フォーサイス公爵邸(2)
「それじゃ、レイラさん。あなたのことについて話すわ。」
先生が場の雰囲気を変えた。すごい、さすが王族だ。
「はい。お願いします。」
「まず、私はあなたが聖女だ、と思ったの。」
「え!??せ、聖女ですか!??」
聖女は予想外だった!!
この世界の聖女は、昔話の中に出てくる程度の存在だ。内容は、この世界にいる魔物が大量に溢れ出てきたときに、聖女様が見事にそれらを殲滅しました、世界には平和が訪れました、その子孫が王族ですよ、みたいな……
まさか、実在してたなんて。そんなこと思いもしなかった。国を治めるために作った逸話だろう、と思ってた。
「ええ。現在、聖女は空想の存在だ、と世間一般には思われている。けれど、聖女は実在していたのよ。しかも、王家に残された古い文献によると、現れた聖女は1人だけではない。たびたび現れ、魔物たちを殲滅してもらってきているの。そして、聖女が現れるのは5000年に1人、と言う割合。その聖女は、代々黒髪黒目の女性が担っている。だから、黒髪黒眼の女性は王家の保護の対象になる。」
まじか!!私、聖女なの!?転生特典きたの!??いや、でも、思った、っていうことは、やっぱり違った、ってこと??
「私が今あなたの髪の毛にキスをしたのは、聖女がどうか、確かめるため。私は、あなたも知っての通り王族でしょ??聖女の子孫である、王族。しかも女。私にはわかるのよ。黒髪黒眼の女性の髪の毛にキスをすると、その人が聖女かどうかが。」
え、それって、どういった仕組みなんですか!??髪の毛にキスするって、なんでそれになったの、確認方法……色々と気になりすぎる……
「それで、あなたにもキスして見たのだけれど、聖女ではないみたいなのよねぇ。」
あ、それじゃあ私、やっぱり一般人なんですね!!
「あの、それでは、私は一般の、ただ単に髪の毛が黒い人、なのでしょうか??」
「そうなるわね。」
やっぱりそうですよね!!
「とりあえずそういうことになるわ。だけど、黒髪はきちんと隠さないとダメよ。」
「え、あの、私が聖女でないのなら、大丈夫なのでは??」
あ、ダメかも。いや、かもじゃなくてダメだよ。
「あの、もしかして、私が聖女だと勘違いする人たちが出てきて、私を利用しようとする人たちが出てくる、ということですか??」
「そういうことよ。」
うわぁ、まじか……
思わず変な顔をしてしまった。いやいや、めんどくさいことこの上ない。聖女じゃないのに聖女だと言われ、力を使えと言われるのか??えーと、聖女、魔物を殲滅したって言ってたよね??え、魔物を殲滅しろ、って魔物の群れの中に放り込まれたら、私、間違いなく死ぬんですけど……
そんなん、ごめん被ってやる!!全力回避だ!!今度こそ長生きしてやる!!
でも、聖女じゃないってことは、別に貴重な存在ではないってことだよね。ただの、髪の毛黒い人。一般市民。そんな人に、フォーサイス様、貸し出さないでしょう。うん、特に守ってもらえる訳ではないだろうな。
「……聖女ではない、ということは、私、自分で自分の身を守らないといけない、ということになりますよね。その、フォーサイス様を借りるわけにもいかないでしょう??」
「そうなるわ。」
「……」
ん??なんか、隣から変な空気を感じるのですが……
ちらっと隣に目線を移すと、なんとなく、本当になんとなくだけど、シンディー先生を睨んでいるような気が……
え、フォーサイス様、なんか怒ってませんか??えっと、気のせい??これがデフォルトなの??ああ、もう、フォーサイス様の前評判は氷の魔導士だから、良くわかんないよ。
とりあえず、今は聞くべきことを聞かなくちゃね。自分の身を守るために。
「あの、その聖女が黒髪黒眼、と言う情報はどのあたりの人たちにまで回っているのでしょうか??」
「そうねぇ。王家はもちろんのことだけれど、公爵家にも文献は残っているでしょう。あとは、貴重な文献を管理しているパリッシュ家は知っているかしら。他は別に隠しているわけでもないから、知っている人は知っている、と言った感じでしょうね。」
うわぁ、誰が知ってて誰が知らないのか、完全にはわからないのかぁ。それもそうだよな。わざわざ隠す必要もないし。逆に、黒髪黒眼の女性がいたら、連れてきなさい、っていう命令くらい出ていてもおかしくないかも。
ふぅ、とりあえずは髪色をできる限り隠して生活するしかないな。
「あら、もうこんな時間。」
先生が時計を見たので、私もそちらに目を向けると、学校が終わってから2時間ほどが経っていた。
「私は一回学園に戻らないといけないから、もう出るわね。それじゃ、あとはレイラさんとギルでゆっくりしていなさいな。レイラさんも、混乱しているでしょう??ギルに分からないことは聞いて大丈夫だから。」
「え、あの、私も……」
「レイラ、話したいことがある。」
私ももうそろそろ帰ります、と言おうとしたらフォーサイス様にそう声をかけられた。え、何ごと??
いや、確かに混乱してはいるから休んでも良いのはありがたいのだけれど、もはやこの衝撃に慣れたというか、今朝の転移の方が衝撃的だったというか……
「ふふ、それじゃ、私は失礼するわ。」
先生は笑顔で去っていった。残ったのは、私とフォーサイス様のみ。えぇ、フォーサイス様、どうしたの??もしかして、今の話に何か追加事項があったのかな??




