フォーサイス公爵邸(4)
しばらくすると、ギルバート様は静かになった。そして、無表情に戻ってしまった。うーん、残念だなぁ。だけど、いつもより少しだけ柔らかい雰囲気の無表情だと思う。うん。その方が素敵だよ。
「レイラ、少し質問がある。」
「はい、なんでしょうか??」
何か聞きたいことでもあったかな??
「あなたはなぜ、黒髪を隠していたんだ??あと、あなたが黒髪だと言うことを知ってる者はどれくらい存在するんだ??」
ああ、確かに不思議だよね。
「…あの、隠していた理由はですね、黒髪なのに高魔力保持者ではない、と言う説明をするのが面倒だ、ということが1番にありまして。」
ギルバート様は心なしか渋面でこっくりと頷いた。なんでそんなに険しい顔してるのか……
私もこっくりと頷き返しておく。
「それから、私が黒髪であることを知っているのは、学園には、いとこのケイトリンと、お兄様しかおりません。」
「……ケイトリン嬢??……もしかして、デジェネレス辺境伯家のご令嬢か??」
「よくご存知ですね!!」
ほんと、よく知ってるな!!私なんて、クラスの人の顔と名前すら怪しいのに……
ちゃ、ちゃんと覚えようとは思ってるよ!!まだ1ヶ月くらいしか経ってないから、だから覚えてないだけだから!!決して、決してまあおいおいね、とか、思ってないから!!
「いや、彼女のことを狙って……お近づきになりたいと言ってるろくでなしが近くにいたから……」
あ、狙われてるのね、ケイト。上の学年からも狙われるなんて、まったく、あの子はものすご〜く可愛いんだから!
「ふふ、私は幼い頃、よくケイトや兄と一緒に遊んでいましたの。」
「……もしや、デジェネレス辺境伯もレイラが黒髪であることを、知っている??」
「ええ、知ってますよ。幼い時からよくお世話になっていましたから。」
ふふふ、懐かしいなぁ。現在のデジェネレス辺境伯家当主は、私の母の弟にあたる人なんだよね。遊びに行くと、『幼い頃は姉たちに振り回されて本当に大変だったんだ、本当に本当に……』と、死んだ目をしつつも、いつも語ってくれていたし。そこからお母様と昔話に花を咲かせていたなぁ。
「……つまり、デジェネレス辺境伯は、聖女の話を知っていた。それも、かなり詳しいことを。その上で、彼女を守ろうとしたのか。」
ギルバート様は下を向いて、何かもそもそと喋っている。なんだろう??
「あの、ギルバート様??」
私が声をかけると、綺麗で、真剣な色を帯びた紫の瞳と目が合う。
「レイラ、他に知っている人はいるか?この学園内だけではなくて。」
「えーっと、そうですね。デジェネレス辺境伯家の人たちは知ってますかね。それから、もちろんお父様とお母様も知ってます。」
「そうか。使用人たちはどうだ?」
「使用人たち、ですか……」
うーん、さすがに細かいところまではわかんないなぁ。
「多分、なのですが、デジェネレス辺境伯家のところの使用人たちは割とみんな知ってる、と思います。うちの使用人たちも、ほとんどの人が知っているかと。ただ、新しく入った人たちは知らないと思いますね。」
「ん、そうか。あと、神殿関係者で知っている者は誰だ??」
「ああ、神殿関係者で知っている人はいませんかね。」
「……どういうことだ??」
「実は私、神殿で魔力量を測ったとき、黒髪ではなかったんですよ。」
「!!」
めちゃくちゃに驚いているギルバート様。まあ、驚く、かな??
「あのですね、私、生まれたときは金髪だったんです。それが少しずつ黒っぽくなっていきまして。そして10歳の誕生日、とうとう完璧な黒色になったんですよ。」
「そう、なのか……」
「そうなんです。ですから、神殿関係者は私が黒髪であることは知らないはずです。もし私のことを覚えている者がいるとすれば、とても明るい茶髪の子供だった、と。そう答えると思います。」
「………」
何か考えているみたいだけど、どうしたのだろう??
「ギルバート様??」
「……ん、そう、か。ありがとう。」
大丈夫かな??
「いえいえ。あの、それがどうかされたのですか??」
「ん、あなたを守るうえで、知っておいた方が良いことだったんだ。」
ぴゃあぁぁ!守る、とか言われると照れる!!あぁぁ、顔が暑くなってきたよ、やばい。
「あ、ありがとう、ございます。」
「ん。ああ、もうこんな時間か。寮まで送ろう。」
言われて時計を見てみれば、6時半を回っていた。なんか、時間が流れるのが早かったなぁ。しかも、いろんなことが発覚したなぁ。
結果、私に転生特典は無かったわけだけど……
まあ、今まで通り、気ままに生きますか、ね。




