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平凡令嬢、夢を掴む  作者: 海ほたる
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はじまり(2)


 気がつくと、私はベットの中にいた。ついさっき前世の記憶を思い出したというのに、混乱はほとんど無い。モヤがかかったような記憶だからだろうか。それとも、性格が今の私とほぼ同じだからだろうか。


 記憶によると、私は日本で大学1年生の春休みを満喫しているところだったようだ。死んだ時の記憶はない。もしかすると、思い出さないようにしてるのかもね。大学受験が終わって、友達と遊びまくって楽しかったっていう記憶が多いな。


 なんだか全体的にぼんやりしていて、名前とかは思い出せない。顔も、思い出せない。すべてにモヤがかかっているというか、夢の中みたいというか。家族の顔も思い出せない。ただ、前世の私は何かに不自由することもなく、幸せに生活していたみたいだ。私のことを理解してくれる友達もいたし、家族もいた。毎日平和に、普通に生きていた。


 私の小さくて壮大な夢は、叶わずに死んでしまったようだけど。


 まあ、それはそれ、これはこれっていうし。死んでしまったものは仕方がない。どう足掻いたって、過去には戻れないのだ。後ろではなく、前を、未来を見ていくべきだろう。


 まさかの異世界転生、か。私がすることになるなんて、1ミリも思ってなかった。異世界もの小説とか、乙女ゲーム設定の小説とか、読むのは大好きだったけど。記憶を思い出したおかげで何かできるようになったりしてないかなぁ。正直、ワクワクが止まらない。魔法、私も使えるんだよね。今までは普通に使ってたけど、もっと極めよう。転生特典とか、あってもいいよね。もしかして、魔力量増えてたり、しないかなぁ??ふふふ、寮に帰ったらいろいろ試してみよう。



 さて、そろそろ起きよう。いつまでも寝てるわけにいかない。そう思い、もぞもぞと起き上がると、私の胸元まである綺麗な黒髪が目に入った。


 ん、え??黒髪??あ……魔法、とけて、る……ということ、は……私の髪の毛の色、バレた、よね。あぁ〜やらかしたぁ〜。はあぁぁぁ。


 実は私の髪色、とても目立つのだ。なぜなら、この世界では、黒髪は高魔力保持者が持つものだから。そして、その人数はとても少ない。今は国に10人しかいない。完璧な黒髪となると、3人しかいない。残りの7人は、太陽に透かすと赤みがかって見えたり、青みがかって見えたり、緑みがかって見えたりするのだ。前世の記憶を取り戻した私からすると、その方が珍しいと思うのだが、純粋な黒、というのはこの世界ではとても珍しいのだ。


 私の髪は、ほんとうに純粋な黒色をしている。それなのに、高魔力保持者ではない。バレたらめんどくさいし、いちいち「えっ、黒髪なのに魔力普通……」という反応をされるのも嫌なのだ。そうなったら、隠すのが得策だろう。


 あぁ、なんてこったい。あそこにいた人達、みんな私の髪の色、見てるよね。きっと、意識を失った時に魔法はとけただろうし…口止め、お願いしておきたいところだな。止まるかはわかんないけど……特にエミリア様とか……


 エミリア様、めちゃくちゃヒロインっぽかったな。小説でいったら完璧なヒロインの役どころだよ。アリス様はものすごいツンデレだったな。「あなたのために言ってるんじゃないんだからねっ!!」みたいな……


 とりあえず、いつもと同じ金髪に戻しておこう。ふぅ。これでOK、と。いやぁ、魔法って便利だよね。


 そういえば私、ここにどうやって来たのか、記憶が無い。これ、どう考えても運ばれたパターンだよね。さっきいた庭園と違って、薬品の匂いがする部屋。それに簡易なベッドに薄いカーテン。うん、保健室っぽい。多分だが、突然倒れた私を目撃してしまった優しい誰かが、私を保健室に運び込んでくれたのだろう。担架で。もう一度言おう。担架で。


 夢のお姫様抱っこは、どこの世界でもあり得ない夢なのである。


 この世界、魔法があったり妖精がいたり、魔物がいたりとかいうファンタジーな世界だけれど、前世の日本と同じくらい発達している。電気の代わりに空気中に存在している魔素を使う、電化製品ならぬ魔具製品があるのだ。生活はとても便利になっている。トイレも綺麗だし、お風呂も綺麗。電気も明るい。あ、電気じゃなくて魔灯か。


 そんなわけで、日本に存在したものはほとんどこの世界にも存在している。存在しないのは、携帯とか、スマホとかの類いかな。存在しないとは言っても、似たような技術はある。魔石を使うのだ。魔石を使えば、その人に向けてメッセージを送れるし、会話もできる。ただ、高価な物だから一般に普及はしていない。貴族の家に1つあればいい方ではないだろうか。


 あ、考えが逸れに逸れまくってしまった。まあとりあえず、そんなわけだから、担架は存在するのである。


 それにしても、近くにいたの、ご令嬢2人と王太子様と、その側近3人だった気がするのだけれど…なんとなく、なんとなくだけど、王太子様の側近に私を運ばせてしまったのでは??あ、なんか、血がさっと引いた気がする…


 王太子様はもちろんだけれど、側近の方々の身分も高いのだ。私を運ばせるなんて、お、恐れ多い。


 学園外にいたのなら、きっとそこら辺にいる従僕にでも運ばせたことだろうが、残念ながらあそこは学園内だ。学園内なのに、なんであんなに立派な薔薇があるんだよ……さすが貴族の学園だな……あ、私も貴族だったわ……前世庶民の血がほとほとと騒ぐ。はあ。


 きっと『流石に倒れている令嬢を放置することなんてできない。仕方がない、運ぶか。うーん、誰運ぶ?』となったことだろう。迷惑をかけまくったようで申し訳ない。ほんとに申し訳ない。重かっただろうな。いや、体重は気にしたらダメだ。大丈夫、私、軽いし。うん。乙女に重いとか言ってくるような失礼な人は、きっと、いない、だろう。今世の私、美人だし、ね。うん。


 ほんとすんません、許してください、倒れたのは不可抗力です。そして運んで下さった方々、本当にありがとうございます。起きてあそこに1人放置されていたら、また迷子になる自信がありましたのでとても助かりました。ええ。誰が運んでくれたのかはとても気になるところだけども。


 あ、誰が私を運んでいても、そこを見られていたら終わる、な。いろんな意味で。本当に。いろんな意味で。


 そんなことを考えていると、人の入ってくる音がした。


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