事情説明会(3)
昨日の学園もいつも通り、いや、ちょっとだけ女子の痛い視線は受けたが、概ねいつも通りに終えた。そして、今日は学園がお休みの日。そう、実家へ帰る日なのである!
ということで、今はお兄様と一緒に馬車に乗っている。こうやってぼーっとする時間は、案外大切なことなのだ。
ちなみに、いつもうるさいお兄様だが、今日のお兄様は私に気をつかって、静かに本を読んでいる。
そういう風に私が疲れているって分かるところ、さすが兄だと思いますよ。私が妹だからよく分かるって言うこともあるんだろうけどさ。これだけ気づかいが上手で、外面完璧に王子様、中身も王子様……そりゃあモテるわけだよ。
ああ、兄を褒めてしまった。やめよう、考えるにしても他のことにしよう。私にとっての兄は、うざいの一言なんだ、褒められてることを感知したら調子に乗るぞ。うん。
さてと、家に帰るのは1ヶ月ぶりくらいになるだろうか。なんだかもっと時間が経っているような気がしないでもない。ほんと、ここ3日間が濃いものだったからなぁ〜。
ああ、そっちも思い出すのはやめよう……特にギルバート様とか、シンディー先生とか、女子の目線とか、殺気とか、聖女とか、ギルバート様とか……うわぁぁぁ!!向こう着いたらどうせ話すじゃんか!!ふぅ、やめようよ、私……
他のこと他のこと……
あっ、そうだ。前世との違いについて整理しとこう。
まず、この世界の暦とか時間関係、日本と全く同じ仕組みをしている。時計まで同じ。そして、技術力も日本に似たり寄ったり。ただ、一部魔法で置き換えられていたりする。飛行機とか車とかは存在していないけれど、貴族の生活は、日本人の生活とほぼ同じ便利さがある。
ただし、平民はちょっと事情が違う。1番異なっている部分は、日本みたいに義務教育なんて存在しないところだろうか。日本の小学校、中学校で習うような勉学の基礎基本を習いたければ、私立の学校に行くしかない。つまり、金持ちしか通うことができない。お金がたくさん入ってくる商家の娘、息子さんとかね。
粗方は親から教わることができるから、市場で困ることはないんだと思う。けれど、やっぱりその分、この世界の識字率はとても低い。そして、職業選択の自由なんてないだろう。
ここ、王城のお膝元に住んでいる人たちの識字率は高いし、本も出版されているし、普段字が読めない人に会うこともないから、忘れがちなことだけれど。
一部、スラムも存在している。日本にはスラムのような場所は無かったかもしれないけれど、その日の食べ物に困っている人たちは存在していた。あれだけ沢山の物に溢れた、豊かな日本ですらそうだったのだ。私がいた頃の地球の、日本以外の国。一般に発展途上国と呼ばれる国には、がっつりスラムが存在していた。だから、この世界にスラムが存在することは、何も不思議なことではない。それが、世の常というものなのだろう。
こんなもの、かなぁ。うーん、となると、やはり、前世でやったことのあるゲームの中の世界、とか、読んだことのある小説の中の世界、とかいった可能性が高い気がする。こんな設定の話もゲームも、流行っていたような気がするのだ。儚い夢のようで、ほとんど覚えていないのだけれど。うん、正直、私にはわからない。
もしかすると、読んだことのある物語の世界、なのかもしれないし、全く別の、正真正銘、異世界、なのかもしれない。
前世の世界では、宇宙には端っこがある、っていう可能性が証明されつつあったし、まあ、何があろうと不思議はない。
だって、私が記憶を持ってここにいること自体、あり得ない、を具現化している訳だし。
そう、地球という惑星が存在する宇宙、以外の、別の宇宙、があることだってあり得るわけだし。世の中、不思議が溢れているものだ。
そんなことを考えて馬車に揺られていると、懐かしの我が家に到着した。
なんか、碌でもないことばっかり考えてたな……




