おかしいギルバート様(2)
そうしている内に、ギルバート様の膝に横に座る形になってるし!!か、顔がよく見えるんだこれが!!近い!!近い近い近い!!!
なんでか知らないけど、色気がすごいし!!なんとなく、瞳もとろん、としてるし!!くっ、あなたの方がかわいいわ!!
はっ、!落ち着け私!!落ち着きなさい!!これは酔っ払いよ!!さっさと保健室に連れて行かなければ!!私が殺されてしまう!!
私よ、強く生きて!!!
ふぅ〜。
私が己の手から顔を上げると、そこには、ほわほわしているギルバート様が……
うっ!!ダメージが!!なんて顔なんだ!!ダメだ、綺麗な瞳がほわほわしてるとか、うぅ〜。
頑張れ、私!!
「……ギルバート様、保健室に、行きましょう??」
「ん。レイラ、目、瞑って?」
もしかしなくても、転移するつもりか??酔っ払いなのにいいのか!??
「…分かりました。」
とりあえず、私は大人しく目を瞑った。
すると、ギルバート様の右手が私のおでこの髪を避け、そこに、暖かくて柔らかい、手、以外のものが触れた。
「んっ??」
「ふふ、レイラ、もう良いよ。」
私がぱっと目を開けると、この前私が運び込まれた、保健室のベットの上だった。
いや、待って!!ギルバート様、おでこ、キスした!??ギ、ギルバート様!!
やばいよ!!やばいって!!やばいよ!!
ああ、私の語彙力がそろそろいなくなっちゃうよ!!
私がそんなことを思っていると、ギルバート様は私を両手で抱きかかえたまま、ベットにぽすんっと倒れ込んだ。
「!ギ、ギルバート様!!」
こ、これはまずいのでは!??あと、靴、靴履いたままですよね!!
「ふふ、レイラ、」
「ひゃあっ!!」
み、耳、耳元で、良い声で、私の名前、囁かないでぇ〜!!!
私がわたわたしている間に、靴は脱がされ、ギルバート様にベットの真ん中に押しやられていた。気づけば、2人向き合って、ベットにごろん状態だ。
まって、これ、まずいでしょ!!
「レイラ??」
名前を呼ばれ、反射的にそちらを見る。
あぁ、なんて顔。あなたの優しさが顔に滲んでる。
「ふふ、レイラ、かわい」
そんなことを宣ったギルバート様は、今度こそ、私がばっちり目を開けているときに、私のおでこに、キスを落とした。
「ひゃっ!!」
ギルバート様は、とっても優しい顔で笑っている。
「ギ、ギルバート様??本当に、大丈夫ですか??」
ねえ、あとで後悔したり、しませんか??
ねえ、ギルバート様??
「俺は、大丈夫。レイラ、レイラ、は、……」
そう言ったギルバート様は、眠ってしまったようで、健やかな寝息を立てている。どうやら、限界が来たようだ。
それにしても、なんて、なんて心臓に悪いのだ!!うぅ、しかも寝顔まで綺麗!!
とりあえず、ギルバート様から抜け出そう。うん、ここで一緒になって寝ているわけにはいかない。
ぬ??
あれ??なんで外れないの!??ちょっ、ギルバート様!!腕!!外して!!
「うぬっ!!ふっ!!」
あ、これ、無理なタイプだな。まじか。両腕でがっつり抱き抱えられてるわ。うわぁ、ギルバート様が、近い!!
私よ、落ち着こう。うん。今の私の状況を鑑みて。1番合う言葉は……
私、抱き枕、始めました。
あぁ、冷やし中華、始めました、の仲間みたいだね……
どう頑張っても抜け出せなかった私は、諦めて大人しく横になった。きっとそのうち、シンディー先生が来るだろうし。
「………」
それにしても、近い!!こう、ちょうどギルバート様の胸のあたりに私の頭があるんだよね。そしてちょっと上を見上げると、綺麗な顔が見えるという……
もういいか!!うん、もういいよね!!だって私、頑張ったよ!!ご褒美あってもいいよね!!うん、いいに決まってる!!
ここまで来たら、ギルバート様を堪能してやる!!ふふふ、私だって、散々ぐりぐりされたもんね〜。もう知らないもんね〜。
ちらっとギルバート様の顔を見る。うん、寝てるね。
よし、やったる〜!!
意気込んだ私は目を瞑って、ギルバート様の胸に頭をぐりぐりしてやった。ぐりぐりぐりぐり。
ふは、すごい満足感。しかも、ふわぁって、なんか良い匂いする。はい、好き。
ふふ、前世の修学旅行、あの時もこんなことしたなぁ。なんだっけ??やっぱり、詳しいことは思い出せないな。
でも、楽しかったなぁ。みんなでごろごろしながら恋バナしてさ、今日は何が面白かった、あの先生がつまんなかったって、語り合ってさ。人それぞれ、夢だって、持ってたんだよなぁ。
はは、顔も名前も思い出せない。会話の、詳しい内容も。ただ、こんなことを話したような気がする、ということしかわからない。モヤが、かかってるんだ。
それでも、大切な人たち、大切な思い出、幸福だった、ってことだけは、分かるんだ。
私は周りの人に恵まれていて、いつも幸せ者だな、って思ってた。私を理解してくれる人がいて、信じてくれる人がいて、暖かく迎えてくれる人がいて、面白おかしいことをする仲間もいた。
それら全てにモヤがかかってるんだ。『私』にとって、とても大切な物であるはずなのに。
あぁ、でも、その方が良いのかもしれない。もう、あの世界に戻ることは無いから。
前世の私に、あの場所に生きていた私に、戻ることは無いから。
もちろん、思い出だって、大切な物。そこにいる人たちだって、大切な物だった。
ううん、今でも『私』にとって、大切な人たち。
でも、『私』は、それだけの『私』で無くなった。
ここには大切な人たちがいる。今の『私』にとって、大切な大切な人たちが。
だから、どこか別の世界を思うより、今いる世界で、今のこの『私』で。
ここで、幸せになることの方が、先決だ。




