家族団欒
「あら、あっちは忙しいみたいねぇ。」
「そうだね。ねえ、ベラ。ベラは実家、戻りたいんでしょ??」
え??旦那が実家帰りを促すことって、ありますか??
「ロビン、よく分かってるわね。ふふ、向こうが手に負えなくなってきた頃、向かうわ。あなたに止められてもね。」
「ベラ、俺が止められないって分かっててそう言っているだろう??」
あ、そう言うことか。お母様は魔物討伐に加わりたいんだ。私、焦ったよ。ちょっと焦った。今でも大分仲良い2人なのに、いきなり別れるのかと思ったよ。
そっか、そうだよね。お母様はデジェネレス辺境伯家の姫で、めちゃくちゃ強いんだ。剣もある程度は扱えるし、魔法も得意っていう。
カーラおば様とかケイトは、割と魔法に極振りされてる感じだけど、自分の容姿すら利用して、周りの人たちの指揮を上げてしまうんだよね。周りにがっつり守らせてる。守られて無かったとしても、それはそれでめっちゃ強いし。辺境伯家、みんな強い。
「ふふ、まあね。さ、とりあえず、お茶にしましょう。」
「そうだな。こうして家族4人揃うのも久しぶりだ。」
時計を見てみれば、ちょうど3時過ぎだった。うん、おやつにぴったりの時間だ。
母に言われて連絡の魔具は片付けられ、お茶の準備がされ、久々の家族団欒である。
ふわぁ、りんごパイ!!これ、美味しいんだよねぇ。
「ねえ、レイラ。」
「はい、なんですかお母様??」
「あなた、フォーサイス公爵家の嫡男に見染められたのよね??」
「はい??」
え??お母様、今、なんと??
「な、何!?ベラ、一体どう言うことだ!!」
「レイラ!!一体どう言うことだ!!」
父と兄が立ち上がる。
「だ〜か〜ら〜、フォーサイス公爵家の嫡男に、見染められたのでしょう??」
父、兄、母の目が私に集中する。
「……あの、お母様??それは、ものすごい勘違いだと思うのですけれど……」
母よ、爆弾を投下しないでくれ。
「あら??聞いたところによると、フォーサイス様、ではなくて、ギルバート様、と呼んでいるらしいじゃないの。」
「「そうなのか!?」」
母よ、そんなことどこから仕入れてきたんだ……
「……はい、そう呼んで欲しい、と言われまして…」
「あらあら??違うでしょう、レイラ??」
なんだなんだ、まだ何かあるのか??そんなによによしてこっちを見ないで、母!!そういう関係じゃないから!!ね!!
「レイラ、あなた、本当はフォーサイス公爵家の氷の魔導士様に、ギル、って呼ぶようにって、言われてなかったかしら??しかも、向こうはあなたのことをレイラ、って呼び捨てで呼んでるわよね??」
「「そうなのか!?」」
「……」
ねえ、お母様、何でそんなこと知ってるの??ねえ、お母様??
「ふふ。その上、氷の魔導士、な〜んて呼ばれているその人が、あなたの前では柔らかい表情をするのでしょう??アルマから聞いたわよ〜。破壊力がすごかったんですってね。ふふふ。」
ア、アルマかぁ〜!!
私は思わず手で顔を覆った。
たしかに、たしかに言ったわ、アルマには!!だって、あの微笑みは、破壊力がすごかったんだもん!!うぅ、思い出しただけでもやばい。なんって顔してくれてるんだ!!ゔぅ、あれを聞かれたのは、不可抗力だ……
「……あの、たしかにギルバート様が氷の魔導士と呼ばれているのは嘘だろう、と思うくらいには笑っていらっしゃいましたけど、その、見染められた、というのは、違う、と言いますか……」
まじで違うからね!!お母様、によによしないでください!!
「あらぁ??これを見染められたと言わずしてなんと言うのよ。ふふ、大物を釣り上げたわねぇ。さすが、私の娘だわ。」
「あの、お母様??本当に、ギルバート様は私のことを善意で助けてくれただけですよ??その結果、たまたま私の魔力と相性が良いことが分かって、それで、私のことを個人的に守る、と言ってくださったのですし……」
「まあ!!まあまあまあ!!それはとっても心強いわね!!ふふ、ああ、あなたたちの結婚式が楽しみだわ。」
「お、お母様!!本当に、本当にそれは違いますって!!失礼に当たりますって!!」
「ふふ、お母様の勘は当たるのよ〜。レイラ、あなたの勘も良く当たるでしょう??」
「たしかに勘は良く当たりますけど……って、違くて、ギルバート様に何か言われたわけでもないのに、そんなこと言ってたら本当に失礼ですって!!そもそも、数時間しか話したことない相手なんですよ!??」
「ふふふ、大丈夫よ〜。時間なんて関係ないわ。惚れる時は一瞬よ。ふふ、近いうちに、婚約の申し込みが来る気がするから。」
「へ??」
「ふふ、お母様の勘は当たるのよ〜。」
う、うそだろ!!これ、もはや勘の域じゃ無いと思うし!!流石に母の言うことでも、これだけは違うと思います!!えぇ!!
で、でも、母がそうなる気がする、なんて言ったときには、ほんとに100%の確率でそうなる、んだよ、ね……
私の結婚相手、そんな大物じゃなくて良いんですけど!!というか、ギルバート様、違いますよね!!いくらなんでも、私のこと、その、好き、とか、そんな感情じゃ、ない、でしょう??
あ"ぁぁぁ!!もう、意味がわからない!!
「……べ、ベラ、その、それは、本当、なのか??」
「あら、あなた。私の勘の良さ、あなたが1番良く分かっているでしょうに。ふふ、間違い無いわよ。レイラも満更じゃなさそうだし、良かったわねぇ。」
「お、お母様……」
あぁ、何てこと……
「レイラ、もし相手が見つからなかったら、一生結婚できなかったわよ??良かったじゃないの〜。素敵な人と巡り会えて。」
「くっ、フォーサイスの奴、うちの天使を狙っていたなんて!!」
「リアム、俺はアレクの倅にうちの天使をやりたくなんてないぞ!!」
「父上、もちろん俺もです!!」
「あらぁ、あなたたち、何を言っているのかかしら??ふふ、とっても良い子が私たちの家族になってくれるって言うのに。」
お母様がふぅっとため息をつく。我が母ながら、綺麗な人だ。
「ねえ、ロビン??私にとってのロビンを、レイラは見つけたのよ。それを邪魔しようって言うのかしら??」
「……」
「本当はロビンもわかっているのでしょう??もちろん、リアム、あなたも。」
「……」
うおぅ、母、男2人を見事に鎮まらせた。さすが母。
いや、待て!!ギルバート様!!私の家でのあなたの扱いが!!私の婚約者になってしまっていますよ!!それでいいんですか!?よくないですよね!!お願いだから、何とかしてぇ!!
久々の家族団欒は、母により爆弾が投下されて終わったのだった……
アレクサンダー・フォーサイス(37歳)
フォーサイス公爵家当主。ギルバートの父親。黒髪高魔力保持者で、海のような瞳。




