おかしいギルバート様(1)
これが、看病だとしても、無理ぃぃ〜!!あのですね、体温がダイレクトに来てですね、しかもなんか良い匂いがしまして、ですね、ええ。
つらい!!心臓爆発しそうだし!!
だめだ!!床から目を外せない!!
私がそんな大混乱に陥っていると、ギルバート様が私の肩から顔を上げたのを感じた。
ちょっと距離ができたのを感じたので、ちらっと後ろを見てみると、少し顔の赤いギルバート様がいた。
私はぐるんと顔を前に戻し、顔を手で覆った。
あー、見なければ良かった。なんか、破壊力増してませんか!??具合悪いのに破壊力増しちゃうの!?なんでなの!??
なんか、なんかなんか、こう、色っぽいんですけど!??無表情だけどね!!こんなの私、前世今世含めて初めて見ましたよ!!ええ!!
「……ベネット、ごめん。俺、保健室、行く。」
「あ、ああ。その、ギルバート??ほんとに大丈夫か??」
「ん。」
そう頷くと、また私の肩に頭をぽすっと置かれた。
「「「…………」」」
みんな無言だ。私は心臓が死にそうだ。頼む、誰か私を救ってくれ。もう過剰摂取しすぎておかしくなりそう。
たまたま目の合った王太子様に、『王太子様、へ、る、ぷ!!』と目で訴えると、それを聞き届けてくれた。
良かった、やっぱりこれは普通じゃない!!もうダメになっちゃってるよ、絶対!!
「……なあ、その、お前が抱えているレイラ嬢は、離してあげた方がいいと思うぞ??」
「ん?んーん。だめ。」
そう言うと、私の肩に頭をぐりぐりしてくる。か、過剰摂取で死ぬ!!!ギルバート様、どうしちゃったの!??
くっ!!かわいい!!これがかわいいんだから辛い!!もう、私に残された手段は、顔を手で覆うことだけだ!!
「「「…………」」」
「あっ!!」
しばらくの沈黙の後、声を上げたサリヴァン様に視線が集まる。
「殿下、俺が朝、殿下に渡したチョコ、ギルバートに渡しましたか??」
「ディランにもらったやつか??たしかにギルバートにも仕事やったら食べろと1つ渡したが……」
「あれ、酒精入りです。」
「……」
「俺、酒精入りだって、言いましたからね。」
「……」
王太子様、やらかしましたね……
黒髪高魔力保持者は、総じてアルコールに強い。でも、その強さが特殊すぎる。なんと、アルコールが回るのが遅い、という意味で強いのだ。理由は、アルコールが自身の持つ魔力に反発されて、体内を流れにくいから、と言うもの。
普段言う、酒に強い、弱いは、体質が大きく影響する。
この様子をみると、ギルバート様は前に食べたお菓子のアルコールが、今更回ってきた、と言うことなのだろう。
それにしても、お菓子のアルコールで酔ったのか。あれ、全然お酒、入ってないよね??子供でもOKなやつだもんね??
ふむ、ギルバート様は相当アルコールに弱いとみた。
くっ、この酔っ払い、かわいいんだけど!!!ぐりぐりしてるのがめっちゃかわいいんですけど!!あ"ぁ、かわいいからなんでもいいよ、もう!!
ちなみに、酔いを醒ます薬なんかがこの世界にもあるのだが、とっても不味いらしい。私は平凡の中の平凡体質。お菓子のアルコールで酔ったりはしないので、その薬のお世話になったことは無い。
そして、飲酒は学園を卒業する年、19歳になったら許可される。今世でも、お酒を飲みすぎるのはよろしく無いことらしい。肝臓は大事にしたいね。
さて、酔っ払いだと分かったことで、私の心は幾分か安寧を取り戻した。今度は気をつけてくださいね、王太子様!!ほんとに!!
しかしながら、この状態。いつもはかっこいいだし、クールでまったく表情が変わらないと噂の氷の魔導士様なのに!!いや、氷の魔道士様は嘘だろう、って思ってたけどね!?それが、それがこんなになっちゃうなんて!!くっ、最高かよ。うわぁ、好きだ……
「ふふ、レイラ。」
「ひゃっ!」
待ってください、この酔っ払い!!首は、首はダメ!!それにギュッてしないで!!密着しちゃうじゃない!!私の体温どんだけ上げたら気が済むんですか!??
「…すまない、レイラ嬢。ギルバートを保健室に連行して行ってくれ。これ以上この状態のこいつを置いておいたら……」
その言葉で私も気づいた。周りを見ると、女生徒たちが大変なことになっている。生きている人たちはみんなこっちを見ている。
う、うわぁ!!なんてことだ!!ここ、食堂だったよ!!家じゃないんだよ!!私はさーっと血の気が引いていくのが分かった。
慌ててギルバート様の膝から降りようとしたのだけれど、無理だった。なんでかって、両腕で私のお腹がホールドされてるから!!今気づいちゃったんだけど、重くないんですか!??下ろしてギルバート様!!恥ずかしい!!
「だめ、レイラ。ここにいて?」
「うっ、」
くっ、この酔っ払い!!声が良い!!耳がやばい!!
みんな〜、こんなギルバート様、きっと、もう一生見れませんよ〜。今のうちに見ておいてくださいね〜。私のことは忘れてくださって結構ですよ〜。お願いですから、私のことは忘れましょうね〜。
ふぅ〜。よし、行こう。撤退だ、撤退。私は意を決して、肩の上にあるギルバート様の頭に触れる。
ふわぁ!サラサラな髪ですなぁ!
って、違う違う。ふぅ〜。
「……ギルバート様、大丈夫ですか??私と一緒に、保健室に行きましょう??」
ギルバート様の頭をぽんぽんしていると、私のお腹に回っていた手が1つ取れた。そして、頭をぽんぽんしている手を取った。そのまま、流れるように手にキスされた。
ん??キス、された??んん??
「っふ、レイラ、かわい。」
「ぴゃぁ!」
み、耳元ダメだって、良くないってば!!いい声なんだってば!!
私は思わず顔を両手で覆った。もう、無理だ……




