないけどいただけない。逆に、私の方が送りたいくらいだ。だって、お姫様抱っこで転移してくれたあなたのおかげで、今の私は安全に暮らせているのだから。


「……レイラは今度の夜会、出る?」


「えーっと、剣技・魔法大会が終わったあとにあるやつですか?」


「ん、そう。」


「はい、出ようと思ってます。」


「ん、そっか。……」


 そう、剣技・魔法大会が終わった後、夜会が待っている。


 夜会、と言っても、大人たちがやるような、縁を繋ぐ、商品を売りつける、政治の話をする、と言うようなものとは随分と色が違う。この学園で行われる今回の夜会は、夜会という名の、『剣技・魔法大会お疲れさんの会』と言ったところだ。


 簡単に言ってしまえば、前世で言う、体育祭の打ち上げの規模を全学年にしたような感じの会、である。


「あの、その夜会がどうかしたんですか??」


 紫の瞳がこちらを捉える。


「…レイラ、エスコート、決まってる?」


「多分、お兄様に頼むことになるかと思いますけど……」


 でも、兄はお相手を探せって言われてたしなぁ。正直、兄に頼むのは得策では無い。本格的に兄が結婚出来なくなる可能性が……


 兄よ、お前モテるんだから、かわいい子をさっさと捕まえてきなさいな……


 まあ、エスコートは必ずしも必要、と言うわけでもない。だから、別に、私1人でも構わないんだよね。私は美味しいものをたくさん食べられれば、それで良いから。なにせ、兄と違ってまだ一年ですからね!!


「……ん、それなら、俺にエスコートさせてほしい。」


「え"っ!!あの、ギルバート様は、エスコートされる相手が決まっているのでは……」


 あの、きれーいな人がおられたはず……


「んーん、決まってない。」


「あれ?あの、いつもエスコートされている女性は……」


「彼女はただの親戚。いつも頼まれるからやってただけ。」


「そ、そうなんですか。……」


 多分だけど、いつもエスコートされているその人は、そう思ってないよ……


 というか、その人とそのうち婚約して、結婚するんじゃ無いかって言われてるし……


「……レイラは、俺にエスコートされるの、嫌?」


「にゃっ!……い、嫌じゃ、ない、です……」


 だからぁ、耳は良くない!!しかも、手!!この手は、いつの間に私の肩に回したのさ!!


 ギルバート様の方を見ると、ふわぁっと笑っていた。うぅ、良い顔です……


 なんか、すごい満足そうに見えるんだけど、それは私の気のせい、か、な??


 それにしても、なんでこの人が氷の魔道士、とか呼ばれているんだろうか。そんなに笑わない人ではないじゃない??


「………それなら、問題ない、ね?」


「………」


 私はまたしても、綺麗な顔の氷の魔道士と呼ばれているはずの人の、素敵な笑顔に釣られて、思わず頷いていたのだった。


「ちょっと、ギル、レイラさん、帰る準備は終わったの〜??」


 そう言いながらこちらに向かってくるシンディー先生。


 やば、話し込んでて何も準備してない。しかも、私の荷物もギルバート様の荷物も、教室では??


「おばさn」


「ギ、ル??」


「……先生、レイラは転移で送ってくから。」


「あら、そぉ??荷物は??早く取りに行きなさい??」


 素晴らしい笑顔のシンディー先生に見送られ、私たちは保健室をそそくさと後にしたのだった。


「あの、ギルバート様、私は自分の教室に荷物を取りに行きますので、」


 また今度、と言おうとしたところに、後ろから声が掛かった。


「レイラ、ちょうどよかった!はい、お荷物よ。」


「ケイト、ありが」


「それじゃ、また明日!!あ、フォーサイス様、レイラのこと、よろしくね。」


 それだけ言って、風のようにケイトは去って行った…… 


「「………」」


 しばし無言で、ケイトの去って行った方を2人して眺めていた。すると、今度は逆方向から声が聞こえてくる。


「あ、ギルバート、もう大丈夫か。酔いが抜けたみたいで、良かったな。はい、これ荷物。スピネット嬢も、ありがとな。それじゃ。」


 それだけ言ったサリヴァン様は、ギルバート様に荷物を押し付けて去って行った……


 あぁ、2人とも風のように去って行ったわ……


 なんか、面白さがじわじわくる……


「………っふ、ふふふ、あぁ、おっかしい。2人とも、まるで風のようにいなくなっちゃいましたね。」


 そう私が話しかければ、ギルバート様は優しい瞳でこっくりと頷く。


「レイラ、俺たちも帰ろう。」


「はい。」


 そう言って差し出された手に、私は自然と手を重ねていた。


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