フォーサイス公爵邸(3)
フォーサイス様は、私と2人きりになった部屋で、自ら紅茶を入れてくれた。
その紅茶を飲みながら思う。この人、なんでもさらっとこなせるタイプの人や。うん。だって、私なんかにも気を遣って紅茶入れてくれるし、乙女の夢を叶えてくれちゃうし、魔法使いで強いですし、王太子の側近だから頭もいいのでしょうし。
表情筋以外は素晴らしく有能ですよね??ねえ、表情筋も仕事したら、あなた様は完璧人間になれるよ。ほんと、綺麗な顔してるなぁ。笑ったらすごい破壊力だったもんなぁ。
「「……」」
そんな風にゆっくりとした無言の時間が流れたのち、先に口を開いたのはフォーサイス様だった。
「……レイラ、話がある。」
「はい、なんでしょう、フォーサイス様??」
真っ直ぐに目を見つめられる。ああ、目を逸らせない。本当に、綺麗な紫の瞳。
「……」
ん??あれ??え、なぜそんな目をするの??
「ギル、って呼んで。」
「え!?あの、その、……」
これぞ無言の圧力。綺麗な顔の圧力。
「……もう長い付き合いにはならなそうでしたので、あの、名前で呼んでは失礼なのではないか、と…」
それにお喋り1日目だよね、私たち!!
「そんなことないから。」
そんなことなくないでしょう!?
「俺のこと、ギルって呼んで。」
フォーサイス様は懇願するような目でこちらを見てくる。
うっ!!やめてくれ!!美形の懇願顔、いや、懇願アイとか、耐えられません!!
「わ、わかりました、ギルバート様。」
「違う、ギル。」
「あの、その、ギルバート様で勘弁してください…」
ほんとに!!愛称呼びとかハードル高いて!!愛称呼びは照れるから!!
「……」
無言でこっくりと頷いたギルバート様。ふぅ、勘弁してくれたようだ。
「レイラ。」
「はい、なんでしょう??」
そうだ、そもそも話があるって言ってたもんね。たぶん、聖女うんたらの続きかな。
「レイラのことは、俺が守るから。」
「へ??」
突然どうされましたか!?
「だから、安心していいよ。」
「は??」
いや、あなたは貸し出せないっていわれたばかりでしょう!??
「俺が、個人的に助けたいから。」
はいぃ!??困惑ここに極まれり!!
「え??あの、なんで私を個人的に助けたいのですか??それに、ギルバート様は王太子殿下の側近ですよね??しかも公爵家の嫡男ですよね??私の面倒を見る暇もないくらい忙しいのですよね??」
そう、本来は今も王太子様の側にいるべき人なんじゃなかろうか。それに、私なんかとは縁遠い人のはずだ。たまたま私が倒れたところを支えて、保健室まで連れて行ってくださっただけのことで。
そうだよ、私たちのつながりは、本来そんなもの。
「ん。大丈夫。問題ない。」
「……」
どの辺が問題ないんだろうか……絶対に問題有りまくりだろう。
というか、なんで個人的に私を助ける、なんて言ってくれるのだろう??
「あの、個人的に助けたい、とは、どういうことなのでしょうか??」
私、ギルバート様には迷惑をかける事しかしてないんだけどな……うちの伯爵家に、助けてもらえるような義理とかも無いでしょう。
おかしいなぁ。出会って1日目のはずなんだけどなぁ。ああ、なんではじめましての1日目からお宅訪問してるんだろう……
「……」
ギルバート様はさっきから無言で考え込んでいるようだ。あの、すみません、そこ、考え込むところなんでしょうか??
本当に分からない……
考え終わったのか、ギルバート様と目が合う。
「レイラは特別だから。だから守る。」
まって、ギルバート様。それは勘違いするからやめて。本当に。やめてください。私の心を弄ばないで!!
もちろん口には出せませんよ!!はい、落ち着いて私!!勘違いしたらダメよ。ギルバート様とははじめまして1日目なのよ。深呼吸して、ふぃ〜。はい、大丈夫。私は仏、仏です。
「……ギルバート様、特別、とは、私の髪色が、ですか??」
「違う。」
首を振って否定される。
「レイラの魔力が特別。」
「え??」
魔力に特別なんてあるの??初耳すぎる。
「あの、魔力が特別って、一体どういうことなんでしょうか??」
「……レイラ、手を。」
うっ、ダメージが。だからかっこいいんだって!!声もいいんだって!!天が二物を与えすぎてるよ!!
ドキドキがぁ〜止まれない〜♪
ああ、変な歌ができるくらいにはダメっす。辛いっす。
ギルバート様に言われた通り、私は手を差し出した。するとそのまま手を握られる。
「……あの、ギルバート様??」
こう、無言で手を繋がれて、じーっと見られると照れるのですけれども……
「レイラに触ると、レイラの魔力を感じる。とても暖かくて、穏やかな魔力。言葉にするのは難しいんだけど、大体そんな感じ。」
「??私は、他人の魔力から何かを感じたこととかないのですけれど……」
純粋に、他人の魔力からそんなものを感じたことがない。うん、私にはよくわからない。
「ん。多分、俺が特殊。高魔力保持者だからというのが1番可能性としては高い。それから、俺とレイラの相性の問題。」
えーっと、高魔力保持者なら魔力から何かを感じ取ることもあるのかな??
「それでは、ギルバート様は他の魔力から、同じように何かを感じ取ったりしたことがあるのですか??」
「他の人からは特に何も。俺はレイラから感じたのが初めて。」
ひょえ、まじか。それって、一体どういう仕組み??
「多分、俺とレイラは、とても相性が良い。」
「あの、今もそれは伝わっているのですか??」
私の魔力、ギルバート様に変なことしてないよね??心配なんだけど……
「うん、伝わってる。大丈夫だよ。心配しないで。」
ふぎゃあ!!ギルバート様が、ふわって!!ふわって笑った!!ふわぁ!!好き!!破壊力!!笑った顔好き!!笑ってなくてもイケメンだし、めちゃくちゃ好みの顔だったけど、笑うとさらに好き!!優しいし魔法使えるし頭もいいし、ギルバート様、良い男すぎる!!やばい、ガチで惚れそう。
ん??ギルバート様なんか赤くない??やっぱり私の魔力がなんかやったの!??いやー!!
「、違う、よ。レイラ、あなたは本当におもしろい。」
「???」
えぇ??私がおもしろいですって??ふん、みんな揃ってそんなことばっか言ってくるんだから。なんでなんだろな??私、凡人の中の凡人なのに。凡人は普通におもしろいものなのかな??
「っ、ふふ、はは」
ぎゃあああ!!声出して笑うとか、レアすぎるんじゃないですか!??めっちゃくちゃ素敵なんですけど!!
うぅ〜。これ、勘違いしないようにするのが大変だよ〜。ほんとに惚れてしまうから。ねぇ、そんなに私に気を許さないで??
お願いだよ、素敵な人。私、幸せになりたいのに、あなたを好きになったら、辛いよ。




