学園食堂にて(1)
「お嬢様、朝ですよ〜。」
「んん〜、あと5分〜。」
「お嬢様、学園に遅刻しますよ〜。ほら、起きた起きた!!」
そう言ってアルマは私から布団を剥く。
「んん、アルマぁ〜、まだ寝るのぉ〜」
「ダメです。お嬢様、今日は学園ですよ??ほら、7時半になっちゃいますよ??」
「ん……んん!!」
私の目はシュバッと覚めた。まずい!!今日来るのは副担任のミラー先生だったはず!!やばい、あの人に目をつけられると困る!!日直がやるはずの雑務とかを全部押し付けられるんだもん!!やだ!!
「ほら、顔洗ってください。それから、制服に着替えて。はい、朝食もきちんと食べてくださいね〜。」
こうして、昨日散々な目にあったとは思えないほど普通にアルマに世話を焼かれ、学園に送り出されたのであった。
そしていつも通り、1人で廊下を歩く。一昨日の視線は大分痛かったのだけれど、今日は全くもって感じない。良かった、みんなこの前のことは忘れてくれたようだ!!
そりゃそうだよね。私のことをずっと覚えておく利益がないもの。
そのまま普通に教室に入り、挨拶を交わし、席に着く。しばらくするとチャイムが鳴り、ミラー先生が教室に入ってきた。
「おはようございます。」
「「「おはようございます。」」」
みんなが挨拶を返す。
先生はぐるーっと教室を見渡す。
「欠席、遅刻はいませんね。それでは、今日の連絡を始めます。」
このミラー先生、とっても爽やかイケメンで、物腰も柔らかな人である。年齢はわかんないけど、まだ20代でなかろうか、と思う。この学園で働いている人の中で、1番若そうだ。
そんな先生なのだが、よろしくないことをしてしまった生徒には、爽やかな笑顔で雑用を押し付けてくる。プリントの枚数を数えさせるとか、印刷させるとか、ホチキス溜めをやらせるとか……そう、地味にめんどくさいことを頼んでくる。つまりは、目をつけられるとめんどくさいことになる先生なのだ。若いからと言って、舐めてはいけない。
「えー、皆さんも知っての通り、もうすぐ剣技・魔法大会が行われます。出場希望者は、ここに置いてある紙に必要事項を書いて、職員室に持ってくるようにしてください。では、今日の授業も真面目に受けるように。」
そう言って、先生は教室を出て行った。すると、途端に教室が騒がしくなる。私も後ろを向いて、サラ、ケイトとお喋りする。
サラは私の後ろの席で、ケイトは斜め後ろの席、私は1番前の、窓際の席という配置になっている。動かなくて良いこの席は、ものぐさな私からすると、とても楽で、素晴らしい配置である。適当に割り振ってくれた先生に感謝だ。
「ねえ、ケイトは魔法部門の方で出るの??」
サラがケイトに尋ねる。
「ええ、そのつもりよ。」
やはり、ケイトは大会に出るようだ。この大会、人対人で戦い合うものなのだが、中々に激しくなる、らしい。一年なので、実際に見たことがないからよく分からない。
対戦の際には、保護の魔法が掛けられるから命の危険は無いらしいけど、普通に怖い。私には人と戦うなんて無理だ。戦争をしていない国、時代に生まれることができて良かった、と心の底から思う。
「ケイトはすごいなぁ。私、出たら即敗退する自信があるよ。」
「ほんと!ケイトはとても強いわよね!!」
「ふふ、ありがとう2人とも。そうねぇ、レイラは弱くはないんだけどねぇ。」
「ケイト、やっぱりそうなのね!!魔法の授業を一緒に受けてる時から思ってたけど、レイラもかなりの魔法の使い手よね!!」
「そうかなぁ??」
褒められると嬉しい。
「サラ、たしかにこの子はできる子なのだけど、対人・魔物はだめなのよ。」
「そうなの??」
「ええ、レイラは鈍いところがあるから。」
「ああ……」
「「……」」
「ねえ、なんでそんな可哀想なものを見る目でこっちを見るの。」
視線が、視線が……
「それさえなければ結構良い線行くと思うのだけど……」
「レイラじゃあ、ね、……」
「ねえ、2人とも、なんで私を上げて落とすの……」
そんな会話をしたのち、午前の授業をしっかり受け、お昼休みの時間となった。今、私たち3人は、食堂にてお昼ご飯を食べながらのお喋りタイムである。
そういえば、ここの食堂は、前世で言うところの、ショッピングモールのフードコートと似ている。なんだろう、考えてみると、ものすごい違和感だ。だって、貴族がジャンクフード食べてるみたいに見える。実際、ジャンクフード系のメニューあるし。
使われてる食材は、この世界からしたらまあまあレベルの物。そして、その日の献立と常時あるメニューの中から選べるようになっている。
私の今日のお昼は焼きそばである。サラは親子丼、ケイトはハンバーガーを食べている。なんだろう、ほんとに違和感がすごいんだけど……
まあ、気にしても仕方がないか。うん。そう言うものだと思っておこう……
そんなことを考えながら、私は黙々と焼きそばを食べている。喋っていると、食べ終わらない可能性があるからだ。
前世もそうだったのだけれど、私は早食いができない。仕方がないので、基本静かに、友達が喋っていることに頷きながら食べるのだ。2人の方がさっさと食べ終わるからね。
そうして私が1人もぐもぐしていると、なぜか、本当になぜか、王太子様御一行が隣のテーブルに着席したのだった。
ベンジャミン・ミラー
貴族学園の教師。ミラー男爵家の三男。赤茶の髪にヘーゼルの瞳の爽やかイケメン。




