事情説明会(5)
「それから、前回の聖女が現れてから、大体5000年が経っています。」
え、そうなの??それじゃあ、聖女という名の異世界人が、再び、現れる可能性がある、ということ??
そんな、それは、それはあんまりだ。その人の生活を、奪うなんて……
「……それでは、ここ最近、辺境では魔物が増えてきている。そういうことなのね??」
「はい、その通りです。前は出現していなかった場所まで魔物たちが山から降りてきています。」
まじか!!それは、この世界の人々にとっての死活問題だ。魔物は普通の動物と違って、ある程度魔法が使える上に、凶暴だ。そして、この世界には銃、なんて便利で危険な道具は存在していない。だから、ある程度魔法が使えるか、剣の腕がなければこちらがやられる。最悪、死ぬ。
「そう。……聖女様を探すことが1番良いと思っていたけど、異世界の方、となると、そうもいかないわね。そのご先祖様は、どうやって世界を超えてきたのかしら??」
お母様、聖女を探そうと思っていたのか。たしかに、それが1番効率が良さそうだ。だけど、私は、異世界から来る人に魔物の殲滅をお願いするとか、したくないよ。
「えーっと、それなのですが、遺されている文献によると、光の柱の下に、降り立つ、と。そう書かれていました。」
「…つまり、神の仕業。」
まじかよ、神様ふざけんなや。その人の人生を何だと思ってるんだ。神からしたら、所詮、異世界の人間なんか、モルモットにすぎないってのか?
ああ、無責任にそんなことしないでくれよ。せめて、幸せになれることが約束された場所に。そんな場所に連れて行ってあげればいいのに。
「はい。そう言うことになるかと。」
「リッカルド、その光の柱は、どこに現れるの??」
「えーっと、前回現れた場所は、貴族学園の庭園、だったそうです。現れた時は、王都の方まで魔物が迫っていた、とも書かれています。ですから、現れるとしたら、もっと先の話となるでしょう。」
「そう。……他に、何か情報はある?」
「いえ、特には。」
「そう、ありがとうリッカルド。今は大変な時でしょうに。」
「ふふ、姉上、僕が必ずやると分かっていて頼み事をしてきたのに、相変わらずずるいですねぇ。」
「ふふ、私の弟はとっても頼りになってよ。」
「それは、昔から姉上の手先としてこき使われてきた証ですかね……」
おじ様、いわゆる振り回され体質ってやつだよね……
「まあ、光栄でしょう??」
「はぁ……もう諦めてますから、いいですけど。ああ、そうだ。レイラ、いるかい?」
ぬお、私??
「おじ様、レイラです。」
「ふふ、レイラ、遅くなってしまったけど、学園入学、おめでとう。」
「ありがとうございます。」
おじ様、それ今なの?別に嬉しいし構わないのだけれど、今なの??ちょっと笑っちゃう。ふふ。
「これから、髪色を隠して学園に通うのは大変かもしれないけど、心配しないで。ケイトがいるし、リアムもいる。それに、レイラの味方になる人は沢山いるから。みんな、レイラを守ってくれるはずだよ。」
「おじ様、……ありがとう、ございます……」
泣かせる気か!!本当に、ありがとうございます。
「それから、リアム。」
「はい。」
「リアムも4年生進学、おめでとう。学園生活、あと2年、しっかり楽しめ!そして、レイラのことを守るのはもちろんだが、自分の結婚相手も探しておけよ。」
「おじ上、ありがとうございます。あの、レイラのことは必ず守りますけど、結婚相手は、ちょっと……」
「なに、お前が告白したら一発だ、何も心配はないな。はははははっ!」
「……」
あ、珍しい。兄の目が死んでいる。でも、そうだよねぇ。あれだけ女子に狙われ続けているとねぇ。そうなっちゃうよねぇ。ふふふ。
「リッカルド、忙しいところをわざわざありがとうな。」
「いえいえ、可愛い姪のためですからね。」
「はは、それもそうだな。」
お父様、それは親バカです。
「そうですよ。」
おじ様、親バカに負けないで……
「リッカルドも何か頼りたいことがあれば言えよ。俺が出来うる限り力になるからな。」
「ふふ、ロビン義兄上、ありがとうございます。それにしても、まさかレイラの黒髪が先祖返り的なものだったとは。早とちりして聖女かもしれない、とか言ってしまって、すみません。」
ああ、なるほど。確かに、先祖返り、になるのかな。実を言うと、私の前世の記憶が影響してる説あるけど……
「リッカルド、それはいいんだ。考えてもみろ。もし、黒髪だと幼いうちにバレていたら、確実に王家がレイラに手を出してきていたぞ。」
え"!?どういうこと!??
「確かに……」
待って、お母様もお兄様もこっちを見て、無言で頷かないで!!
「もしも、あと何年か経ったら聖女としての力が使えるようになるから、とか何とか理由をつけて、うちのかわいいかわいいレイラと婚約でも結ばされたら、大変だろう??」
「それもそうですね。レイラを囲うなんて僕らが許しませんけど。」
「そうだろう??王家と対決するのは、中々に骨が折れるからな。」
いや、ちょっと待ったぁ!!私が婚約させられていたら、王家と全面対決でもするつもりだったの!??やめて!!全力でやめてください!!そして、お母様とお兄様、頷かないで!!
「確かにそうですね。」
『リッカルド様ぁ!!魔物が!!至急、応援を!!カーラ様が応戦中です!!』
「なに!!今すぐ行く!!」
カーラおば様とリッカルドおじ様なら大丈夫だろうけど、気をつけてほしい。
「すみません、僕、カーラのところに行かなくちゃ。ああ、何か困ったことがあったら、ケイトを通してでも良いので、連絡くださいね。それから、ケイトのこと、よろしくお願いします。それじゃあ、姉上、ロビン義兄上、リアム、レイラ、またね。」
そう言って、連絡の魔具は切られたのだった。
親たちのちょっとしたプロフィールです。
ロビン・スピネット(39歳)
レイラとリアムの父親。スピネット伯爵家当主。サラサラの銀髪に青の瞳。
ベラ・スピネット(38歳)
レイラとリアムの母親。豊かな金髪に翡翠の瞳。旧姓はデジェネレス。
リッカルド・デジェネレス(37歳)
レイラとリアムの叔父に当たる人で、ベラの弟。ケイトリンの父親。デジェネレス辺境伯家当主。金髪に翡翠の瞳。
カーラ・デジェネレス(34歳)
レイラとリアムの叔母に当たる人。ケイトリンの母親。金髪に薄ピンクの瞳。




