おかしいギルバート様(3)
「……ラ、レイラ、」
「ぅんっ、」
「レイラ、そろそろ起きて。」
「んっ、あと5分〜……」
まだ寝たい〜。それになんか、良い匂いがするの〜。
「あらまぁ、ふふふ。レイラさんったら。」
「んん〜、」
「レイラ、起きて。」
「ん??」
あ、れ??ギルバート様の、声??
「レイラ、そろそろ帰ろう。」
しかも、めっちゃ近い、頭の上、から??
目を開くと、そこには、男の人の胸板。
恐る恐る見上げると、そこには、いつもと同じ、無表情のギルバート様。
しかし、その人は一方の手を枕にしており、もう一方の手で、私の頭を優しく撫で、髪を梳いている。
「レイラ、起きた?」
あぁ、そっか。私、ギルバート様をここに連れてくるまでに萌え殺されそうになって、ここについてからは、もう開き直ったんだった。
うん、そうだった。堪能してやろう、とか思って、ギルバート様にぐりぐりして……
そこからの記憶が無い。
「あの、私、もしかしなくても、大分寝てましたか……」
「ん、大丈夫。俺も寝てたから。」
そう言ったギルバート様は、まだ私の頭を撫で続けている。あれ??まだ酔いが抜けてなかったりする??
「レイラ、大丈夫。俺はもう普通。酔いは抜けてるから、心配しないで。」
思わずじとーっと見てしまったのは仕方ないと思う。
だって、なぜか私の頭を撫で続けているギルバート様が、まじかにいるのだ。本当にこれ、酔い抜けてます??
手が良い感じに気持ちよくて、また眠くなってきたし……ふわぁ、
「ふふふ、レイラさん、そろそろ帰らないとダメよ??さすがに2人をここに泊めちゃうのは、ねぇ??」
ん??
「シ、シンディー先生!!」
は、恥ずかしい!!
「ほら、抱き合ってるとこ悪いけど、早く起きなさい。」
そう言って、先生はくすくすと笑っている。うわ、私が抱きついてるじゃん!!
私は慌てて手を離し、体を起こし、ベットに腰掛けた。ギルバート様も、それに倣う。
「あの、その、……ギルバート様、ごめんなさい……」
これが照れずにいられるか。いや、無理だろう。ギルバート様が寝ているときにやったあれやこれや、食堂のあれやこれや、……
あぁ、なんで私あんなことしたんだろな!!顔をあげられないよ!!それに、ギルバート様、近い、近い近い。
「んーん、俺の方こそ、ごめん。……食堂で、レイラに迷惑かけちゃって。」
「いえ!!私は、全然大丈夫ですから!!ギルバート様は病人だったんですから、全く問題ないです!!」
「……」
「あの、ギルバート様??私は本当に大丈夫ですよ??」
だから、そんな顔しないで??
「…レイラ、本当にごめん。」
むっ、ギルバート様、悪いことしてないのに……
「……ギルバート様、謝らないで??あなたは知らないうちにお酒を口にしてしまって、酔ってしまっただけ。自主的に酔ったわけじゃ無いでしょう??」
そう尋ねれば、ギルバート様はこっくりと頷いた。
「だから、申し訳なく思う必要なんて、無いんです。そう言うこともある、って開き直っちゃえば良いんです。」
そう、どうにもならないことなんて、世の中たくさんある。例えば、この『私』の存在とか、ね。
そんな時は、いつまでもそこにこだわるんじゃなくて、他のことに目を向けた方が、精神安定上、宜しいことが多い。
「レイラ、……ありが、とう。」
あぁ、紫の瞳が、少しすっきりしたように見える。うん、あなたの瞳は、澄んでいた方が綺麗だよ。それに、私にお礼を言うなんて。
「ふふ、どういたしまして。」
ギルバート様は、やっぱり良い人で、素敵な人だ。だって、年下の私がこんな生意気なことを言ったのに、お礼を言ってくれるのだもの。
ギルバート様は喉が渇いたのか、サイドテーブルに置いてあるコップに、ポットから水を注いだ。
なんでだろう。よくあるテトラポットからよくあるコップに水を注いでいるだけなのに、ギルバート様がすると優美に見える。育ちがいいからなのか??それとも美しいからなのか。
はわわ、ギルバート様、水を飲んでる姿すら美しいって、一体どういうことですか??見てたら私まで喉乾いてきちゃった。そういえば寝起きだったな。うん。なんか私も飲みたいな。
そんな私に気づいたのか。
「レイラも飲む?」
そう言ったギルバート様は、サイドテーブルに置いてあるポットの水を再びコップに注ぎ、私に差し出してくれた。
「ありがとうございます。」
うまぁ〜。なんだろう、水なのにものすごくおいしく感じる。寝起きだから??それとも、ギルバート様の優美さを目にしたから??はたまた、普通に水分不足だったから??
うーん、我ながら心底どうでも良いことを考えているな。いや、でも、それは仕方ないことなんだ。
だって、間接キスじゃない??とか考えてるの、私だけだもん。
くぅ、余裕なギルバート様が羨ましい!!私なんて、私なんて!!
まず、ギルバート様はその声が良すぎる。顔も良すぎる。心まで素晴らしい。非の打ち所がないじゃない!!
そう、だから断じて、断じて私のせいじゃない。あなたに惚れてしまったのは、あなたのせいなんだから。




